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EP 47
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『阿片窟への突入(レイド)』
「――ターゲットは、本所(ほんじょ)にある空き屋敷だ」
宵闇に包まれた北町奉行所、その一室。
坂上真一は、集まった雪之丞、蘭、喜助に地図を広げて見せた。
左腕はガチガチに固定されているが、その眼光は衰えていない。
「表向きは旗本の隠居屋敷だが、実際は水野忠邦が管理している『裏』の拠点だ。……俺が見た阿片工場(ファクトリー)は、そこの地下にある」
蘭が拳を握りしめる。
「そんなとこで、毒を作ってたのかい! ……でも、相手は旗本屋敷だろ? 奉行所の手勢じゃ、簡単には踏み込めないよ」
「ああ。令状なしに踏み込めば、逆にこちらが処分される」
坂上は、喜助を見た。
「……だから、『火事』を起こす」
「へっ」
喜助がニヤリと笑い、懐から黒い玉を取り出した。
「……特製の煙玉(けむりだま)だ。火は出さずに、煙だけモクモクと吐き出す。……『火事だ!』って騒ぎになりゃ、火消しや役人がなだれ込む『大義名分』ができる」
「その混乱に乗じて、俺たち突入班(エントリー・チーム)が地下へ潜る。……制圧目標は、阿片製造の証拠と、現場責任者だ」
坂上は、竹水筒のコーヒーを飲み干し、立ち上がった。
「……行くぞ。今夜で終わらせる」
本所、旗本屋敷。
静まり返っていたその屋敷の周辺が、突如として喧騒に包まれた。
「火事だァーッ!!」
「屋敷から煙が出てるぞ! 出火だ!」
喜助が投げ込んだ特製煙玉が、猛烈な白煙を噴き上げ、屋敷を包み込む。
「な、なんだ!?」
「火事だと!?」
屋敷の中は大混乱に陥った。警備の浪人たちが慌てふためき、表門を開け放つ。
「――火元確認! 消火活動を開始する!」
その混乱の渦中、火消し装束……ではなく、頭巾を被った四つの影が、煙に紛れて屋敷内へと侵入した。
「……地下への入り口は、蔵の中だ!」
坂上の記憶(メモリー)は正確だった。
四人は一直線に土蔵へ向かい、隠し扉を蹴り破る。
「うわっ! なんだお前ら!」
「――北町奉行所だ! 神妙にしろ!」
雪之丞と蘭が、地下通路の見張りを次々となぎ倒していく。
そして、最奥の扉を開けると――。
そこには、むせ返るような甘い匂いと、大量の『極楽丸』、そして田沼家の家紋が入った偽装用の木箱が山積みになっていた。
「……うわあ、こりゃひでえ」
蘭が絶句する。
「……貴様らァ!」
奥から、怒声と共に殺気が膨れ上がった。
現れたのは、あの深川の賭場で坂上を斬った、水野の懐刀の浪人だった。
その手には、抜き身の刀が握られている。
「……また会ったな、鼠(ねずみ)ども。……生きてここを出られると思うな!」
「……雪之丞、蘭、喜助。お前たちは証拠を押さえろ」
坂上は、静かに前に出た。
左腕の晒(さらし)が痛々しいが、右手には愛刀『同田貫(どうだぬき)』が握られている。
「……御奉行、片手でやれんのか!?」
雪之丞が叫ぶ。
「……問題ない」
坂上は、切っ先を相手の喉元に向けた。北辰一刀流、正眼の構え。
「……片手で十分だ」
「舐めるなァ!」
浪人が突っ込んでくる。速い。
上段からの真っ向唐竹割り。
坂上は、動かなかった。
刃が額に触れる寸前――。
「――!」
坂上の体が、揺らめいたように見えた。
最小限の体捌きで刃を躱し、すれ違いざま、片手だけで刀を一閃させる。
ズンッ!
