エリート希望者の地球再生記

行倉宙華

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第四章-⑵ ナサニエル墜落事件の真相

殻を破ったら君が出てきた

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「ねえ、お涙頂戴な話は終わった?」


 星空の下、気を緩めたら泣いてしまうというところまで追い詰められていたのに……俺はその声に、自分のすべての感情を持っていかれてしまったのかと錯覚してしまうほど、自然と涙が引っ込んでしまっていた。
 またもや君って奴は、俺達を感動の余韻に浸る暇さえも、その一言によってかき消していくんだな。


「ゾーイ!? まったく、もう! あなたという人は……眠っていたのでは!?」
「は? あんなの、あんた達の話に付き合うのが面倒だから、狸寝入りしてたに決まってるでしょ?」
「面倒……!? ど、どこまで、あなたは自由人なのですか!?」


 すかさず、モーリスが信じられないとばかりに珍しく叫ぶが、気だるげに起き上がったその声の主のゾーイは、また俺達の度肝を抜くことを淡々と告げる。
 しばらく声が聞こえないし、気持ち良さそうにスペースめいいっぱいに寝転がってると思ったら……
 この感動の場面の数々を面倒だからの一言で片付けようとするゾーイは、ここまで来ると清々しいものだ。
 ほら、案の定というか、モーリスの必死の訴えに、ゾーイは大きなあくびで答える始末だ……報われないよな。


「つーか、そもそも、何かあったら、サトル、ハロルド、ジェームズ、アランの実家の地位と権利と財力をフル活用しなよ。そうすれば、空島での大抵のことはどうにかなるでしょ」
「……あー、検討しとくよ」


 そして、次にゾーイから出てきた言葉というのが、さっきまで感動の渦に包まれていたであろう、サトルの話だが……
 ゾーイにかかれば、あっという間にその話は金と権力でねじ伏せろとの、恐怖の伝言に早変わりだ。
 最早、尊敬に値する他力本願っぷりだよ……サトルなんて、遠い目しながら答えを振り絞ってるし。


「本当に、自分の手足のように使ってくれるものだな……」
「いや、手足ならまだマシだよ」
「そうだな。まだ大事にする。俺達の実家の価値なんて、あいつにとったら消耗品みたいな感覚だろ」


 そんなゾーイを見ながら、ハロルドは手で顔を覆いながら嘆くように、ジェームズは悟ったように、そして、トドメはアランというところだろうか?
 一貫して、ゾーイに名指しされた当事者達は、それぞれが何かを諦めたような発言をしていた。


「てかさ、いい加減に解散しな。明日は早いのよ?」


 けど、ある意味でゾーイも、一貫して言いたいことを、ストレートに言ってるってだけなんだろうな?
 今も名残惜しさなんて皆無で、ゾーイは寝ろよと発言すると、おもむろにその場に立ち上がったが……


「待て! 最後に俺から……」
「……まだ何かあるの? 早くして」


 それは俺の隣の片割れによって、阻止されることになってしまう。
 制止をかける望の声にゾーイはため息をついたが、すぐに続きを促した。
 けど、望はそこからしばらく、妙な唸り声を上げ続けては、俺達を見る。
 望、一体ここで、何を言う気なんだ?
 様子からして、何かを言いたいけどプライドが邪魔するから、葛藤してるってところか?
 他のみんなも、何だ何だとなかなかに落ち着かない様子だったが、ひたすら望の言葉を待ってくれていた……
 そして、望は意を決したように顔を上げて足を踏み出し、向かった先は……


「レオ、コタロウ、モカ……長いようであっという間だったけど、また絶対に再会はするだろうけどよ……!!」


 一人ずつの名前を呼んで、望は三人に真正面から向き合うと、ポツリ、ポツリと吐き出していく。
 髪をぐしゃぐしゃにして、照れているのか語尾が強くなって、若干視線をさ迷わせながらも、確実に紡ぐ。


「お前らに出会えたから、俺達はこの日まで生きてこられた。今まで……本当にありがとうございましたああ!」


 そして、言い切った……勢いよく、望は頭も下げた。
 言われた本人達や、俺達も、その光景に固まる……まさか、レオ達に一番にお礼を言うのが、望なんてな。
 俺が望に対して、劣等感を感じていたように、望も俺に対してずっと同じことを思っていた。
 そんなことにも気付かないなんて、俺達はどんだけ遠回りしたんだろう。
 けど、それすらも糧にして、お互いに隣に立てるようになった。
 もう兄弟に戻るためのリハビリは、完了って言ってもいいか? 
 お前も先に進んで行くんだもんな?
 そうだよな、ずっと泣き虫で、俺の背中に隠れてた望なわけないもんな?
 言葉にするようになった、他人のことを思いやれるようにもなった、お前は自分の殻を破ったんだ。


「そ、それだけだ! オラ、さっさと解散しやがれ!」


 やがて、望が顔を上げ、そう乱暴に吐き捨てて行ってしまったので、今度こそお別れパーティーはお開きとなった。


「あ、昴。待って」
「え? レオ、どうした?」
「あのさ、俺達三人これから、ゾーイに呼び出されてるんだけど……何のことかわかるか?」
「は? 今からか?」
「ああ。パーティーが終わったら、話があるって言われててさ……」


 すると、それじゃ俺も帰ろうとしたその時、俺はレオに呼び止められる。
 何事かと振り返ると、何とも微妙な顔のレオがいて……悩みの種はゾーイだと言う。
 いやいや、こんな時間から話って何だよ!? さっきすれば良くないか!?


「ごめん、全然わからねえわ」
「まあ、そりゃそうだよな? ゾーイのことだし……」


 俺の言葉を聞きながら、レオは視線を移して苦笑いを零す。
 俺もその視線をたどるが、やっぱりそこにはあくびをするゾーイがいて……自分でも苦笑いをしてるのがわかる。


「うん、まだまだ未知数だよ……とりあえず、健闘を祈る!」
「ははっ、間違いないな! 呼び止めて悪かった! じゃあ、おやすみ!」


 違和感が仕事をする時、それは何かの前触れであることが多いと、俺はその昔に本で読んだことがある気がした。
 けど、その時の俺は明日に備えてもう寝たかったのだ……
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