エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

文字の大きさ
220 / 257
第四章-⑵ ナサニエル墜落事件の真相

それはとても勇気のいること

しおりを挟む
「私達のことが気に入らないのは、百歩譲ってしょうがないわ! けど、こんな大きい石を投げて、当たりどころが悪かったらどうなるか考えられないぐらい頭の悪い人間がいるのよね!? 本当に、信じられないわ!」


 気付いた時には真由は処刑台から身を乗り出す勢いで、群衆に向かって怒りを爆発させまくっていた。
 慌てて最大の被害者であるはずのジェームズとシンが、真由のことを抑えてくれなかったら、今頃の真由は群衆の中に飛び込んでいただろう……


「真由!? 僕が言うのもあれだけど、全然大丈夫だよ!?」
「そ、そうだ! 何だろな……幸いなことにジェームズは無事だしよ? 俺も背中が痣になるとかで済むと思うし……」
「二人は黙っててくれないかしら!?」
「ご、ごめん……!!」
「俺達、被害者のはずだけど!?」


 まあ、真由の怒りは思ってたよりも相当なようで、ジェームズとシンがそれは必死こいて真由の怒りを宥めてるけど、逆になぜか真由に二人がブチ切れられるという謎な状況に陥っている。
 おまけにだ、真由があまりにもブチ切れてるから、当事者のはずのジェームズとシンをはじめとして、俺達は完全に自分の中の怒りを忘れてしまっている。
 俺達でさえそんななのだから、真由のこんな状態を初めて見た群衆はそれは怯えていた……
 最近では、すっかり真由は医療科のリーダーとしての活躍から、現代に蘇ったナイチンゲールだとか言われて、人気爆発してたからな、ギャップかな?
 個人的には、そんなミーハーな奴らにざまあみろと言いたいとこだけどね、彼氏はあくまで俺だし。


「昴、彼氏でしょ? 止めなよ……」
「それを言うなら、菜々美だって真由の親友だろうよ……」
「……触らぬ真由に祟りなしだな」


 すると、菜々美が横から、俺の脇腹を小突きながらそう言ってくるので、丁重に受け流しておいた。
 その後の望の言葉の通り、こうなった真由を止めることは難しいんだ、時が過ぎるのを待とう……うん。
 けど、ずっと一緒だけど、真由もこの数か月で変わったと思う。
 一見すると、誰とでも分け隔てなく仲良くなれる真由だけど、割と人から嫌われることを恐れて、引っ込み思案で人に気を遣いすぎるところがある。
 だから、こんな風に我を忘れてその他大勢に怒り狂うなんて、よっぽど気心の知れた相手でなければありえなくて……
 それほど、真由の中で、他人にどう思われようと大事な仲間を傷付けられたことが許せなかったんだろうな。


「真由、頭冷やせって」
「はあ!? 私は十分に冷静よ、昴!」
「そんなわけないだろ……」


 けど、さすがに、そろそろ落ち着かせようと思って声をかけるが、俺の声に振り返った真由の顔は見たことないほどに怒りに満ちたものだった。
 それを見た全員の顔が引きつっていることが、見なくてもわかる……
 とりあえず、俺は真由を後ろに下げて諭そうと思ったのだが、その前に意外な人物によって事態は終わりを告げることになる。


「真由、そのぐらいにしておけ」


 真由の左肩に手を置き、淡々とそう忠告したのは……アランだった。


「気持ちはわかる。とりあえず、シンの背中を診てやってくれ」
「……わかった、ごめん」
「お前は、何も悪くないだろ。この場は俺が引き継ぐ」


 静かだけど、重たく響き渡るアランの言葉の一つ一つに、緊張が走る。
 アランの言葉に対し、真由はバツが悪そうに後ろに下がってきた。
 しかし、そんな真由に投げかけられたアランの声は、これ以上ないほど優しく穏やかなものだったことは確かだ。
 思わず、真由は振り返ったし、慌てて俺達もアランに視線を移したのだが、見えたのは背中だけで、アランがどんな表情をしていたのかはわからなかった。
 けど、群衆から放たれる空気は俺達のそれとは打って変わって、重く息が詰まりそうになるもの……


「俺達という存在に、不満があるか?」


 心臓が飛び出そうになるのは、本当に久しぶりだった。
 アランのその言葉で、空気が変わる。
 きっと、群衆にはさっきの真由とは桁外れのプレッシャーと恐怖が、そこら中に蔓延していることだろう。
 まるで、地の底から這いずり出てくるような、不気味な感覚だ。
 その証拠に、さっきまでは不平不満を好き勝手に発言していたのであろう連中の顔色が、わかりやすく悪くなってる。
 この処刑台から見下ろしててもわかるくらいだから、数人は確実にあと数秒で倒れても不思議じゃないほどだ……
 ゾーイとはまた別の種類の怖さが、アラン・ロジャーにはある。
 さっき真由に、この場は引き継ぐって言ってたけど……
 そうやって、俺が必死に冷静を装って考えている間に、事態は思わぬ展開へと進んでいた。
 俺はその光景に……いや、誰もが己のの目を疑っただろう。


 あの、アラン・ロジャーが、群衆に頭を下げているなんて――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...