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第9話 爆発男から手がかり その二
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爆発男は、ちょうど居間の中央にあるテーブルのうえに落下していた。手足を広げ、仰天した表情で虚ろに花坂達を眺めている。その脇には、ものもいえないほど驚いてへたりこんでいる本来の住人……中年の女性がいた。へたに力を使うと巻きぞえになる。
とはいえ、決着はつけねばならない。塚森は穴から下へ降りようとした。
「先生、ダメです!」
花坂は塚森の肩に手をかけた。塚森はぴたりと止まった。
「穴の側面に、毛が何本かついてます。たぶん、こいつは髪を自由自在に切りはなして爆弾の代わりにできるんです!」
花坂の目には、穴から落ちる前よりも、かすかに短くなった爆発男の髪までしっかり捉えられていた。
「バレたか」
爆発男は、テーブルからゆっくりと起きあがった。
『アハハハハハ!』
テレビから笑い声が流れてきた。なにかのバラエティー番組らしい。花坂はあまりテレビを見ないのでよく知らない。ただ、非常識的に緊迫した状況のなかで、余りにも場違いだった。
塚森は、罠が仕かけられた穴の隣に新しいそれを作った。率先して彼女が降りると、花坂もすぐに追い、小角も彼にならった。
「な、なんなのあんた達! 警察……ブハッ」
本来の住人である、中年の女性が、花坂の髪型を認めたとたんに怒りながら笑いだした。
『エイチエムービー! エイチエムービー! ハッピーなマッスルは、このベルト・HMBから~! TWC・タイトワールドコーポレーション』
ちょうどコマーシャルになったのだろう。小角の話にあった、筋肉増強器具がポップスに乗って紹介されている。
「死にたくなければ、俺の美しさを崇拝しておけ」
爆発男は、目だけを中年女性に据えて命じた。
「はぁっ!? あんた、頭の具合どうかしたの?」
『オホホホホホホ!』
コマーシャルが終わったのか、若い女性のタレントが腹を抱えて笑うのがアップで示された。
「俺の美は、もはや、俺から離れた一つの人格だ。つまり、俺ではなく、俺の美を崇拝させているのだから、俺はこの上なく謙虚な人間なのだ」
「いい加減にしないと警察……」
机に重いものを力いっぱい叩きつけたような音がして、テレビと本来の住人は……警察を呼ぶべく、スマホを出そうとしていたのだが……木っ端微塵に砕けちった。いや、部品の破片や血の一滴まで目に見えないほど小さく粉々になった。床には、プラスチックだか蛋白質だかはっきりしない粒子が山盛りになった。さらには、これほどの事象があったのに、そよ風一つ起きてない。
「俺は、騒ぐのは好きだが、騒がしいのは嫌いだ」
またしても、爆発男は自らの下顎をあげ、前髪を右手ですいた。
「ひどいっ! なんの関係もない人を……」
小角が、花坂の隣で爆発男を非難した。花坂は、つと左腕を伸ばして彼女をかばった。
「俺の持ち味を見破ったからって、逆転には……」
「爆発から次の爆発までは、微妙に時間がかかるようだな」
花坂は、ここぞとばかりに爆発男の主張をさえぎった。爪先に力がこもり、いつでも踏みだせるようになっている。
「ほう、なかなか賢いな。たしかにそうだ。しかし、あえて二回以上連続できる力を温存しているかもしれないぞ」
爆発男が手足からそれとなく力をぬいたことも、花坂は見きっている。いつ即席落とし穴を作られても、素早く逃れるためだ。
時間がかかるのは、花坂達にとって不利だった。市宮を倒したのだから、すぐに撤収して事後の方針を決めるのが理想である。ぐずぐずしていると、ひょっとしたらさっき爆発男に殺された人間の家族や友人がやってくるかもしれない。爆発男からすれば、仮にそうなったところで痛くも痒くもないようだが。
「なら、さっさと使え」
「お前に指図される筋あいはない」
押し問答をしつつ、花坂は大雑把ながらも爆発男の性格をつかめてきた。
自分の力にもたれて人を見下したがるのは、市宮と共通している。異なるのは、市宮が劣等感から始まった……でなければストーカーなどやらないだろう……のに対して、爆発男は優越感から始まっている。劣等感は優越感と裏表とよくいわれるが、まさか爆発男が花坂達に劣等感を持っていることはないだろう。
爆発男が抱える優越感は、本人にとって有利に働くときは、相手を萎縮させて攻撃がはまりやすくなる。しかし、不利になると油断や隙を生む。
