エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第四章-⑵ ナサニエル墜落事件の真相

必ず帰るから待っていて

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「納得しろとは言わないが、受け入れてくれると助かる」


 頭を下げたアランは、群衆に向かって静かにそう告げる。
 そこまで大きな声でもないのに、妙に響いた気がするのは、その発言者がアランということが関係しているだろう。


「ね、ねえ? あれって……アラン・ロジャーだよね?」
「え? あ、あー、人違いか!?」
「それはねえな……アラン・ロジャー以外に、あんな青髪の奴はいないだろ」


 ほら、静まっていた群衆もあっという間に騒がしさを取り戻した。
 おそらく、目の前の光景が信じられなくて、困惑の声が上がってるんだろう。
 確かに、入学式当日に暴力事件を起こして数十人を病院送りにした不良のレッテルを貼られた上に、当の本人も無口で目付きが悪くて、何を考えているのかがわからない誰もが恐れる存在だっていうのが、アランの印象だ。
 俺も最初の頃は話しかけることも、情けないけどビビってたな、けど……


「今回のこの事態を招いたのは、完全に俺達のエゴで、信頼の問題だ。はっきり言って、俺は誰を一番信頼してるか、命を預けられるかと問われれば、迷わず、この処刑台に上がってる奴ら全員の名前を上げる。悪いが、俺に限って言えば、この作戦は、こいつらじゃなければ成り立たないとすら思っている」


 アランは頭を上げて、見下ろす群衆にはっきりとそう言ったのだ。
 泣きそうになるのをどうにかこうにか堪えたのは、我ながら懸命だった。
 他のみんなも、アランの言葉に目を赤くしてるし……シン、ジェームズ、菜々美に関しては完璧に泣いてる。
 俺達がこんなに嬉しいんだから、群衆の奴らなんて意味わからないだろうな。
 孤高の存在で、血も涙はもちろん、情けさえもないって言われてるアラン・ロジャーが、平凡な俺達に命を預けられるって、言ってんだから……


「けど、それと同時にお前らが、俺達のことをそこまで信頼してないってことは重々承知してるつもりだ。何せ、俺達とお前らにはナサニエルを出てからの空白の数か月間があるからな……けど、俺は生憎、話しをするってことがどうにも苦手なんだ。だから、頭を下げる。この行動の意味と覚悟ってやつを、汲み取ってくれると助かる。それだけだ……」


 ああ、本当に俺の周りの人間っていうのは、どいつもこいつも馬鹿みたいにかっこいい奴ばっかりだ……
 群衆の奴らは知らないだろうな?
 アランがどんなに、男らしくて、仲間思いで、優しくなったか……いや、アランは最初から、誰より男らしくて、仲間思いで、優しかったな。
 それを示すことが、不器用で、人より誤解されやすかっただけだ。
 アラン・ロジャーって男は、仲間のためなら、平気で自分がどう思われたって構わないって思うし、いつも全力で仲間を守ってくれるような人間だよ。


「鎮まりたまえ! まだ、私達の話は終わってはいないぞ!」


 そして、もう一人だ……見違えるほど堂々とするようになったよな?


「私達はまだまだ未熟だ! そのことを偽るつもりはないが、これだけはどうか信じてはくれないだろうか!」


 ハロルドの力強い言葉、一言、一言に心からの気持ちが込められているのが伝わってくる。
 一歩、前に出たハロルドの背中を、アランは笑いながら叩いて、元いた場所へと戻っていく。
 それって、この後のことはハロルドに任せたってことだよな?
 俺も……俺達も、それには賛成だよ。


「空島に帰り、また元通りの平和な日々を取り戻したいと、君達と同じ気持ちを抱いている! そして、私は、君達に空島の景色を再び見せると、それを必ず叶えてみせると……この、ハロルド・早乙女の名のもとに誓ったのだ! すべての不安や不満は、私にぶつけてくれ! 頼む! どうか……信じて、待っていてはくれないだろうか!」


 言い切った、普段から言い負かされてばっかりだったハロルドが、今回は最後まで言い切った……まあ、今回は口を挟む隙なんてなかったな。
 なあ、ハロルド? 俺は、君に謝らなきゃいけないことがあるんだ。
 初めて会った時、俺はハロルドのことを軽視していた。
 よく口が回るけど、それだけで実力が伴わなくて、何か威厳がない奴だなって思ってたんだ。
 けど、間違ってたよ……お前は、誰よりも必要な存在だったんだ。
 空気が読めなくてすぐ誰かの逆鱗に触れるし、すぐパニックになるし、怖がりのくせに変なとこで強がりだし……
 そんな感じで、まだまだダメダメなとこは出てくるけど、それ以上にハロルドは、その場にいるだけで雰囲気を明るくしてくれるって長所がある。
 ハロルドもゾーイとは違う意味で、その場の空気を一瞬で覆してしまう能力を持っている。
 今回のハロルドは、その能力を遺憾なく発揮したな。
 空回りしたって、どんな時でも一所懸命なハロルドの言葉だったから、群衆は信じたんだ……
 その証拠に、もうどこにも、不平不満を言ってる奴なんていなかった。


「まあ、少し待ってな。さっさと首相の首、へし折って来るからさ」


 すると、ずっと黙ってたのに、ここにきて満を持してと言うか?
 言ってることは物騒だけど、君の声は本当にすごく安心する……案の定、君はニヤリと笑っていた。
 懐かしいな……地上に落ちてすぐ、ナサニエルで君が群衆を言い負かした時のことを思い出すよ。
 あの時は、君を群衆の中から見上げたり、背中に隠れているだけだった俺達だけど、今なら少しは君の力になれるよ。

 そのゾーイの言葉に対し、割れんばかりの歓喜の声が空を突きぬけたのは言うまでもなかった。
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