悪役令嬢を救ったグレーな弁護士ですが、裏社会最強の鬼神店主に「俺の客だ」と胃袋ごと囲われました。天然ジゴロの溺愛角煮は法廷より甘すぎる

月神世一

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EP 11

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最強の弁護団、結成! ~魔王と獣王と鬼神の胃袋を握る女~
 魔王ラスティア様による「世界変革(と婚活)のための訴訟依頼」が成立した直後。
 小料理屋『鬼灯』の空気は、混沌を極めていた。
「いいかリベラ、私の要望はシンプルだ。女神ルチアナを引きずり出し、『三竦みシステム』の撤廃と、『素敵な殿方との出会いの場の提供』を約束させる。これを法廷で勝ち取るのだ」
 ラスティア様は、龍魔呂さんが出した「特製・魔界風激辛麻婆豆腐」を優雅に食しながら、とんでもないことを言っている。
「いや、シンプルじゃありませんわ。相手は創造神ですよ? そもそも裁判所の管轄外です」
「だからこそだ! 法がないなら作ればいい。……貴様、先日第二王子にそう言ったのだろう?」
 うっ。痛いところを突かれた。
 隣では、獣王レオが「大盛りご飯」を片手に追加注文している。
「ガハハ! 面白ぇじゃねぇか! 俺もその訴訟に参加するぜ。『原告団』ってやつだろ? 俺たち獣人も、いい加減魔族との不毛な殺し合いには飽きてんだ。もっとこう、スポーツとかメシで競い合う世界の方が健全だろ?」
 魔王と獣王がタッグを組む。歴史上、ありえない事態だ。
 私はため息をつきつつ、手帳を開いた。
「……分かりました。訴訟の方向性は『独占禁止法違反(世界の理の私物化)』および『幸福追求権の侵害』でいきましょう。ですが、神を法廷に引きずり出すには、彼女の居場所を突き止め、召喚状を叩きつける必要があります」
 女神ルチアナは神出鬼没。どこにいるか分からない。
「フフ、その点は抜かりないぞ」
 ラスティア様が不敵に笑う。
「ルチアナの居場所を知る者が三人いる。世界の管理者として配置された『三柱の調停者』……竜王デューク、狼王フェンリル、不死鳥フレアだ。奴らを証人として確保すれば、ルチアナも隠れてはいられん」
 調停者。神話に出てくる伝説の怪物たちだ。
 そんな連中を証人喚問するなんて、正気の沙汰じゃない。
「……ま、やるしかありませんわね。報酬(魔族領の独占権と女子会)のためですもの」
 私が覚悟を決めると、厨房からカチャリ、と音がした。
 龍魔呂さんが、大きな風呂敷包みをカウンターに置いたのだ。
「……待て。話は終わったか」
「ええ、まあ。これからその三柱を探す旅に出ることに……」
 私が言いかけると、龍魔呂さんは眉間に深いシワを寄せ、その風呂敷包みを私の前にずいっと押し出した。
「これを持っていけ」
「え? なんですの、これ?」
 ずっしりと重い。開けてみると、そこには――
 ・真空パックされた大量の『豚の角煮』
 ・日持ちするよう燻製にされた『鴨肉のロースト』
 ・瓶詰めにされた『特製肉味噌』と『万能スパイス』
 ・疲労回復用の『ハチミツ漬けレモン』
 まるで、戦地に赴く兵士に持たせるような、過剰なまでの保存食セットだった。
「……旅先じゃ、まともな飯は食えん。お前の肌が荒れる」
 龍魔呂さんは、私の顔をじっと見て、真剣なトーンで言った。
「いいか。ちゃんと三食食え。野菜も摂れ。……もし帰ってきた時、少しでも痩せてたら、俺が許さん」
 ドキン。
 店内の空気が一瞬止まった。
 な、何ですか今の言い方!?
 「許さん」って、怒ってるのに、なんでそんなに愛おしそうな目をするんですか!?
 隣でレオが「ヒューッ! 愛妻弁当かよ!」と茶化し、ラスティア様が「……あら、いい男じゃない。私にも紹介しなさいよ」と興味深そうに見ている。
 私は顔から火が出るのを必死に抑えた。
「り、龍魔呂さん……これ、お店の在庫じゃありませんの? こんなに貰えませんわ!」
「気にするな。……お前がいない間、どうせ俺は張り合いがない」
 彼はボリッと角砂糖を噛み砕き、プイッと顔を背けた。
 耳が赤い。
「……胃袋の管理は俺がする。お前は、デカい顔して裁判してこい」
 ああ、もう。
 この不器用な優しさに、私はいつだって敵わない。
 私は風呂敷を大切に抱きしめ、彼に向かって満面の笑みを向けた。
「はい! ……必ず、美味しくいただいて、勝訴して帰ってきます!」
 こうして。
 最強の弁護士(私)、魔王、獣王という凸凹トリオに、最強の料理人(の愛妻弁当?)を加えた「世界変革・原告団」が結成された。
 最初のターゲットは、山岳地帯に潜むという『竜王デューク』。
 噂では、彼は最近「何か」に熱中していて、仕事をサボっているらしいが……?
 「よし、行くぞリベラ! 俺の背中に乗りな! ひとっ飛びだ!」
 「私の転移魔法の方が早いわよ、駄犬」
 「喧嘩しないでくださいまし! ……行ってきます、龍魔呂さん!」
 私たちは店を出た。
 背後で見送る鬼神の視線が、どんな魔除けよりも心強く感じられた。
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