むろん、爆発男はバカではない。落とし穴のような古い手は、二度も使えない。そこは、さっきから観察していれば一目瞭然だ。
ほんの一瞬で、花坂はここまで思案を進めた。ならば、やるべきことはただ一つ。
「お前の筋肉……HMBとかいうベルトで作ったのか?」
花坂は、外見という爆発男がもっとも繊細に意識するところを突いた。
「はぁ?」
これが一対一なら、花坂の挑発など無視して爆発男はさっさと自分の力をふるっただろう。小角……つまり、爆発男のようなタイプにとって、自分を無条件にほめたたえるべき存在……から自尊心を傷つけられたばかりなだけに、つい食いついた。
「ボディビルダーの俺からいわせれば、お前の身体はひどくいびつだ。痩せるために食事をぬいておきながら、ドーピングでむりやり筋肉をひねりだしているとしか思えん」
「ぐだぐだうるさいな。お前から爆発させてもいいんだぞ」
花坂は、腕を組んで爆発男を見おろした。自慢の髪がざわつくのが、手にとるようにわかる。
「お前こそ、俺の指導を受けろ。まともな筋肉に造りかえてやる」
いいきった花坂へ、様々な情報がいっせいに押しよせてきた。爆発男のうしろ髪がわずかにちぎれ、自分のところへとひとりでにやってきた。まるで、ラジコン操作のようだ。一本一本がバラけてきたので、初見でもあるし、わからなかった。穴の側面にくっついていた髪は、動いてないのと小角の発言から注意していたことで見やぶったのだが。
そして、まさに目と鼻の先までこようかというときに、ひとりでに爆発した。塚森がそれと察して自分の力で彼を守った。同時に、爆発男は……少なくとも瞬発式の爆発は……一度に限られた対象にしか力を使えないとも理解した。だからこそ、気の毒な犠牲者がでたときに、花坂達をもまとめて倒せなかったのだ。
なら、あくまで花坂達を優先して倒せば良かったものだが、相手を倒したときの完璧さにこだわりがあった。あくまでテレビゲームのように、最後に一番の難物を仕留めて任務完了、としたかったのだろう。
これら一連は、すべて花坂の思考からきた仮説である。塚森が彼を守った直後、花坂は床を蹴って一気に爆発男との間あいを詰めた。爆発男が構える暇もあればこそ、花坂の右ストレートが爆発男の左頬にめりこんだ。彼は、壁までまっすぐ両足を浮かせて、数メートルほど空中をあとずさった。
自分の折れた歯が床に落ちたとき、背中と後頭部を壁に叩きつけられた爆発男は、白目をむいて失神した。
「物理最強」
花坂は、一言だけで自分を主張した。
とはいえ、決着はつけねばならない。塚森は穴から下へ降りようとした。
「先生、ダメです!」
花坂は塚森の肩に手をかけた。塚森はぴたりと止まった。
「穴の側面に、毛が何本かついてます。たぶん、こいつは髪を自由自在に切りはなして爆弾の代わりにできるんです!」
花坂の目には、穴から落ちる前よりも、かすかに短くなった爆発男の髪までしっかり捉えられていた。
「バレたか」
爆発男は、テーブルからゆっくりと起きあがった。
『アハハハハハ!』
テレビから笑い声が流れてきた。なにかのバラエティー番組らしい。花坂はあまりテレビを見ないのでよく知らない。ただ、非常識的に緊迫した状況のなかで、余りにも場違いだった。
塚森は、罠が仕かけられた穴の隣に新しいそれを作った。率先して彼女が降りると、花坂もすぐに追い、小角も彼にならった。
「な、なんなのあんた達! 警察……ブハッ」
本来の住人である、中年の女性が、花坂の髪型を認めたとたんに怒りながら笑いだした。
『エイチエムービー! エイチエムービー! ハッピーなマッスルは、このベルト・HMBから~! TWC・タイトワールドコーポレーション』
ちょうどコマーシャルになったのだろう。小角の話にあった、筋肉増強器具がポップスに乗って紹介されている。
「死にたくなければ、俺の美しさを崇拝しておけ」
爆発男は、目だけを中年女性に据えて命じた。
「はぁっ!? あんた、頭の具合どうかしたの?」
『オホホホホホホ!』
コマーシャルが終わったのか、若い女性のタレントが腹を抱えて笑うのがアップで示された。
「俺の美は、もはや、俺から離れた一つの人格だ。つまり、俺ではなく、俺の美を崇拝させているのだから、俺はこの上なく謙虚な人間なのだ」
「いい加減にしないと警察……」
机に重いものを力いっぱい叩きつけたような音がして、テレビと本来の住人は……警察を呼ぶべく、スマホを出そうとしていたのだが……木っ端微塵に砕けちった。いや、部品の破片や血の一滴まで目に見えないほど小さく粉々になった。床には、プラスチックだか蛋白質だかはっきりしない粒子が山盛りになった。さらには、これほどの事象があったのに、そよ風一つ起きてない。
