鬼神と月兎

月神世一

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序章 DEATH4

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死を呼ぶ4番

闘技場の裏手、腐臭が立ち込めるゴミ捨て場。

ゴルディの部下の一人が、汚物を吐き捨てるように悪態をついた。

「ペッ! なーにが無敵の戦士様だよ。ガキにやられやがって、俺の賭け金が台無しじゃねーか! クソが!」

男はそう言って、転がされているたつまろの亡骸を、無造作に蹴り飛ばした。

「あーあ、ゴミ同士仲良く捨てられて、ざまぁねぇな」

もう一人の男が、小さな布に包まれたユウの遺体を、たつまろの隣に投げ捨てる。その衝撃で、ユウの冷たくなった小さな手が、たつまろの頬に触れた。

その、瞬間。

たつまろの閉ざされた意識の底で、何かが弾けた。

(……母さん! 死ぬなよ……ユウ! 死ぬな!)

(……結局、1人も守れねぇじゃねえか)

(……俺が何とかするって言ったのに、どうにもならねぇじゃねえか!)

後悔。絶望。無力感。

守ると誓ったものは全て指の間からこぼれ落ち、残ったのは、ただ無価値な自分だけ。張り詰めていた心の糸が、ぷつりと、音を立てて切れた。

「! おい! 後ろ!」

部下の一人が、慄然とした声を上げる。

投げ捨てられたはずの「死体」が、ゆっくりと首を動かしていた。その瞳孔は、もはや人間のそれではない。全ての色を失った、虚無の穴だった。

「な、なんだてめ……」

男の言葉は、続かなかった。

起き上がったたつまろの手が、雷のような速さで男の首を掴み、あり得ない力で捻り上げる。ゴキリ、と鈍い骨の音が響き、首が明後日の方向を向いたまま、男は崩れ落ちた。

そして、たつまろは笑った。

口の端を歪め、最初はかすかに、やがて腹の底から絞り出すように。

「ハハッ! ……ハハハハハハハ!」

それは、全てのしがらみから解き放たれた、産声だった。

~闘技場~

「ん? なんで扉が閉まってるんだ! おい、出られないぞ!」

観客たちが、ざわめき始める。興奮は冷め、人々は出口へと殺到していたが、全ての鉄格子が固く閉ざされていた。

その時、闘技場に影が落ちた。

血塗れの身体を引きずり、虚ろな笑みを浮かべたたつまろが、観客席の通路に立っていた。

「ギャーーッ! な、何故死んだはずの奴がここに!」

「ヒィィー、助け……ギャッ!」

悲鳴は、すぐに途切れた。たつまろが、瞬きする間にその喉を掻き切っていたからだ。

「ハハハハハハハハ!」

狂った笑い声が、パニックに陥った闘技場に響き渡る。

「楽しいなぁ……。殺すのが、こんなに楽しいなんて、知らなかった」

「出せー! ここから出せーっ! ギャーー!?」

阿鼻叫喚の地獄が、そこに現出した。

何者かによって檻から解き放たれた闘技場の魔物たちが、逃げ惑う観客に牙を剥く。ゴルディは、自慢の貴賓席で、巨大な獣に頭から喰い千切られた。あちこちから火の手が上がり、黒煙が全てを包み込んでいく。

たつまろは、その地獄絵図の中心で、恍惚としていた。

「すっきりする……。こいつらを、いつか、どうやって殺そうかと、ずっと考えてたんだ」

そうだ、ずっと考えていた。この5年間、鉄格子の向こうから、自分を「見世物」として消費し、血と死に熱狂するこの醜い群衆を、一人残らず皆殺しにすることを。ユウが生きていたから、その一線を越えなかっただけだ。

だが、もう足枷はない。

「人殺しは、楽しい。ハハハハハハハハハ!」

人は逃げ惑いながら死に、ある者は魔物に食われ、ある者は炎に焼かれ、そして、ある者は、悪夢のように現れるたつまろに、命を摘み取られていった。

数時間後、かつて熱狂の坩堝だった場所は、死と静寂に支配された巨大な墓標と化していた。

その日を境に、たつまろは変わった。

自由となった彼は、その無敵の力で、好んで人を殺し始めた。彼が「悪」と断じた者たちを、一切の躊躇なく、ただ楽しみながら。

人々は、その圧倒的な暴力に抵抗しようとしたが、やがてそれが無意味だと知る。彼の行いは、人の理を超えている。それは、人の力では抗うことのできない、天災そのものなのだと。

そして、人々は恐怖と畏怖を込めて、彼をこう呼ぶようになった。

いつ、どこに現れるか分からない。

その災厄は、常に死を連れてくる。

世界の不条理が生み出した、4番目の、そして最悪の厄災――

「死を呼ぶ4番 -Death4-」 と。

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