悪役令嬢を救ったグレーな弁護士ですが、裏社会最強の鬼神店主に「俺の客だ」と胃袋ごと囲われました。天然ジゴロの溺愛角煮は法廷より甘すぎる

月神世一

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EP 13

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第二の証人、狼王フェンリル ~絶対零度のバトルジャンキーと、プルプル巨大プリン~
 竜王デューク(ラーメン屋台のおっちゃん)を仲間に加えた私たち一行は、次なる目的地、大陸最北端の『氷結地獄(ニブルヘイム)』を目指していた。
「寒っ!! なんですのこの気温! マイナス50度ってレベルじゃありませんわよ!」
 私はガチガチと歯を鳴らし、龍魔呂さんから借りた(貰った?)深紅のジャケットを毛布のように被っていた。このジャケット、ほんのり彼のエプロンと同じダシの匂いがして落ち着くのだが、それでも寒いものは寒い。
「軟弱だぞリベラ。……それより、あの料理人の店に行けば、替え玉は無料なのか?」
「知るか! テメェは黙ってろトカゲ!」
 新入りのデュークは、ずっとラーメンの話しかしていない。獣王レオとは「犬か猫か」「トカゲかヤモリか」で小競り合いをしている。
 魔王ラスティア様は、寒さで不機嫌MAXだ。
「……五月蝿い。男共をまとめてブラックホールに放り込みたい気分だ」
 そんなカオスな一行の前に、突如として巨大な『氷の城』が姿を現した。
 城門の前には、銀髪の青年が一人、欠伸をしながら座っている。
 首元にジャラジャラと鎖を巻き付けた、ヤンチャそうな美青年――狼王フェンリルだ。
「あーあ、退屈で死にそうだ。……ん? なんだか美味そうな匂いがする客が来たな」
 フェンリルが鼻をひくつかせ、ニヤリと笑う。
 その瞬間、彼の姿がブレた。
「遊ぼうぜぇ!!」
 ドガァァァン!!
 挨拶代わりの蹴りが、先頭を歩いていたレオを襲う。レオは咄嗟に腕でガードしたが、その衝撃で氷の大地がクレーター状に陥没した。
「痛ってぇなこの駄犬! いきなり何しやがる!」
「ハハッ! 獣王か! 頑丈で楽しそうだな! 次はトカゲ、お前だ!」
 フェンリルは楽しそうに笑いながら、氷の分身(アイス・ウルフ)を数十体生成し、全方位から襲いかかってきた。
「調子に乗るな若造が! 我のスープ仕込みを邪魔する奴は消し炭だ!」
 デュークがブチ切れて黄金の炎を吐く。
 炎と氷、そしてレオの物理攻撃が交錯し、周囲は天変地異のような惨状と化した。
「ちょ、ちょっと! ストップですわ! 私たちは裁判の証言をお願いしに――」
「あぁ? 裁判? つまんねーこと言ってんじゃねぇよ!」
 フェンリルは私の言葉など聞いちゃいない。
 彼は純粋な戦闘狂(バトルジャンキー)だ。楽しいか、つまらないか。それだけで動いている。
 このままでは、交渉どころか私たちが巻き込まれてミンチになる!
「……仕方ありませんわね。龍魔呂さんの『最終兵器』を使います!」
 私は、龍魔呂さんから託された風呂敷包みの中から、一番大きな保冷箱を取り出した。
 北国だからこそ持ってこられた、要冷蔵のスイーツ。
「異議あり!!」
 私は戦場のど真ん中で、箱をひっくり返した。
 ボヨヨンッ!!
 効果音が聞こえそうなほどの弾力と共に、氷の上に現れたのは――
 直径50センチはある、『特大バケツプリン』だった。
 龍魔呂さんが「フェンリルは子供舌だ」と見抜いて、卵と牛乳を限界まで使って固めた、黄金の山。カラメルソースが艶やかに輝いている。
「……あ?」
 フェンリルの動きが止まった。
 殴り合っていたデュークとレオも止まった。
「な、なんだその……プルプルした物体は……?」
 フェンリルは興味津々で近づき、ツン、と指でつつく。
 プリンはプルルンッと揺れて、彼の指を押し返した。
「生き物……か? スライムにしては甘い匂いがする……」
「それは『プリン』ですわ! 戦いよりもずっと刺激的で、とろけるような体験ができますよ?」
 私が挑発すると、フェンリルは目を輝かせた。
 彼はスプーン(というよりスコップ)で、プリンの山を豪快に掬い取り、口に放り込んだ。
 一瞬の静寂。
 そして――
「んっ……んんぅぅぅぅ~~~ッ!!??」
 狼王が、頬を押さえて身悶えした。
「あ、あめぇぇ! なんだこれ!? 噛まなくても溶ける! なのに濃厚な卵の味がガツンと来て……この黒い汁(カラメル)の苦味が最高に合うじゃねぇか!!」
 フェンリルは猛烈な勢いでプリンを食べ始めた。
 戦闘狂の顔が、完全に「おやつに夢中な子供」の顔になっている。
「美味い! 氷なんか齧ってる場合じゃねぇ! おい女、これ誰が作った!?」
「私の馴染みの料理人、鬼神龍魔呂さんです」
「鬼神!? あの人間か! ……くそっ、あいつこんな凄えモン作れたのかよ! 喧嘩売ってる場合じゃなかった!」
 フェンリルはあっという間にバケツプリンを完食し、皿まで舐め回すと、私の前に正座した(犬のお座り状態)。
「おい! おかわりはねぇのか!?」
「ありますよ。……ただし」
 私はニッコリと微笑み、契約書(証人承諾書)を差し出した。
「この書類にサインして、女神ルチアナへの裁判で証言してくれるなら。龍魔呂さんのお店で、『プリン食べ放題』をご馳走しますわ」
「マジか!? 裁判でも何でもやる! ルチアナの居場所? ああ、知ってる知ってる! 次はどこだ? フレアの所か? 俺が案内してやるよ!」
 チョロい。あまりにもチョロすぎる。
 最強の狼王は、プリン一個で私の忠実な下僕(ポチ)と化した。
「……龍魔呂さんの料理、麻薬か何か入ってるんじゃありませんの?」
「フッ、リベラ。あの男の料理は、魂を掴むのだ(経験者は語る)」
 デュークが偉そうに腕組みをして頷いている。お前が言うな。
 こうして、私たちは瞬く間に二人の調停者を仲間に引き入れた。
 残るは最後の一人。南の火山地帯に住む、不死鳥フレア。
 彼女は三柱の中で唯一まともに働いている「苦労人」らしいが……。
「フレアか……あいつ、最近ヒステリーが酷いからなぁ」
「肌荒れが治らないって、火山灰を顔に塗ってたぞ」
 フェンリルとデュークの不穏な情報に、私は嫌な予感を覚えた。
 これは、料理だけでは解決しないかもしれない。
 乙女の悩みには、乙女の(そして弁護士の)ケアが必要だ。
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