エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

文字の大きさ
224 / 257
第四章-⑵ ナサニエル墜落事件の真相

最強とは弱さを知ること

しおりを挟む
「そうだよな……未来なんて、どうなるのか、わからないよな」


 そろそろ、お開きにしようかなんて空気が流れていたにも関わらず、俺達はそこから大人になってからの夢を飽きるほど話し合った。
 空島を動かす立場になりたいとか、早く結婚したいとか、平凡でいいから静かに暮らしたいなんてのもあって、どの話を聞いても夢しかなかった。
 そんなに騒がしくしていたのに、ゾーイは奥で眠ったままだ……正直、君の未来が俺は一番気になるけどね?
 ずっと先頭に立って、俺達を生かせてきてくれたゾーイ・エマーソン。
 君なら、何を語る? 未来より今のことでしょうよとか言って、興味なさそうに吐き捨てるかな?
 もし、君が未来というものを思い描くのだとすれば、それはどんなもので、そこに俺達はいるだろうか?
 そんなことを考えていた時だ、普段とは想像できないほどの暗い声でサトルが呟いたのは……


「サトル? どうかしたか?」
「は……ええ!? 声に出してたか!?」
「ま、まあな……」


 無意識だったのか? サトルは真っ青になって、珍しくアワアワと慌て出す。
 そんな珍しい光景に、他のみんなも目ざとく気付き、何だ何だと寄ってくる始末で、さらにサトルはパニックだ。
 何だか、申し訳ないことしたか……?


「ほ、本当に! 何でもないから!」
「待てって、そりゃねえよ。てか、何かあるから、そんな騒いでんだろ?」
「あたし達の仲じゃん? 吐いた方がスッキリするよ~?」
「あ、いや、本当にそんな面白いことではないから……」
「サトル。ここに来て、私達は面白い話を求めてるわけじゃないから。大丈夫だって、ねっ?」


 ブンブンと大げさなほど手を振って話を逸らそうとするサトルだが、デルタとソニアがすかさず食い下がった。
 それでも負けじと若干挙動不審に陥るサトルだが、菜々美が穏やかに諭す。
 それにサトルは少し身じろいでいた。


「本当にあれだけど……僕、不安なんだよ。空島に帰った後って、どうなるのかとか、ずっと考えちゃってて……」


 やがて、諦めたように、サトルは耳をよく済ませなきゃ聞こえないぐらいの声量で、俯きながら話し始めた。


「今は作戦に集中しなきゃって思ってるけど……すべてが終わっても、問題は山積みだよなとか考えてると、もうずっと胃が痛すぎて……」


 そして、その内容はサトルからの弱音というものだった。


「それに、我ながら、こんなこと話すほどに弱ってるんだなとか……」
「サトル? それは違うよ」


 終始、サトルは俯いて、時々自虐的に笑いながら話を進めた。
 自分が情けなくてしょうがないと、呆れられやしないかと恐れているような目をしていた。
 だから、俺はすぐ否定した……そんなことを思ってほしくなかったから。


「え、昴?」


 サトルは俺の言葉に、驚いたような間抜けな声を出した……サトル、違うよ。


「お前は弱くなったんじゃないよ。お前はさ、今まで、人にほとんど頼らずに生きてきただろ? そんな人間が人を頼るってことだけでも、すごい勇気がいると思うんだ……」


 どうやったら、目の前の親友に伝わるのか考えながら話してるけど、俺の言葉はまとまりがなくて……
 それでも、サトル以外のみんなは俺の言わんとしてることを、わかっているようで、少しニヤついていた。
 いやいや、わかってるなら、少しは助け舟出してくれよな?
 まあ、目の前の肝心のサトルは、終始はてなマークを浮かべてるけどな?
 お前は弱いわけじゃないよ、サトル。


「サトル、お前は俺達を頼った、寄り添ってほしいと弱音を吐いたんだよ。自分の弱い部分を見せた……それって、もうお前は強がりをやめたって証だよ」


 雨野サトルと出会った時のことを、俺は昨日のことのように覚えている。
 ああ、こういう奴が選ばれた人間って奴なんだなと……初対面にして、あっさりと敗北感を抱いた。
 サトルは眉目秀麗という言葉が本当に似合う奴で、俺とは住む世界が違うんだろうなと思っていたのに、そんな俺の予想に反して、俺達はものすごく仲良くなった。
 面倒見が良くて、飾らない性格で、常に輪の中心にいるようなサトル、一方で俺は、可もなく不可もなくなその他大勢の平凡な存在。
 俺はサトルには絶対に敵わないんだろうなと、どこかで思っていたけど……それもそのはずだ。
 サトルと俺とでは、人生におけるスタート地点ってものが違ったんだ。
 一国の王子として、背負っている十字架やプレッシャーなんかは、とても俺には耐えられる気がしないもの……
 サトルは常に完璧な人間に見えていたけど、そう周りに見せていただけで、愚痴や弱音を吐くこと、人を頼ることを許されない環境だったんだよな?
 だから、不謹慎だけど、お前の弱音を聞けて、俺は……きっと、この場にいる他のみんなも、すごく嬉しいと思うぞ?


「そっ、か……あれ? 何でだ? どうして、僕は泣いて……!!」


 俺の下手くそな言葉を理解したのかはわからないけど、サトルは無意識に涙が溢れていた。


「というか、嫌なことがあったら、また空から落ちておいでよ」
「まあ、これを言うと不謹慎なのかもだけど、私達はいつでも歓迎するわ」


 そんな時、レオとモカは笑って、冗談めかして、俺達に確かにそう告げた。


「ここは、お前らの第二の家だからな」


 それに続いて、コタロウはそっぽを向きながら、不器用に吐き捨てる。
 火に浮かぶレオ、モカ、コタロウの顔は優しくて穏やかだった……つい、泣きそうになるほど。
 ああ、あんなに帰りたかったのに、今この瞬間が、永遠に続けばいいと、俺は思ってしまった――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...