辺境の模型屋、趣味の『魔導人形』が国家戦力級と認定される~神話の武器を工具扱いしていたら、いつの間にか魔王や竜王が常連客になっていました~

月神世一

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EP 7

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獣王レオ、お忍びの来店
​ 竜王デュークが店の前で『昇龍軒』を開業してから数日。
 俺の工房は、さらにカオスな空間になりつつあった。
​「ズルズル……ふむ。今日のスープはコクがあるな、店主(デューク)」
「当たり前だ。今日は『レッド・ドラゴンの骨髄』を使っているからな。火属性の魔力が染み出して、ピリ辛だろう?」
​ カウンターで優雅にラーメンをすすっているのは、魔族の貴公子ルーベンスだ。
 彼は新聞を読むついでに、デュークのラーメンを食べるのが日課になっていた。
 世界の裏側を牛耳る魔族と、世界最強の竜王が、豚骨スープについて熱く語り合っている。
 ……平和だ。平和すぎて怖い。
​ カランカラン♪
​ そんな奇妙な日常に、新たな来訪者が現れた。
 深くフードを被った、長身の男だ。
 入ってくるなり、鼻をクンクンと動かしている。
​「……いい匂いだ。この獣骨の香りは、まさかレッド・ドラゴンか? しかも、このスパイスの使い方は……」
​ 男はカウンターのルーベンスを一瞥し、次にデュークの屋台(今日は店内に鍋を持ち込んでいる)を見て、最後に棚に飾られた俺の『趣味の作品』の前で足を止めた。
​「……ん?」
​ 男の視線が釘付けになったのは、売り物のマグナギアではない。
 俺が前世の記憶を頼りに、非売品として作った観賞用モデル。
 白と青のトリコロールカラー。額にはV字アンテナ。背中にはビームサーベルっぽい棒。
 そう、あの有名な「機動戦士」を模した機体だ。
​「おい……店主」
​ 男が震える声で俺を呼んだ。
​「なんだい、お客さん。それは売り物じゃ……」
「これ……『ガ○ダム』だよな?」
​ ――え?
​ 俺は固まった。
 今、この世界に存在するはずのない単語が聞こえた。
 しかも、発音は完璧な日本語だ。
​「……あんた、まさか」
「そのカラーリング、そのフォルム! 間違いない! お前……いや、貴様も『日本人』か!?」
​ 男がバッとフードを脱ぎ捨てた。
 現れたのは、金色の乱れた髪に、野性味あふれる端正な顔立ち。そして頭には、フサフサとしたライオンの耳が生えている。
 獣人だ。しかも、その全身から溢れ出るオーラは、ただの獣人ではない。
​「俺の名はレオ! ……いや、前世の名は獅子田(ししだ)玲央(れお)だ!」
「俺はタクミ。……マジか。こんな所で同郷に会えるとは」
​ 俺たちはカウンター越しにガシッと固い握手を交わした。
 異世界転生あるあるだが、実際に会うと感動するものだ。
​「いやぁ、嬉しいぜタクミ! 俺の国じゃ、飯はなんとか日本の居酒屋メニューを再現できたんだが、娯楽がなくてなぁ! まさかプラモ……いや、マグナギアでこれを作るとは!」
「だろ? こだわったんだよ、この腰のアーマーの可動域とか」
「分かる! そこ重要だよな!」
​ 俺たちは周りの目も気にせず、日本語でマニアックな模型談義に花を咲かせた。
 ルーベンスとデュークが、呆気にとられた顔でこちらを見ている。
​「……おい、ルーベンス。あの若造、何者だ? あの膨大な闘気(オーラ)……ただの客ではないぞ」
「……ああ。あれは南方の『ガルーダ獣王国』を統べる王、獣王レオだ。間違いない」
「ほう? 獣王か。……それがなぜ、あのように子供のようにプラモデルとやらで燥(はしゃ)いでおるのだ?」
「……分からん。タクミという男、底が知れん……」
​ 常連たちのヒソヒソ話など、今の俺たちの耳には入らない。
​「よしタクミ! 俺も一つ作らせてくれ! 実は俺、前世じゃ塗装(ペイント)には自信があってな!」
「おお、いい腕してそうだな。じゃあ、この『ザ○』っぽい量産機の塗装を頼むよ」
「任せろ! ウェザリング(汚し塗装)で歴戦の機体に仕上げてやる!」
​ レオは王としての威厳をかなぐり捨て、腕まくりをして作業台に向かった。
 俺とレオ、二人の転生者が並んでマグナギアを作る。
 その光景は、ただの模型サークルの部室のようだった。
​ だが、店の中で和気藹々としている俺たちとは対照的に、店の外――帝国の諜報部隊にとっては、それは「悪夢の光景」でしかなかった。
​ ***
​ 店の向かいの建物の屋根裏。
 帝国軍情報部の密偵が、望遠鏡を覗き込みながら、ガタガタと震えていた。
​「ほ、報告します! 本部! 緊急事態です!」
『どうした? あの模型屋に動きがあったか?』
「動きどころではありません! 店内に……魔族の貴公子ルーベンス、竜王デューク、そして新たに獣王レオが入店しました!」
『な、なんだと!? 三大勢力のトップが勢揃いだと!?』
​ 通信機の向こうで、上官の絶叫が聞こえる。
​「しかも……彼らは極めて親密な様子で、謎の言語(日本語)を使い、何かを組み立てています!」
『な、何を組み立てているんだ!? 新兵器か!?』
「分かりません……ですが、赤い機体(シャ○ザク)に見えます! 獣王が『三倍のスピードが出るように塗ってやる』と発言しています!」
『三倍だと!? 馬鹿な、通常のマグナギアですら脅威なのに、さらに三倍だと!?』
​ 密偵の声が裏返る。
​「本部! これはただの模型屋ではありません! ここは……魔族、竜種、獣人による**『対帝国・世界連合軍』の秘密司令部**です! 店主のタクミという男……奴が全ての黒幕に違いありません!」
​ ***
​ そんな勘違いが国家レベルで進行しているとも知らず。
 俺はレオと完成したプラモを並べ、満足げにコーヒーを啜っていた。
​「いい出来だ。レオ、お前いい腕してるな」
「へへっ、久しぶりに熱中したぜ。……また来ていいか?」
「おう。いつでも歓迎するよ。会員証(スタンプカード)作っとくか?」
「頼む! あと、帰りにそのラーメン一杯くれ!」
​ こうして、俺の店の常連リストに「獣王」という新たな肩書きが加わった。
 工房タクミの戦力は、もはや一国家を遥かに凌駕していた。
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