「……が、は……っ」
浪人の動きが止まる。
坂上の刀の峰(みね)が、浪人の鳩尾(みぞおち)に、ハンマーのような衝撃で叩き込まれていた。
一撃必殺。
「……ぐ、う……」
浪人は膝から崩れ落ち、泡を吹いて気絶した。
免許皆伝の技は、負傷ごときで鈍るものではなかった。
「……確保だ」
坂上は刀を納め、冷たく言い放った。
「……水野忠邦。チェックメイトだ」
地下工場には、水野が田沼を陥れるための計画書、そして大量の阿片。
動かぬ証拠(エビデンス)が、今、坂上の手に落ちた。
「――ターゲットは、本所(ほんじょ)にある空き屋敷だ」
宵闇に包まれた北町奉行所、その一室。
坂上真一は、集まった雪之丞、蘭、喜助に地図を広げて見せた。
左腕はガチガチに固定されているが、その眼光は衰えていない。
「表向きは旗本の隠居屋敷だが、実際は水野忠邦が管理している『裏』の拠点だ。……俺が見た阿片工場(ファクトリー)は、そこの地下にある」
蘭が拳を握りしめる。
「そんなとこで、毒を作ってたのかい! ……でも、相手は旗本屋敷だろ? 奉行所の手勢じゃ、簡単には踏み込めないよ」
「ああ。令状なしに踏み込めば、逆にこちらが処分される」
坂上は、喜助を見た。
「……だから、『火事』を起こす」
「へっ」
喜助がニヤリと笑い、懐から黒い玉を取り出した。
「……特製の煙玉(けむりだま)だ。火は出さずに、煙だけモクモクと吐き出す。……『火事だ!』って騒ぎになりゃ、火消しや役人がなだれ込む『大義名分』ができる」
「その混乱に乗じて、俺たち突入班(エントリー・チーム)が地下へ潜る。……制圧目標は、阿片製造の証拠と、現場責任者だ」
坂上は、竹水筒のコーヒーを飲み干し、立ち上がった。
「……行くぞ。今夜で終わらせる」
本所、旗本屋敷。
静まり返っていたその屋敷の周辺が、突如として喧騒に包まれた。
「火事だァーッ!!」
「屋敷から煙が出てるぞ! 出火だ!」
喜助が投げ込んだ特製煙玉が、猛烈な白煙を噴き上げ、屋敷を包み込む。
「な、なんだ!?」
「火事だと!?」
屋敷の中は大混乱に陥った。警備の浪人たちが慌てふためき、表門を開け放つ。
「――火元確認! 消火活動を開始する!」
その混乱の渦中、火消し装束……ではなく、頭巾を被った四つの影が、煙に紛れて屋敷内へと侵入した。
「……地下への入り口は、蔵の中だ!」
坂上の記憶(メモリー)は正確だった。
四人は一直線に土蔵へ向かい、隠し扉を蹴り破る。
「うわっ! なんだお前ら!」
「――北町奉行所だ! 神妙にしろ!」
雪之丞と蘭が、地下通路の見張りを次々となぎ倒していく。
そして、最奥の扉を開けると――。
そこには、むせ返るような甘い匂いと、大量の『極楽丸』、そして田沼家の家紋が入った偽装用の木箱が山積みになっていた。
「……うわあ、こりゃひでえ」
蘭が絶句する。
「……貴様らァ!」
奥から、怒声と共に殺気が膨れ上がった。
現れたのは、あの深川の賭場で坂上を斬った、水野の懐刀の浪人だった。
その手には、抜き身の刀が握られている。
「……また会ったな、鼠(ねずみ)ども。……生きてここを出られると思うな!」
「……雪之丞、蘭、喜助。お前たちは証拠を押さえろ」
坂上は、静かに前に出た。
左腕の晒(さらし)が痛々しいが、右手には愛刀『同田貫(どうだぬき)』が握られている。
「……御奉行、片手でやれんのか!?」
雪之丞が叫ぶ。
「……問題ない」
坂上は、切っ先を相手の喉元に向けた。北辰一刀流、正眼の構え。
「……片手で十分だ」
「舐めるなァ!」
浪人が突っ込んでくる。速い。
上段からの真っ向唐竹割り。
坂上は、動かなかった。
刃が額に触れる寸前――。
「――!」
坂上の体が、揺らめいたように見えた。
最小限の体捌きで刃を躱し、すれ違いざま、片手だけで刀を一閃させる。
ズンッ!
「……が、は……っ」
浪人の動きが止まる。
坂上の刀の峰(みね)が、浪人の鳩尾(みぞおち)に、ハンマーのような衝撃で叩き込まれていた。
一撃必殺。
「……ぐ、う……」
浪人は膝から崩れ落ち、泡を吹いて気絶した。
免許皆伝の技は、負傷ごときで鈍るものではなかった。
「……確保だ」
坂上は刀を納め、冷たく言い放った。
「……水野忠邦。チェックメイトだ」
地下工場には、水野が田沼を陥れるための計画書、そして大量の阿片。
動かぬ証拠(エビデンス)が、今、坂上の手に落ちた。
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