悪役令嬢を救ったグレーな弁護士ですが、裏社会最強の鬼神店主に「俺の客だ」と胃袋ごと囲われました。天然ジゴロの溺愛角煮は法廷より甘すぎる

月神世一

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EP 12

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第一の証人、竜王デューク ~ラーメン屋台の営業許可証はお持ちですか?~
 王都から遥か北、雲を突き抜ける険しい岩山『竜の爪痕』。
 私たち「世界変革・原告団」一行は、そこに降り立った。
「おいおい、本当にこんな所に伝説の竜王がいるのかよ? 魔獣一匹いねぇぞ」
 獣王レオが鼻をひくつかせながら周囲を見回す。
 魔王ラスティア様は、不快そうにヒールの泥を魔法で弾いた。
「気配は感じる。だが……なんだ、この妙な臭いは。獣臭いというか、焦げ臭いというか……」
 確かに。硫黄の臭いに混じって、どこか食欲をそそる、脂っこい匂いが漂っている。
 これはまさか……豚骨スープ?
 岩陰を曲がった先。私たちは信じられない光景を目にした。
 断崖絶壁の僅かな平地に、ボロボロの屋台が一軒。
 暖簾には下手くそな字で『麺屋 黄金(ゴールデン)』と書かれている。
「……いらっしゃい。スープの出来を見るから、静かにしてくれ」
 屋台の中にいたのは、渋い髭を蓄え、頭にタオルを巻いたダンディなオジサマ――竜王デューク(人間形態)だった。
 伝説の調停者が、エプロン姿で寸胴鍋をかき混ぜている。世界観がバグっている。
「久しぶりだな、トカゲ。こんな所でままごとか?」
 ラスティア様が冷ややかに声をかけると、デュークは眉をピクリと動かし、鋭い金色の瞳を向けた。
「……ラスティアか。それに駄猫(レオ)と、人間。我の神聖な厨房に土足で踏み込むとは、死にたいようだな」
 ドォォォン!!
 デュークの全身から黄金の闘気が噴き上がる。ただの威圧で岩山が震え、屋台のチャルメラが悲鳴のような音を立てた。
「おっと! いきなり喧嘩腰かよ!」
 レオが構えるが、私は一歩前に出た。ここは弁護士の出番だ。
「初めまして、竜王デューク様。私は弁護士の桜田リベラです。今日は貴方に、女神ルチアナへの訴訟の『証人』になっていただきたく――」
「帰れ。麺が伸びる」
 デュークは聞く耳を持たない。
 それどころか、口元に黄金の粒子(ブレスの予兆)を集め始めた。
「警告だ。3秒以内に消え失せろ。さもなくば、アルティメット・バースト(極小出力)で消し飛ばす」
 交渉決裂。問答無用の暴力。
 だが、私は引かない。ニッコリと笑い、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
「異議あり!」
 私の凛とした声が、山頂に響く。
「デューク様。貴方がこの屋台を経営されていることについて、『食品衛生法違反(無許可営業)』および『道路交通法違反(不法占拠)』、さらにスープの残渣を谷底に捨てている『廃棄物処理法違反』の疑いがあります!」
「……は?」
 デュークのブレスが止まった。
 彼はポカンとして私を見た。
「な、なんだその呪文(法律)は。我は竜王だぞ? 人間の法など知らん」
「知らなかったでは済まされませんわ! ここは公道(登山道)です。即時撤去か、正式な手続きを踏んで営業許可を取るか。……さもなくば、この違法屋台を『強制執行』で差し押さえます!」
 私がビシッと屋台を指差すと、デュークは顔を真っ赤にして怒鳴った。
「馬鹿な! このスープは我が数十年かけて開発した至高の『ドラゴン豚骨』だ! 違法なものか! 食えば分かる!」
「ほう? 食べて証明しろと?」
 私は腕組みをした。
「いいでしょう。もしそのラーメンが、私の舌を唸らせるほど美味しければ、違法の件は見逃して差し上げます。その代わり……不味ければ、大人しく証言台に立っていただきますわよ」
「面白い! 人間風情が、我の味にケチをつけられると思うなよ!」
 デュークは猛然と湯切りを始めた。
 数分後。
 黄金色に白濁したスープに、極太麺が泳ぐラーメンが、ドン! と置かれた。
「食らえ! 特製・黄金ドラゴン麺だ!」
 私は割り箸を割り、スープを一口啜る。
 ……ズズッ。
 濃厚だ。ドラゴンの火力で煮出したスープは、確かにパンチがある。
 だが――
「……惜しいですわね」
 私は箸を置いた。
「え?」
「火力に頼りすぎて、獣臭さが残っています。それに、コクが足りない。ただ脂っこいだけ。……これでは、屋台の許可は下りませんわ」
「な、なにいぃぃぃ!? 貴様、味音痴か!?」
 デュークが激昂する。
 私は冷静に、鞄から「ある小瓶」を取り出した。
 龍魔呂さんが持たせてくれた、『特製肉味噌』だ。
「デューク様。騙されたと思って、これをスプーン一杯、入れてみてください」
「なんだその泥のようなものは……」
 デュークは半信半疑で、肉味噌をスープに溶かした。
 そして、そのスープを味見した瞬間。
 カッ!!
 デュークの目が見開かれた。
 背景に、宇宙(コスモ)が広がったように見えた。
「な……なんだこれは……!? 獣臭さが消え、複雑で濃厚な旨味が爆発した……!? 味噌のコク、生姜のキレ、そしてこの隠し味は……ハチミツか!?」
 彼は震える手で丼を持ち上げ、一気に飲み干した。
「う、美味い……! 我が求めていた『黄金』は、これだったのか……!!」
 デュークはガクリと膝をついた。完敗だ。
「……誰だ。これを作ったのは」
「私の馴染みの料理人、鬼神 龍魔呂さんです。彼の店に行けば、もっと美味しいラーメンが食べられますわよ?」
 私が悪魔の囁きをすると、デュークはガバッと顔を上げた。
「紹介しろ!! 今すぐにだ!!」
「ええ、喜んで。……ですがその前に、『女神ルチアナへの訴訟』の証人になっていただきます。それが条件です」
 デュークは一瞬迷ったが、口の中に残る肉味噌の余韻には抗えなかった。
「……分かった! 証言でも何でもしてやる! その代わり、その料理人に会わせろ! そしてラーメンの作り方を教えろと言え!」
 勝負あり。
 こうして、伝説の竜王は、一杯の肉味噌(と龍魔呂さんの胃袋支配力)によって陥落した。
「リベラ……お前、恐ろしい女だな」
「ガハハ! さすが俺が見込んだ女だ!」
 呆れるラスティア様と笑うレオを尻目に、私はデュークに「営業許可申請書(リベラ自作)」へのサインを書かせた。
 第一の証人、確保完了。
 次は、極寒の地に住む戦闘狂、狼王フェンリルだ。
 彼には「肉味噌」は通じなそうだが……龍魔呂さんの「あのお菓子」なら?
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