「俺は、騒ぐのは好きだが、騒がしいのは嫌いだ」
またしても、爆発男は自らの下顎をあげ、前髪を右手ですいた。
「ひどいっ! なんの関係もない人を……」
小角が、花坂の隣で爆発男を非難した。花坂は、つと左腕を伸ばして彼女をかばった。
「俺の持ち味を見破ったからって、逆転には……」
「爆発から次の爆発までは、微妙に時間がかかるようだな」
花坂は、ここぞとばかりに爆発男の主張をさえぎった。爪先に力がこもり、いつでも踏みだせるようになっている。
「ほう、なかなか賢いな。たしかにそうだ。しかし、あえて二回以上連続できる力を温存しているかもしれないぞ」
爆発男が手足からそれとなく力をぬいたことも、花坂は見きっている。いつ即席落とし穴を作られても、素早く逃れるためだ。
時間がかかるのは、花坂達にとって不利だった。市宮を倒したのだから、すぐに撤収して事後の方針を決めるのが理想である。ぐずぐずしていると、ひょっとしたらさっき爆発男に殺された人間の家族や友人がやってくるかもしれない。爆発男からすれば、仮にそうなったところで痛くも痒くもないようだが。
「なら、さっさと使え」
「お前に指図される筋あいはない」
押し問答をしつつ、花坂は大雑把ながらも爆発男の性格をつかめてきた。
自分の力にもたれて人を見下したがるのは、市宮と共通している。異なるのは、市宮が劣等感から始まった……でなければストーカーなどやらないだろう……のに対して、爆発男は優越感から始まっている。劣等感は優越感と裏表とよくいわれるが、まさか爆発男が花坂達に劣等感を持っていることはないだろう。
爆発男が抱える優越感は、本人にとって有利に働くときは、相手を萎縮させて攻撃がはまりやすくなる。しかし、不利になると油断や隙を生む。
むろん、爆発男はバカではない。落とし穴のような古い手は、二度も使えない。そこは、さっきから観察していれば一目瞭然だ。
ほんの一瞬で、花坂はここまで思案を進めた。ならば、やるべきことはただ一つ。
「お前の筋肉……HMBとかいうベルトで作ったのか?」
花坂は、外見という爆発男がもっとも繊細に意識するところを突いた。
「はぁ?」
これが一対一なら、花坂の挑発など無視して爆発男はさっさと自分の力をふるっただろう。小角……つまり、爆発男のようなタイプにとって、自分を無条件にほめたたえるべき存在……から自尊心を傷つけられたばかりなだけに、つい食いついた。
「ボディビルダーの俺からいわせれば、お前の身体はひどくいびつだ。痩せるために食事をぬいておきながら、ドーピングでむりやり筋肉をひねりだしているとしか思えん」
「ぐだぐだうるさいな。お前から爆発させてもいいんだぞ」
花坂は、腕を組んで爆発男を見おろした。自慢の髪がざわつくのが、手にとるようにわかる。
「お前こそ、俺の指導を受けろ。まともな筋肉に造りかえてやる」
いいきった花坂へ、様々な情報がいっせいに押しよせてきた。爆発男のうしろ髪がわずかにちぎれ、自分のところへとひとりでにやってきた。まるで、ラジコン操作のようだ。一本一本がバラけてきたので、初見でもあるし、わからなかった。穴の側面にくっついていた髪は、動いてないのと小角の発言から注意していたことで見やぶったのだが。
そして、まさに目と鼻の先までこようかというときに、ひとりでに爆発した。塚森がそれと察して自分の力で彼を守った。同時に、爆発男は……少なくとも瞬発式の爆発は……一度に限られた対象にしか力を使えないとも理解した。だからこそ、気の毒な犠牲者がでたときに、花坂達をもまとめて倒せなかったのだ。
なら、あくまで花坂達を優先して倒せば良かったものだが、相手を倒したときの完璧さにこだわりがあった。あくまでテレビゲームのように、最後に一番の難物を仕留めて任務完了、としたかったのだろう。
これら一連は、すべて花坂の思考からきた仮説である。塚森が彼を守った直後、花坂は床を蹴って一気に爆発男との間あいを詰めた。爆発男が構える暇もあればこそ、花坂の右ストレートが爆発男の左頬にめりこんだ。彼は、壁までまっすぐ両足を浮かせて、数メートルほど空中をあとずさった。
自分の折れた歯が床に落ちたとき、背中と後頭部を壁に叩きつけられた爆発男は、白目をむいて失神した。
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