245 / 257
第五章 ゾーイ・エマーソンの正体
君は生まれていなかった
しおりを挟む
「おっと……? 何かの話し合いの、最中だったのかな?」
「あ、全然! 普通の世間話をしてただけなので! どうぞ!」
そう言いながら、明らかにこの大人数の大集合に面食らうその人に対して、俺は慌てて否定する。
その人は、俺達が目覚めてから今回の事件を中心になって捜査してくれてる刑事さんだ。
他の大人達が苦い顔をする中、この閉鎖的環境の中で俺達にもできる限りの情報を与えてくれるなど、とても親身になってくれている人だ。
「あ、僕達、お邪魔ですよね? とりあえずは、一旦外に出て……」
何やら神妙な面持ちの刑事さんのことを察し、サトルを筆頭にみんなが病室を出て行こうとしたのだが……
「いや、ちょうど良かった。見たところ全員揃っているね? 君達に聞きたいことがあるんだ」
「僕達、全員にですか……?」
「そうだ。午前中の事情聴取とは、また違う内容でな……まずは座ってくれ」
それを他ならぬ刑事さん本人が引き止め、しかも俺達全員に話があると言う。
思わず、聞き返したサトルと目を合わせるが、それで何かがわかるわけもなく、促されるままに俺達は座った。
「単刀直入に聞くのだが、ゾーイ・エマーソンと、誰か連絡を取ってはいないだろうか?」
やっとの思いという様子で話を始めた刑事さんだが、その内容に俺の高まった緊張は一瞬で消え去っていた。
「え、ゾーイとですか?」
「ああ……昨日の夜から居所がわからなくなっているから、心配でね?」
またまた聞き返すサトルだが、その後の刑事さんの言葉は、完全に俺達には寝耳に水だった。
途端に、みんなの視線が俺に集まったのもわかった……え、何だって?
「は? 夜からって……? あの……ゾーイなら、さっきまでここにいました」
意味がわからず、俺は何かの間違いかと思って、事実を吐き出した。
「何……? ここに来たのか!?」
「そうです……会って、話しました」
「何を話したんだ!?」
「あ、特に内容のあることは……すぐに検査があるからって出て行ったので、あまり話もしてなくて……」
「検査?」
「ゾーイが言ってたんです。それで、今看護師の人に病室を調べてもらってて」
けど、俺の言葉に対する刑事さんのあまりの勢いある反応に、俺はたじろいでしまう。
さらに詰め寄られ、どうにか話をするのだが、完全に俺は追い詰められている犯人の構図で……
というか、またゾーイが何かをやらかしたのだろうか? それで調べてる?
嫌な予感に全員と目を合わせて、苦笑しながらありのままに話をする俺だが、急に刑事さんの勢いがなくなり、不思議に思って視線を移すと、そこには眉間にシワを寄せて考え込む姿があって……
「……もしや、調べた時、ゾーイ・エマーソンのカルテの情報が出てこなかったのではないか?」
そして、発せられた言葉に、俺達は音を失くしていた。
「そうなんだな?」
「え? あ、あの……?」
「一つ確認なんだが、ゾーイ・エマーソンはナサニエルの史学科に通う、第二学年の代の生徒で間違いはないか?」
「え? あ、間違いはないと思います」
「それを証明できるものはあるか?」
「しょ、証明ですか!?」
その無言を肯定と受け取ったのか、狼狽える俺達を他所に、刑事さんは次々と意図がわからない話をし出す。
間違いはないか? 証明? この人は何を言っているのだろう。
「えっと……ちょっと、今すぐってのは難しいですね。あ、けど、確かにゾーイ本人から聞いただけですが、あの状況でナサニエルにいたので、生徒であることを疑う余地はないかなと……」
「そうだな、普通はその通りだ」
「ゾーイが何か……?」
すると、突然で頭がついていかない俺を見兼ねて、サトルがフォローをしてくれる。
そんな完璧なサトルの答えにも、刑事さんは難しい顔を崩さずで、その空気に耐えられなくなったサトルが、恐る恐る確信を尋ねたのだが……
「いや、実に奇妙な話なんだが……ナサニエルの史学科に、ゾーイ・エマーソンという生徒名簿は存在しないんだ」
そんな答えを、この場の誰が予想できようか……?
