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第三章 大和
EP 6
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46センチの呪縛
呉海軍工廠、設計室。
現場の空気は、最悪だった。
坂上の「棺桶」発言に激昂した技術者たちが、殺気立った目で彼を睨みつけている。
「……撤回されよ」
設計主任の牧野技術大佐が、机を叩いた。
「大和は、46センチ砲9門を擁する。
射程距離は40キロ以上。敵艦隊のアウトレンジ(射程外)から一方的に叩けるのだ。
航空機? 笑わせるな。
本艦の装甲は、いかなる爆弾も跳ね返す!」
「跳ね返せない」
坂上は、黒板にチョークで図を描いた。
「垂直落下する徹甲爆弾、あるいは、水面下を直進する酸素魚雷。
集中攻撃を受ければ、不沈艦など存在しない」
坂上は、設計図の「主砲」部分を指で弾いた。
「それに、この46センチ砲だ。
こいつの命中率は? 40キロ先で、移動する目標に当たる確率は何%だ?」
「……我が海軍の練度をもってすれば……」
「精神論はいい。データだ」
坂上は切り捨てた。
「俺の計算では、遠距離砲戦の命中率は数%にも満たない。
つまり、95%以上の弾薬は、海水を沸騰させるだけの無駄玉になる」
坂上は、設計室を見渡した。
「いいか。
これからの海戦は、『見えない距離』での殴り合いじゃない。
『空』からの立体的制圧だ。
この艦に必要なのは、バカでかい大砲じゃない」
坂上は、持参した新しい設計案(ブループリント)を、牧野の前に広げた。
「……なんだ、これは」
牧野が、目を見開いた。
そこには、大和の船体の上に、異様な構造物が描かれていた。
主砲はそのまま(建造が進みすぎて撤去不可能だった)だが、
艦橋構造物が肥大化し、その頂上には、ハリネズミのように多数のアンテナが突き出している。
そして、艦の内部には、体育館のような巨大な空間が確保されていた。
「防空指揮所(CIC)だ」
坂上は言った。
「この艦の役割を変える。
『殴り込み』の戦艦ではない。
艦隊全体の防空を指揮し、情報を処理する、洋上の『サーバー(司令塔)』にする」
「……司令塔?」
「そうだ。
強力なレーダーと通信設備を積み、上空のゼロ戦隊と、周囲の護衛艦を、一元的に指揮する。
そのための『場所』と『電力』を確保しろ」
「馬鹿な!」
牧野が叫んだ。
「そんなことをすれば、副砲が積めなくなる!
居住区も減る! 重心のバランスも崩れる!」
「副砲などいらん。対空機銃に変えろ」
坂上は譲らなかった。
「居住区? 大和ホテルと揶揄されたくなければ、畳を捨てて機材を詰め込め。
……これは、『お願い』ではない」
坂上は、懐から一枚の辞令書を取り出した。
山本五十六の署名と実印が押された、海軍大臣命令書(特例)だった。
「命令だ。
大和を、ただの筋肉ダルマにするな。
……『頭脳』を持たせろ」
呉海軍工廠、設計室。
現場の空気は、最悪だった。
坂上の「棺桶」発言に激昂した技術者たちが、殺気立った目で彼を睨みつけている。
「……撤回されよ」
設計主任の牧野技術大佐が、机を叩いた。
「大和は、46センチ砲9門を擁する。
射程距離は40キロ以上。敵艦隊のアウトレンジ(射程外)から一方的に叩けるのだ。
航空機? 笑わせるな。
本艦の装甲は、いかなる爆弾も跳ね返す!」
「跳ね返せない」
坂上は、黒板にチョークで図を描いた。
「垂直落下する徹甲爆弾、あるいは、水面下を直進する酸素魚雷。
集中攻撃を受ければ、不沈艦など存在しない」
坂上は、設計図の「主砲」部分を指で弾いた。
「それに、この46センチ砲だ。
こいつの命中率は? 40キロ先で、移動する目標に当たる確率は何%だ?」
「……我が海軍の練度をもってすれば……」
「精神論はいい。データだ」
坂上は切り捨てた。
「俺の計算では、遠距離砲戦の命中率は数%にも満たない。
つまり、95%以上の弾薬は、海水を沸騰させるだけの無駄玉になる」
坂上は、設計室を見渡した。
「いいか。
これからの海戦は、『見えない距離』での殴り合いじゃない。
『空』からの立体的制圧だ。
この艦に必要なのは、バカでかい大砲じゃない」
坂上は、持参した新しい設計案(ブループリント)を、牧野の前に広げた。
「……なんだ、これは」
牧野が、目を見開いた。
そこには、大和の船体の上に、異様な構造物が描かれていた。
主砲はそのまま(建造が進みすぎて撤去不可能だった)だが、
艦橋構造物が肥大化し、その頂上には、ハリネズミのように多数のアンテナが突き出している。
そして、艦の内部には、体育館のような巨大な空間が確保されていた。
「防空指揮所(CIC)だ」
坂上は言った。
「この艦の役割を変える。
『殴り込み』の戦艦ではない。
艦隊全体の防空を指揮し、情報を処理する、洋上の『サーバー(司令塔)』にする」
「……司令塔?」
「そうだ。
強力なレーダーと通信設備を積み、上空のゼロ戦隊と、周囲の護衛艦を、一元的に指揮する。
そのための『場所』と『電力』を確保しろ」
「馬鹿な!」
牧野が叫んだ。
「そんなことをすれば、副砲が積めなくなる!
居住区も減る! 重心のバランスも崩れる!」
「副砲などいらん。対空機銃に変えろ」
坂上は譲らなかった。
「居住区? 大和ホテルと揶揄されたくなければ、畳を捨てて機材を詰め込め。
……これは、『お願い』ではない」
坂上は、懐から一枚の辞令書を取り出した。
山本五十六の署名と実印が押された、海軍大臣命令書(特例)だった。
「命令だ。
大和を、ただの筋肉ダルマにするな。
……『頭脳』を持たせろ」
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