エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第五章 ゾーイ・エマーソンの正体

君は生まれていなかった

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「おっと……? 何かの話し合いの、最中だったのかな?」
「あ、全然! 普通の世間話をしてただけなので! どうぞ!」


 そう言いながら、明らかにこの大人数の大集合に面食らうその人に対して、俺は慌てて否定する。
 その人は、俺達が目覚めてから今回の事件を中心になって捜査してくれてる刑事さんだ。
 他の大人達が苦い顔をする中、この閉鎖的環境の中で俺達にもできる限りの情報を与えてくれるなど、とても親身になってくれている人だ。


「あ、僕達、お邪魔ですよね? とりあえずは、一旦外に出て……」


 何やら神妙な面持ちの刑事さんのことを察し、サトルを筆頭にみんなが病室を出て行こうとしたのだが……


「いや、ちょうど良かった。見たところ全員揃っているね? 君達に聞きたいことがあるんだ」
「僕達、全員にですか……?」
「そうだ。午前中の事情聴取とは、また違う内容でな……まずは座ってくれ」


 それを他ならぬ刑事さん本人が引き止め、しかも俺達全員に話があると言う。
 思わず、聞き返したサトルと目を合わせるが、それで何かがわかるわけもなく、促されるままに俺達は座った。


「単刀直入に聞くのだが、ゾーイ・エマーソンと、誰か連絡を取ってはいないだろうか?」


 やっとの思いという様子で話を始めた刑事さんだが、その内容に俺の高まった緊張は一瞬で消え去っていた。


「え、ゾーイとですか?」
「ああ……昨日の夜から居所がわからなくなっているから、心配でね?」


 またまた聞き返すサトルだが、その後の刑事さんの言葉は、完全に俺達には寝耳に水だった。
 途端に、みんなの視線が俺に集まったのもわかった……え、何だって?


「は? 夜からって……? あの……ゾーイなら、さっきまでここにいました」


 意味がわからず、俺は何かの間違いかと思って、事実を吐き出した。


「何……? ここに来たのか!?」
「そうです……会って、話しました」
「何を話したんだ!?」
「あ、特に内容のあることは……すぐに検査があるからって出て行ったので、あまり話もしてなくて……」
「検査?」
「ゾーイが言ってたんです。それで、今看護師の人に病室を調べてもらってて」


 けど、俺の言葉に対する刑事さんのあまりの勢いある反応に、俺はたじろいでしまう。
 さらに詰め寄られ、どうにか話をするのだが、完全に俺は追い詰められている犯人の構図で……
 というか、またゾーイが何かをやらかしたのだろうか? それで調べてる?
 嫌な予感に全員と目を合わせて、苦笑しながらありのままに話をする俺だが、急に刑事さんの勢いがなくなり、不思議に思って視線を移すと、そこには眉間にシワを寄せて考え込む姿があって……


「……もしや、調べた時、ゾーイ・エマーソンのカルテの情報が出てこなかったのではないか?」


 そして、発せられた言葉に、俺達は音を失くしていた。


「そうなんだな?」
「え? あ、あの……?」
「一つ確認なんだが、ゾーイ・エマーソンはナサニエルの史学科に通う、第二学年の代の生徒で間違いはないか?」
「え? あ、間違いはないと思います」
「それを証明できるものはあるか?」
「しょ、証明ですか!?」


 その無言を肯定と受け取ったのか、狼狽える俺達を他所に、刑事さんは次々と意図がわからない話をし出す。
 間違いはないか? 証明? この人は何を言っているのだろう。


「えっと……ちょっと、今すぐってのは難しいですね。あ、けど、確かにゾーイ本人から聞いただけですが、あの状況でナサニエルにいたので、生徒であることを疑う余地はないかなと……」
「そうだな、普通はその通りだ」
「ゾーイが何か……?」


 すると、突然で頭がついていかない俺を見兼ねて、サトルがフォローをしてくれる。
 そんな完璧なサトルの答えにも、刑事さんは難しい顔を崩さずで、その空気に耐えられなくなったサトルが、恐る恐る確信を尋ねたのだが……


「いや、実に奇妙な話なんだが……ナサニエルの史学科に、ゾーイ・エマーソンという生徒名簿は存在しないんだ」


 そんな答えを、この場の誰が予想できようか……?


「え、何かの間違いじゃ……!?」
「そうです! だって、あんなに歴史に詳しいなんて、史学科以外の生徒だとは考えられ……」
「ナサニエルの生徒名簿のコピーだ。自分達の、その目で、こういうことは確かめた方がいいかと思ってな」


 全員が言葉を発せない中で、サトルはどうにか言葉を絞り出す。
 それに俺も反射的に続いて反論をしたのだが、その言葉は遮られ、代わりに俺達の目の前には、山積みになった資料が置かれた。
 意味不明だ、無茶苦茶だ……俺達は刑事さんの言葉を聞いても半信半疑で、とりあえずという感じで、目の前の資料を手に取った。











「どうなってるんだ……?」


 気付けば、調べ始めてから三時間が経過していたが、俺達はまだゾーイの名前を見つけられていなかった。


「刑事さん、すみませんが……これ、本当にナサニエルの生徒の全員分の生徒名簿ですか……!?」
「ああ、間違いないよ。俺も一人で十回は調べたんだが、ゾーイ・エマーソンの名前はどこにもなかった」


 俺は生徒名簿の中からゾーイの名前を探すことをやめずに、隣のサトルと刑事さんの会話を聞いていた。
 見なくてもわかる、今サトルがどんな表情をしているか……
 それに他のみんなの顔色も、みるみる真っ青になっているのがわかった。
 早く見つけないと、早くゾーイの名前を見つけて、さっさとこんな重苦しい空気は終わらせないと……


「それと、もう一つ。君達にゾーイ・エマーソンについて、報告しておかなければいけないことがある。さすがに、これはおかしいと思って、少しツテを使って調べたんだが……」


 ある、見落としてるだけだ、こんなに大量の名前が羅列してるんだもの。
 ゾーイがここにいたら、もっと効率良くできないのとか怒りそうだな……
 けどさ、アナログだけど、一つずつ丁寧に探すのが確実だと思うんだよ。










「ゾーイ・エマーソンという人間の、空島での出生記録がないんだ」
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