『「貴様の命令では犬死にだ」 50歳のイージス艦長、昭和(1935)に転生。非効率な精神論を殴り飛ばし、日本を魔改造する』

月神世一

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第三章 大和

EP 7

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魔改造の代償
​設計変更は、強行された。
現場の抵抗は凄まじかったが、山本の権威と、坂上が提示した「対空戦闘シミュレーション」のデータ(大和が航空攻撃で無惨に沈む予測図)が、彼らを黙らせた。
​だが、それは「完全な勝利」ではなかった。
すでに鋳造されてしまった46センチ砲や、分厚すぎる装甲板は、変更がきかない。
坂上ができたのは、あくまで「上部構造」と「内部艤装」の変更だけだった。
​数日後。
坂上は、建造ドックの底、大和の巨大なスクリューの近くに立っていた。
溶接の火花が散り、ハンマーの音が響き渡る。
​「……歪(いびつ)だな」
坂上は、見上げた船体に呟いた。
下半身は、前時代の「大艦巨砲主義」の怪物。
上半身は、未来の「情報戦」を見据えた、アンテナだらけのサイボーグ。
それが、坂上が生み出した「魔改造・大和」の姿だった。
​「……でも、凄いです」
薫が、坂上の隣で、ヘルメットを被りながら言った。
「職人さんたち、文句を言いながらも、凄い勢いで図面を書き直しています。
……彼らも、心のどこかで分かっていたのかもしれません。
『このままではいけない』って」
​「職人の腕はいい。それは認める」
坂上は、溶接の跡を指でなぞった。
「だが、技術(ウデ)が良くても、素材(モノ)が悪ければ割れる」
​坂上は、足元に転がっていたリベットを拾い上げた。
「薫君。次の仕事だ。
この国の『溶接技術』と『鋼材の質』を、底上げする」
​「え? 大和だけじゃなくて?」
​「全艦艇だ」
坂上は、ドックの外、広大な海を見た。
「これから始まる戦争は、消耗戦だ。
船は沈む。沈んだら、すぐに次を作らなきゃならん。
今の『職人芸』に頼ったリベット打ちでは、量産が間に合わない」
​「電気溶接(ブロック工法)を、標準化する。
職人の勘ではなく、誰がやっても同じ強度が出る『マニュアル』を作るんだ」
​「……また、嫌われますよ? 職人さんたちに」
薫が苦笑する。
​「構わん」
坂上は、リベットを海に投げ捨てた。
「嫌われても、生きていてくれればいい。
……俺たちが作るのは、『神話』じゃない。
『生き残るためのシステム』だ」
​昭和13年の暮れ。
巨大戦艦「大和」は、その胎動の中で、歴史とは異なる「異形の進化」を遂げようとしていた。
だが、その外の世界では、坂上の懸念通り、
「ノモンハン」という名の、陸軍の悪夢が近づいていた。
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