エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第五章 ゾーイ・エマーソンの正体

家出は家がないと不成立だ

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 それこそ病院中を捜し回ったけど、どこにも君の姿はなくて……
 気付けば、俺達は私服に着替え、ジェームズがものすごい剣幕で呼び出した自家用ジェットに乗り、飛び立っていた。


「これ、どういうことなんだよ……!?」


 宛もなく飛び立ってから、機内は重苦しい空気に包まれており、終始俺達は無言だった。
 そんな時に、無言の連鎖を断ち切ったのはシンだったのだが、その声は、これ以上ないほど苦痛に満ちたものだった。


「ゾーイは何なんだ? ナサニエルの生徒じゃなかったってか? まさか、あれは、幻だったとでも言うのかよ!?」
「シン、落ち着いて! それに、そのことはこの場の全員がわからないわよ!」
「あ……!! わ、悪かった……」


 興奮状態で、やり場のないその怒りを吐き出すシンから、思わず、俺は目を背けてしまう。
 けど、すぐに真由からの制止の声により、シンの謝罪とともに収まっていた。
 どうして、こんな居心地の悪い空間なのだろうか……


「ゾーイの名前を、見つけられなかったのではないか!? あの膨大な量なら、無理もないと……」
「ハロルド、わかってるでしょ? 私達全員で、少なくとも二十回以上は名簿を確認した。その全部で、ゾーイの名前だけを見逃すなんて……私達は、そこまで間抜けじゃないはずよ」


 気まずい空気を次に破るのは、必要以上に大きなハロルドの声だ。
 しかし、それも真由からの冷静で、苦しげな声に遮られてしまう……
 俺は、普段からは考えられないほどにキツいそんな真由を見て、無理をしてるのだとすぐにわかったのだが、手を握るぐらいしか俺にはできなくて……そんな俺の手を真由はとても強く、握り返してきた。
 ごめんな……俺も全然余裕なくて、これっぽっちもなくて。


「印刷ミスではないのか!? それか、ゾーイのことだから、出席が足りずに進級を逃して……」
「……ハロルド、大丈夫?」


 そんな空気に負けじと、押し黙ってたハロルドがまた声を上げる。
 明るく取り繕うとしてるのが、すごく伝わってきた。
 けど、それも急に萎むように声が聞こえなくなり……不思議に思って振り向けば、ジェームズが俯くハロルドの顔を覗き込んでいて、ハロルドは震えていた。


「何だと言うのだ……こんなこと、誰かのミス以外、まともな説明がつかないではないか!」


 そして、発せられたのは、泣いているのか、怒っているのかわからない喪失感に溢れた心からの叫び。
 初めて聞いたハロルドのその声は、俺の心をまたエグる……


「可能性としては、ずっとゾーイが偽名を使っていたという線が、一番現実的だけれど……」
「けど、何のためにって話だよ。偽名を使ったところで、ゾーイに何か得があるとは思えないし……」


 ハロルドの叫びから、クレアは話題を名簿にゾーイの名前がなかった理由へと移し、それにジェームズも答える。
 誰もが深く傷ついて、ほとんど何も情報がない中で、どうにか手繰り寄せようとする。
 生徒名簿も、出生記録もないなら、ゾーイ・エマーソンという人間は、この空島に存在してないっていうことと同じなわけで……ダメだ、全然わからないや。


「本当に、そんな単純な話なのか」


 全員が必死に頭を動かしつつも、苦悶の表情を浮かべる中で、やけに機内に響き渡るような低い声を上げたのは、アランだった。


「ゾーイが消えた。昴に検査だと言い残していったが、蓋を開けてみれば、検査どころか、カルテだけじゃなく病院のどこにも痕跡がないときた」


 それこそ、アランは名簿でゾーイの名前を必死に探していた時から、一言も発しておらず、何だか久しぶりにその声を聞いた気さえする。


「こんなの、普通じゃないだろ……!!」


 けど、その声をそんな悲痛な叫びで聞きたくはなかったよ……
 アランは窓に拳を打ち付けると、天を仰いだ。
 そうだよ、こんな状況はおかしいよ。


「とにかく、ゾーイが嘘をつき、私達の前からいなくなったことは事実よ。どうにか、捜し出さないと……ずっと、嫌な予感が止まらないのよ」
「そうね。何だか、上手いこと説明はできないけど、ゾーイはとんでもないことを考えてるような気がする……!!」


 クレアは、今にも倒れそうな顔でそう呟くと、真由もますます強く俺の手を握りながらそう告げる。
 とにかく、まずはゾーイの行き先を考えないと……どこに行った?
 地上ではどこにいることが多かった?
 体力お化けで、あちこち走り回ってたしな……あ、けど、寝るのは結構好きだったよな?
 特に、大きな面倒事が片付くと、すぐ帰って寝たがる癖が……そうだ。


「……帰ったんだ」


 気付けば、俺の考えは俺自身で、音として吐き出していた。


「昴、何かわかったのか!?」
「帰ったんだよ。ゾーイは、面倒事が片付いたから、家に帰ったんだ! ゾーイは、自分の出身島に向かったんだ!」


 すぐに反応したサトルに、俺は無我夢中で叫んでいた。
 突拍子もないけど、空島でのゾーイの行動がわからないのなら、地上でのゾーイの行動から考えるしかないだろ!


「爺や! 頼む、アイランド77の空島に向かって!」
「承知しました、お坊ちゃま」


 俺の言葉を聞いて、全員がまるで雨が上がったような顔をする。
 すぐさま、ジェームズは自家用ジェットを運転してくれている、爺やと呼んだその人に行き先を指示したのだが……


「あの、お坊ちゃま? つかぬ事をお聞きしますが……」
「え、どうかした!?」


 すぐに爺やさんは、ジェームズに困惑したような声を上げていた。


「ナビによれば、アイランド77は廃島と出ておりますが……」


 その昔、環境汚染などの理由で人間が住めなくなった空島を、いつしか廃島と呼ぶようになった。
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