「え、何かの間違いじゃ……!?」
「そうです! だって、あんなに歴史に詳しいなんて、史学科以外の生徒だとは考えられ……」
「ナサニエルの生徒名簿のコピーだ。自分達の、その目で、こういうことは確かめた方がいいかと思ってな」
全員が言葉を発せない中で、サトルはどうにか言葉を絞り出す。
それに俺も反射的に続いて反論をしたのだが、その言葉は遮られ、代わりに俺達の目の前には、山積みになった資料が置かれた。
意味不明だ、無茶苦茶だ……俺達は刑事さんの言葉を聞いても半信半疑で、とりあえずという感じで、目の前の資料を手に取った。
「どうなってるんだ……?」
気付けば、調べ始めてから三時間が経過していたが、俺達はまだゾーイの名前を見つけられていなかった。
「刑事さん、すみませんが……これ、本当にナサニエルの生徒の全員分の生徒名簿ですか……!?」
「ああ、間違いないよ。俺も一人で十回は調べたんだが、ゾーイ・エマーソンの名前はどこにもなかった」
俺は生徒名簿の中からゾーイの名前を探すことをやめずに、隣のサトルと刑事さんの会話を聞いていた。
見なくてもわかる、今サトルがどんな表情をしているか……
それに他のみんなの顔色も、みるみる真っ青になっているのがわかった。
早く見つけないと、早くゾーイの名前を見つけて、さっさとこんな重苦しい空気は終わらせないと……
「それと、もう一つ。君達にゾーイ・エマーソンについて、報告しておかなければいけないことがある。さすがに、これはおかしいと思って、少しツテを使って調べたんだが……」
ある、見落としてるだけだ、こんなに大量の名前が羅列してるんだもの。
ゾーイがここにいたら、もっと効率良くできないのとか怒りそうだな……
けどさ、アナログだけど、一つずつ丁寧に探すのが確実だと思うんだよ。
「ゾーイ・エマーソンという人間の、空島での出生記録がないんだ」
「あ、全然! 普通の世間話をしてただけなので! どうぞ!」
そう言いながら、明らかにこの大人数の大集合に面食らうその人に対して、俺は慌てて否定する。
その人は、俺達が目覚めてから今回の事件を中心になって捜査してくれてる刑事さんだ。
他の大人達が苦い顔をする中、この閉鎖的環境の中で俺達にもできる限りの情報を与えてくれるなど、とても親身になってくれている人だ。
「あ、僕達、お邪魔ですよね? とりあえずは、一旦外に出て……」
何やら神妙な面持ちの刑事さんのことを察し、サトルを筆頭にみんなが病室を出て行こうとしたのだが……
「いや、ちょうど良かった。見たところ全員揃っているね? 君達に聞きたいことがあるんだ」
「僕達、全員にですか……?」
「そうだ。午前中の事情聴取とは、また違う内容でな……まずは座ってくれ」
それを他ならぬ刑事さん本人が引き止め、しかも俺達全員に話があると言う。
思わず、聞き返したサトルと目を合わせるが、それで何かがわかるわけもなく、促されるままに俺達は座った。
「単刀直入に聞くのだが、ゾーイ・エマーソンと、誰か連絡を取ってはいないだろうか?」
やっとの思いという様子で話を始めた刑事さんだが、その内容に俺の高まった緊張は一瞬で消え去っていた。
「え、ゾーイとですか?」
「ああ……昨日の夜から居所がわからなくなっているから、心配でね?」
またまた聞き返すサトルだが、その後の刑事さんの言葉は、完全に俺達には寝耳に水だった。
途端に、みんなの視線が俺に集まったのもわかった……え、何だって?
