悪役令嬢を救ったグレーな弁護士ですが、裏社会最強の鬼神店主に「俺の客だ」と胃袋ごと囲われました。天然ジゴロの溺愛角煮は法廷より甘すぎる

月神世一

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EP 6

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裁けぬ悪と、甘いご褒美 ~法律が届かない場所で、鬼神は静かに怒る~
​ 決戦の朝。王都中央裁判所は、かつてないほどの熱気に包まれていた。
 傍聴席は満員。貴族、新聞記者、そして野次馬たちで埋め尽くされている。
​ 被告人席には、やつれた表情の公爵令嬢セラフィーナ。
 そして証言台の向こうには、豪奢な軍服を着た第二王子エドワードが、ふんぞり返っていた。
​「愚かな。リベラとか言ったか? たかが平民の弁護士が、この王族に楯突くとはな。不敬罪で即刻処刑してもいいのだぞ?」
​ エドワード王子は嘲笑う。彼の隣には、王家御用達の老獪な弁護士が立ち、余裕の笑みを浮かべていた。彼らのシナリオでは、財務官ゼラー伯爵は「行方不明」扱いになり、全ての罪はセラフィーナに着せられる手はずだ。
​「裁判長。被告人セラフィーナの横領は明白です。彼女はジオ・リザードの飼育費を水増しし、私腹を肥やしていた。証拠の帳簿もあります」
​ 王家側の弁護士が偽造された帳簿を提出する。完璧な布陣だ。
​ だが、リベラは扇子を口元に当て、優雅に笑った。
​「あら、奇遇ですわね。私の手元には、『真実の帳簿』と、それを記した『ご本人』がいらっしゃいますの」
​ リベラが指を鳴らすと、法廷の扉が重々しく開かれた。
 現れたのは、死んだと思われていた財務官、ゼラー伯爵だ。
​「なっ……ゼラー!? 貴様、なぜここに!」
​ 王子の顔色が劇的に変わる。
 ゼラー伯爵は、一瞬リベラの方を見て――そして、昨夜の『鬼神』の恐怖を思い出したのか、青ざめた顔で震えながらも証言台に立った。
​「……証言します。セラフィーナ嬢は無実です。横領を指示したのは……すべて、エドワード殿下です」
​ 法廷がどよめきに包まれる。
​「殿下は、ドワーフの地下帝国ドンガンから違法な魔導兵器を仕入れ、それを隠蔽するために公爵家の名義を悪用しました。これが、その裏帳簿と、ガルムの廃墟で回収された魔導ログです!」
​ リベラが証拠品を叩きつける。
 王家側の弁護士が「異議あり! その証人は買収されている可能性がある!」と叫ぶが、リベラは冷徹に切り返した。
​「買収? いいえ、彼は我がサクラダ商会と『適正な雇用契約』を結んだだけです。それに、この魔導ログの魔力波形は、王子の杖のものと一致していますわ。……科学捜査(魔法鑑識)からは逃げられませんよ?」
​ リベラの【真実の天秤】が、王子の有罪を確定させる。
 追い詰められた王子は、顔を真っ赤にして立ち上がった。
​「黙れ、黙れ黙れ!! 私は次期国王だぞ! 下賤な平民どもが、私を裁けると思っているのか!」
​ その醜悪な叫びこそが、何よりの自白だった。
 傍聴席の民衆から、王子へのブーイングが巻き起こる。裁判長の木槌が鳴り響いた。
​「判決を言い渡す! 被告人セラフィーナ・ド・ラヴィエは……無罪!」
​ 歓声が爆発した。セラフィーナは泣き崩れ、リベラに抱きついた。
 完全勝利だ。……そう、思われた。
​「ただし――エドワード殿下への処遇については、『王家の内部調査』に委ねるものとする。閉廷!」
​ 裁判長は冷や汗をかきながら、早口でそう告げた。
 王族への逮捕権は、司法にはない。王子は衛兵に囲まれながらも、リベラを睨みつけて捨て台詞を吐いた。
​「……覚えていろよ、アマ。王宮に戻れば、私には権力がある。お前も、あの証人も、全員消してやるからな……!」
​ 王子は連行されるのではなく、「保護」されて去っていった。
 リベラは、その背中をじっと見つめ、強く扇子を握りしめた。
​ ◇ ◇ ◇
​ その夜。『鬼灯』の暖簾を潜ったリベラの足取りは重かった。
 店に入ると、いつものようにカウンターの端に座り、深いため息をついた。
​「……勝ったけど、負けましたわ」
​ 龍魔呂さんは、無言でお茶を差し出した。
​「セラフィーナ様は救えました。でも、巨悪は裁けなかった。法律は、王族の血までは切れない……悔しいですけれど、これが今の私の限界です」
​ リベラは唇を噛む。王子は必ず報復してくる。サクラダ商会や、守った証人たちに被害が及ぶかもしれない。
 その時、コトッ、と目の前に皿が置かれた。
​ 震えるほど美しい、七色に輝く『レインボープリン』だった。
 希少なスライムのゼリーと、濃厚な卵黄を使った、この店だけの裏メニューだ。
​「食え。……頭を使って、甘いものが欲しかったんだろう」
​ 龍魔呂さんは、ぶっきらぼうにそう言った。
 リベラはスプーンで一口すくう。とろけるような甘さと、カラメルのほろ苦さが口いっぱいに広がり、張り詰めていた糸がプツンと切れた。
​「……美味しい。……美味しいです、龍魔呂さん……っ」
​ 悔し涙が、プリンに落ちそうになるのを必死に堪える。
 そんな彼女の頭に、大きな手がポンと乗せられた。
​「よくやった。……お前は、お前の仕事(領分)を果たしたんだ」
​ 無骨だが、温かい手だった。
​「あとは、ゴミ出しの時間だ」
​「え?」
 リベラが顔を上げる。
 龍魔呂さんは、既にエプロンを外し、いつもの深紅のジャケットを羽織っていた。
 その瞳は、昼間の優しい店主のものではない。
 絶対的な死を宣告する、『DEATH4』の光を宿していた。
​「法律で裁けないなら、俺の流儀(ルール)で片付ける。……リベラ、お前はここでプリンを食って待ってろ。おかわりもある」
​「龍魔呂さん、まさか……」
​「勘定はツケだ。……行ってくる」
​ 彼は音もなく店を出て行った。
 夜の闇に溶け込むその背中は、どんな魔王よりも恐ろしく、そして頼もしかった。
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