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鬼神と月兎
EP 11
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鬼神、騎士と対峙する
「投降しろ!」
帝国騎士団の隊長が発した言葉は、疑念の余地のない、絶対の正義を執行せんとする者の響きを持っていた。銀色の鎧に太陽の紋章。彼らは、ルミナス帝国が誇る、秩序の守護者。そして、彼らの目に映る龍魔呂は、その秩序を乱す、ただの「悪」でしかなかった。
龍魔呂の眉間の皺が、さらに深くなる。彼の全身から立ち上る赤黒い闘気は、明確な敵意に反応し、濃度を増していく。面倒だ、という感情が、純粋な闘争心へと変わり始めていた。この者たちを皆殺しにするのに、十秒とかかるまい。
龍魔呂が、地面を蹴ろうと、その足に力を込めた、その時。
「お待ちください!」
凛とした、しかし必死な声が、両者の間に響いた。ユイが、龍魔呂の前に飛び出すようにして立ち、騎士団に向かって両手を広げたのだ。
「この方は敵ではありません! ダイチ様を、魔族の砦からたったお一人で救い出してくださった、命の恩人なのです!」
隊長は、その言葉にも眉一つ動かさない。その目は、獣人族であるユイを、侮蔑の色を隠さずに見下ろしていた。
「黙れ、亜人めが! そのような戯言を誰が信じるものか! 貴様も、その邪悪な男に与する魔族の手先であろう!」
「ち、違います! わたくしは月兎族の…!」
「問答無用! 勇者様を傷つける前に、その男を捕らえよ!」
騎士たちの槍の穂先が、一斉に龍魔呂へと向けられる。交渉の余地はない。彼らの正義は、あまりにも硬直していた。龍魔呂の口元に、自嘲的な笑みが浮かぶ。やはり、こうなるのか、と。闘気が、再び爆発的に膨れ上がろうとした。
「ま、待ってくださいッ!」
その声を上げたのは、これまでユイの背後で震えていた、ダイチだった。
彼は、おずおずと、しかし確かな足取りで、龍魔呂とユイの前に進み出た。
「だ、ダイチ様!?」
「その人たちは、本当のことを言っています!」
ダイチは、震える声で、しかし、そこにいる全員に聞こえるように叫んだ。
「この人…龍魔呂さんがいなかったら、僕は今頃、まだあの暗い牢屋の中に…! この人が、一人で、僕を助けてくれたんです!」
その言葉に、騎士たちは動揺した。彼らが守るべき「勇者」本人が、庇っている。隊長は、それでも疑念を捨てきれない。
「勇者様! そやつに脅されているのではありますまいな? ご安心ください、我ら帝国騎士団が、必ずやお救いいたします!」
「脅されてなんかいません!」
ダイチは、さらに声を張った。そして、彼は、その場にいる誰もが予想しなかった行動に出る。
彼は、赤黒い闘気を放ち続ける、龍魔呂の元へと歩み寄ったのだ。そして、その武骨で大きな手の、服の裾を、小さな手で、きゅっと掴んだ。
龍魔呂の身体が、硬直した。
彼が最も避けていた、子供との接触。その無垢な信頼の仕草。
脳裏に、あの日の悪夢が、一瞬だけ、閃光のように過る。
「大丈夫です」
ダイチは、龍魔呂を見上げて、騎士たちに向かって言った。
「この人は、怖そうに見えるけど…悪い人じゃないです。僕が、それを一番よく知ってます」
その言葉は、まるで魔法のようだった。
龍魔呂の全身から噴き出していた赤黒い闘気が、まるで幻だったかのように、すぅっと、彼の体内へと収まっていく。嵐が、凪いだ。龍魔呂は、自らの服の裾を掴むダイチの小さな手を、ただ、複雑な表情で見下ろしていた。
騎士たちは、その信じがたい光景を目の当たりにして、言葉を失っていた。勇者本人の証言と、あの禍々しい気配が霧散したという事実。もはや、彼らに攻撃する大義名分はなかった。
隊長は、苦々しげに顔を歪めながらも、ゆっくりと槍を下ろした。
「……勇者様のご意思とあらば。…分かった」
彼は、それでも龍魔呂への警戒を解かずに続ける。
「しかし、聖都ソラリスにて、貴様の素性は、然るべき方々に判断していただく。それまで、我々と同行願おう」
こうして、一触即発の危機は、ダイチの生まれて初めての「勇気」によって回避された。
鬼神と勇者、そして月兎。三人の奇妙な一行は、ルミナス帝国騎士団の厳重な「護衛」という名の監視を受けながら、大陸で最も栄華を極めるという聖都ソラリスへと、その歩みを進めることになったのだった。
「投降しろ!」
帝国騎士団の隊長が発した言葉は、疑念の余地のない、絶対の正義を執行せんとする者の響きを持っていた。銀色の鎧に太陽の紋章。彼らは、ルミナス帝国が誇る、秩序の守護者。そして、彼らの目に映る龍魔呂は、その秩序を乱す、ただの「悪」でしかなかった。
龍魔呂の眉間の皺が、さらに深くなる。彼の全身から立ち上る赤黒い闘気は、明確な敵意に反応し、濃度を増していく。面倒だ、という感情が、純粋な闘争心へと変わり始めていた。この者たちを皆殺しにするのに、十秒とかかるまい。
龍魔呂が、地面を蹴ろうと、その足に力を込めた、その時。
「お待ちください!」
凛とした、しかし必死な声が、両者の間に響いた。ユイが、龍魔呂の前に飛び出すようにして立ち、騎士団に向かって両手を広げたのだ。
「この方は敵ではありません! ダイチ様を、魔族の砦からたったお一人で救い出してくださった、命の恩人なのです!」
隊長は、その言葉にも眉一つ動かさない。その目は、獣人族であるユイを、侮蔑の色を隠さずに見下ろしていた。
「黙れ、亜人めが! そのような戯言を誰が信じるものか! 貴様も、その邪悪な男に与する魔族の手先であろう!」
「ち、違います! わたくしは月兎族の…!」
「問答無用! 勇者様を傷つける前に、その男を捕らえよ!」
騎士たちの槍の穂先が、一斉に龍魔呂へと向けられる。交渉の余地はない。彼らの正義は、あまりにも硬直していた。龍魔呂の口元に、自嘲的な笑みが浮かぶ。やはり、こうなるのか、と。闘気が、再び爆発的に膨れ上がろうとした。
「ま、待ってくださいッ!」
その声を上げたのは、これまでユイの背後で震えていた、ダイチだった。
彼は、おずおずと、しかし確かな足取りで、龍魔呂とユイの前に進み出た。
「だ、ダイチ様!?」
「その人たちは、本当のことを言っています!」
ダイチは、震える声で、しかし、そこにいる全員に聞こえるように叫んだ。
「この人…龍魔呂さんがいなかったら、僕は今頃、まだあの暗い牢屋の中に…! この人が、一人で、僕を助けてくれたんです!」
その言葉に、騎士たちは動揺した。彼らが守るべき「勇者」本人が、庇っている。隊長は、それでも疑念を捨てきれない。
「勇者様! そやつに脅されているのではありますまいな? ご安心ください、我ら帝国騎士団が、必ずやお救いいたします!」
「脅されてなんかいません!」
ダイチは、さらに声を張った。そして、彼は、その場にいる誰もが予想しなかった行動に出る。
彼は、赤黒い闘気を放ち続ける、龍魔呂の元へと歩み寄ったのだ。そして、その武骨で大きな手の、服の裾を、小さな手で、きゅっと掴んだ。
龍魔呂の身体が、硬直した。
彼が最も避けていた、子供との接触。その無垢な信頼の仕草。
脳裏に、あの日の悪夢が、一瞬だけ、閃光のように過る。
「大丈夫です」
ダイチは、龍魔呂を見上げて、騎士たちに向かって言った。
「この人は、怖そうに見えるけど…悪い人じゃないです。僕が、それを一番よく知ってます」
その言葉は、まるで魔法のようだった。
龍魔呂の全身から噴き出していた赤黒い闘気が、まるで幻だったかのように、すぅっと、彼の体内へと収まっていく。嵐が、凪いだ。龍魔呂は、自らの服の裾を掴むダイチの小さな手を、ただ、複雑な表情で見下ろしていた。
騎士たちは、その信じがたい光景を目の当たりにして、言葉を失っていた。勇者本人の証言と、あの禍々しい気配が霧散したという事実。もはや、彼らに攻撃する大義名分はなかった。
隊長は、苦々しげに顔を歪めながらも、ゆっくりと槍を下ろした。
「……勇者様のご意思とあらば。…分かった」
彼は、それでも龍魔呂への警戒を解かずに続ける。
「しかし、聖都ソラリスにて、貴様の素性は、然るべき方々に判断していただく。それまで、我々と同行願おう」
こうして、一触即発の危機は、ダイチの生まれて初めての「勇気」によって回避された。
鬼神と勇者、そして月兎。三人の奇妙な一行は、ルミナス帝国騎士団の厳重な「護衛」という名の監視を受けながら、大陸で最も栄華を極めるという聖都ソラリスへと、その歩みを進めることになったのだった。
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