「は? 夜からって……? あの……ゾーイなら、さっきまでここにいました」
意味がわからず、俺は何かの間違いかと思って、事実を吐き出した。
「何……? ここに来たのか!?」
「そうです……会って、話しました」
「何を話したんだ!?」
「あ、特に内容のあることは……すぐに検査があるからって出て行ったので、あまり話もしてなくて……」
「検査?」
「ゾーイが言ってたんです。それで、今看護師の人に病室を調べてもらってて」
けど、俺の言葉に対する刑事さんのあまりの勢いある反応に、俺はたじろいでしまう。
さらに詰め寄られ、どうにか話をするのだが、完全に俺は追い詰められている犯人の構図で……
というか、またゾーイが何かをやらかしたのだろうか? それで調べてる?
嫌な予感に全員と目を合わせて、苦笑しながらありのままに話をする俺だが、急に刑事さんの勢いがなくなり、不思議に思って視線を移すと、そこには眉間にシワを寄せて考え込む姿があって……
「……もしや、調べた時、ゾーイ・エマーソンのカルテの情報が出てこなかったのではないか?」
そして、発せられた言葉に、俺達は音を失くしていた。
「そうなんだな?」
「え? あ、あの……?」
「一つ確認なんだが、ゾーイ・エマーソンはナサニエルの史学科に通う、第二学年の代の生徒で間違いはないか?」
「え? あ、間違いはないと思います」
「それを証明できるものはあるか?」
「しょ、証明ですか!?」
その無言を肯定と受け取ったのか、狼狽える俺達を他所に、刑事さんは次々と意図がわからない話をし出す。
間違いはないか? 証明? この人は何を言っているのだろう。
「えっと……ちょっと、今すぐってのは難しいですね。あ、けど、確かにゾーイ本人から聞いただけですが、あの状況でナサニエルにいたので、生徒であることを疑う余地はないかなと……」
「そうだな、普通はその通りだ」
「ゾーイが何か……?」
すると、突然で頭がついていかない俺を見兼ねて、サトルがフォローをしてくれる。
そんな完璧なサトルの答えにも、刑事さんは難しい顔を崩さずで、その空気に耐えられなくなったサトルが、恐る恐る確信を尋ねたのだが……
「いや、実に奇妙な話なんだが……ナサニエルの史学科に、ゾーイ・エマーソンという生徒名簿は存在しないんだ」
そんな答えを、この場の誰が予想できようか……?
「え、何かの間違いじゃ……!?」
「そうです! だって、あんなに歴史に詳しいなんて、史学科以外の生徒だとは考えられ……」
「ナサニエルの生徒名簿のコピーだ。自分達の、その目で、こういうことは確かめた方がいいかと思ってな」
全員が言葉を発せない中で、サトルはどうにか言葉を絞り出す。
それに俺も反射的に続いて反論をしたのだが、その言葉は遮られ、代わりに俺達の目の前には、山積みになった資料が置かれた。
意味不明だ、無茶苦茶だ……俺達は刑事さんの言葉を聞いても半信半疑で、とりあえずという感じで、目の前の資料を手に取った。
「どうなってるんだ……?」
気付けば、調べ始めてから三時間が経過していたが、俺達はまだゾーイの名前を見つけられていなかった。
「刑事さん、すみませんが……これ、本当にナサニエルの生徒の全員分の生徒名簿ですか……!?」
「ああ、間違いないよ。俺も一人で十回は調べたんだが、ゾーイ・エマーソンの名前はどこにもなかった」
俺は生徒名簿の中からゾーイの名前を探すことをやめずに、隣のサトルと刑事さんの会話を聞いていた。
見なくてもわかる、今サトルがどんな表情をしているか……
それに他のみんなの顔色も、みるみる真っ青になっているのがわかった。
早く見つけないと、早くゾーイの名前を見つけて、さっさとこんな重苦しい空気は終わらせないと……
「それと、もう一つ。君達にゾーイ・エマーソンについて、報告しておかなければいけないことがある。さすがに、これはおかしいと思って、少しツテを使って調べたんだが……」
ある、見落としてるだけだ、こんなに大量の名前が羅列してるんだもの。
ゾーイがここにいたら、もっと効率良くできないのとか怒りそうだな……
けどさ、アナログだけど、一つずつ丁寧に探すのが確実だと思うんだよ。
「ゾーイ・エマーソンという人間の、空島での出生記録がないんだ」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる