「月が綺麗ですね」その一言の為に世界を壊した。蜘蛛を助けた極悪人と、彼を数千年も探し続けた女神の、地獄から始まる転生純愛物語

月神世一

文字の大きさ
2 / 24

EP 2

しおりを挟む
冥府の門と白き姫
意識の淵から浮上したとき、最初に感じたのは、あの焼けつくような熱さではなく、骨の髄まで染みる冷気だった。
「……お願い、お願いします」
「駄目です、私が怒られてしまいます」
鈴を転がすような切実な声と、それを厳格に拒絶する野太い声。
世一は重たい瞼をこじ開けた。視界が歪む。灰色の空、立ち込める霧。
「、ん……あ? ここは何処だ」
体を起こそうとするが、鉛のように重い。
目の前には、見上げるような巨躯の男が仁王立ちしていた。青黒い肌に、頭から突き出た一本の角。鉄棒を携えたその姿は、まさしく地獄の門番である。
「気づいたか、極悪の者よ」
門番は地の底から響くような声で世一を見下ろした。
「あ? 誰だお前」
世一は不機嫌そうに眉をひそめた。状況は飲み込めていないが、持ち前のふてぶてしさは死んでも変わらない。
「これから地獄の業火に焼かれる者に、名乗る名など無い」
門番が鼻を鳴らす。だが、世一の視線は既に門番を通り越していた。
その巨体の後ろ、岩陰から白い着物の裾がわずかにはみ出しているのを見つけたからだ。
「あ? お前じゃねーよ。そこに隠れてる可愛いねーちゃんに聞いてんだよ」
世一が顎でしゃくると、岩陰の気配が「……っ」と息を呑んだのが分かった。
門番の顔色が、青から朱へと変わる。
「き、貴様、誰に向かって話をしている!」
罪人ごときが、あろうことかこの場の誰よりも高貴な御方を「ねーちゃん」呼ばわりしたのだ。門番の怒髪が天を衝く。
「ええぃ、裁きを言い渡すまでも無い、我がこの場で首をはねてくれよう!」
門番が巨大な鉄棒を振り上げ、殺気をたぎらせて一歩踏み出す。
普通の魂ならば恐怖で縮み上がるところだが、世一は鼻で笑った。
「あ? 誰に口きいてんだテメー」
世一はゆらりと立ち上がった。手ぶらだが、その構えには数多の修羅場をくぐり抜けてきた殺気が宿っている。
「首をハネるだと? やってみろよ」
「き、貴様ァ……!」
門番が鉄棒を振り下ろそうとした、その瞬間。
「やめて下さい!」
凛とした声が霧を切り裂いた。
岩陰から飛び出してきたのは、透き通るような白い肌を持つ、美しい少女だった。
その姿を見た門番の動きが、ぴたりと止まる。
「ひ、姫様」
姫と呼ばれた少女は、世一と門番の間に割って入り、両手を広げて世一を庇っていた。その瞳は、何かを訴えるように潤んでいる。
「和勇牛(でゅぐ)よ、貴方は下がっていなさい」
「は……?」
門番――和勇牛は、振り上げた鉄棒を下ろすのも忘れ、困惑の表情を浮かべた。
「姫様、しかしこやつは極悪非道の……」
「私はこの御方と話がしたいのです」
姫は譲らなかった。その華奢な体のどこにそんな威厳があるのか、不思議なほどの迫力で和勇牛を見据える。
「い、いやそういうわけには……閻魔大王様に示しが……」
「下がりなさい!」
鋭い一喝。
空気がビリビリと震えた。絶対的な命令。
「! は、ははっ」
和勇牛は慌てて鉄棒を収め、その場に平伏した。恐ろしい形相の鬼が、少女の一言で縮こまる様は滑稽ですらあった。
静寂が戻る。
世一は、自分の目の前で背を向けている少女の後ろ姿をまじまじと見た。
真っ白な着物。そして、結い上げられた髪に刺さっているのは、銀細工の蜘蛛の簪(かんざし)。
どこか、あの炎の中で見た「白」を連想させた。
少女がゆっくりと振り返る。
その瞳が、世一を真っ直ぐに捉えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

処理中です...