悪役令嬢を救ったグレーな弁護士ですが、裏社会最強の鬼神店主に「俺の客だ」と胃袋ごと囲われました。天然ジゴロの溺愛角煮は法廷より甘すぎる

月神世一

文字の大きさ
14 / 25

EP 14

しおりを挟む
第三の証人、不死鳥フレア ~残業月500時間の美女を、薬膳スープとエステで救え~
 北の氷河地帯で狼王フェンリル(プリン愛好家)を仲間に加えた私たち「世界変革・原告団」は、その足で大陸を縦断し、南の『焦熱火山帯』へとやってきた。
「暑っ!! さっきまでマイナス50度だったのに、今度はプラス50度ですの!? 私の肌を虐めるのもいい加減にしてください!」
 私は龍魔呂さんのジャケットを脱ぎ、団扇でパタパタと顔を扇ぐ。温度差で風邪を引くどころか、身体が分解しそうだ。
「へっ、だらしねぇなリベラ! 俺なんかプリン食ったおかげで元気百倍だぜ!」
「我慢しろ。……それにしても、ここに来るのは数百年ぶりか」
 フェンリルは氷の魔力で涼しげだし、デュークはそもそも炎属性なので平気な顔をしている。魔王ラスティア様も涼しい顔で日傘をさしている。人間(私)だけが瀕死だ。
 火口付近。マグマがぐつぐつと煮えたぎる中、巨大な岩の上に一人の女性が立っていた。
 燃えるような赤髪に、抜群のプロポーション。絶世の美女だが、その目は血走り、目の下には濃いクマができている。
 最後の調停者、不死鳥フレアだ。
「……あぁ? 何しに来たのよ、役立たずの男共」
 フレアの声は、地底のマグマよりも低く、ドスが効いていた。
「デ、デューク? フェンリル? ……アンタたちが遊んでる間、私がどれだけ働いてたか知ってる? 魔獣の間引き、邪神の封印チェック、地形の修復……先月の残業時間、500時間超えたわよ?」
 ブチッ。
 フレアの額で何かが切れる音がした。
「なのに! アンタたちはラーメン? プリン? ふざけんじゃないわよぉぉぉ!! 全員、燃え尽きなさい!!」
 ドゴォォォォォン!!
 フレアが翼を広げると、八つの炎龍が出現し、私たちに向かって襲いかかってきた。
 問答無用の八つ当たりだ!
「うおっ! 危ねぇ! おいババア、更年期かよ!」
「誰がババアよ駄犬ンンン!!」
「フレア、落ち着け! 我らは女神を訴えに……あちちッ! 尻を燃やすな!」
 フェンリルとデュークが応戦するが、怒り狂った不死鳥の火力は凄まじい。それに、二人は内心「仕事を押し付けていた負い目」があるのか、防戦一方だ。
 このままでは全滅する。私は、龍魔呂さんの風呂敷包みを抱えて前に出た。
「異議あり!!」
 私は炎龍の熱波に耐えながら、声を張り上げた。
「フレア様! 貴女のその労働環境、明らかに『労働基準法違反』です! ルミナス帝国の基準でも、過労死ラインを大幅に超えています!」
「……は?」
 フレアの動きが止まった。
 炎龍が霧散する。
「貴女に必要なのは、怒りを発散することではありません。……『有給休暇』と『極上のエステ』、そして『身体を労るご飯』ですわ!」
 私は岩場に風呂敷を広げ、即席の「リベラ・エステサロン」を開店した。
 まずは、妖精キュルリンのダンジョンから取り寄せた(以前レオにお土産で貰った)『美容スライム』の瓶を開ける。
「見てください、このプルプルのスライムを! これを顔に乗せれば、毛穴の汚れと古い角質をごっそり落とし、肌年齢を10歳若返らせます!」
「……! 10歳……若返る……?」
 フレアの目が釘付けになる。
 すかさず、私は龍魔呂さんの魔法瓶を取り出した。
「そして、内側からのケアにはこれ! 鬼神龍魔呂特製、『薬膳参鶏湯(サムゲタン)』です!」
 蓋を開けた瞬間、生姜、高麗人参、ナツメ、そして鶏の濃厚な香りが辺りに漂った。火山地帯の硫黄臭すら消し飛ばす、優しくも力強い香り。
「徹夜続きの荒れた胃腸に染み渡る、コラーゲンたっぷりのスープ。……これを飲んで、スライムパックをして、一眠りすれば……貴女は世界一の美貌を取り戻せますわ」
 ゴクリ。
 フレアの喉が鳴った。
「……そ、そこまで言うなら……試してあげなくもないわよ」
 彼女はツンとすました顔で降りてきたが、その足取りは急いでいた。
 数分後。
 顔に美容スライムを乗せ、熱々の参鶏湯を啜る不死鳥の姿があった。
「……はぁぁぁ……生き返るぅ……」
 一口飲んだだけで、フレアの表情がとろけた。
 龍魔呂さんのスープは、ただ美味いだけではない。食べる者の体調を完璧に見抜き、必要な栄養をピンポイントで送り込む「魔法の薬」なのだ。
「何これ、凄いわ……指先までポカポカする。それにこのスライム、気持ちいい……」
 フレアの目から、ポロポロと涙がこぼれた。
「私、頑張ってたのよ……誰も手伝ってくれないし、肌はボロボロだし、合コンに行く暇もないし……うぅぅ……」
「よしよし、大変でしたわね」
 私は彼女の背中をさすった。最強の調停者も、中身はただの働きすぎた女性なのだ。
 魔王ラスティア様も、思うところがあるのか、珍しく優しく声をかけた。
「フレア、苦労をかけたな。……今回の訴訟が成功すれば、貴様にも『定休日』を作らせよう」
「ラスティア……うぇぇぇん! アンタだけが友達よぉぉ!」
 号泣する不死鳥。
 それを見ていたデュークとフェンリルは、「女って怖ぇ……」と縮こまっている。
 一時間後。
 エステとスープで完全にリフレッシュし、お肌がツヤツヤになったフレアは、スッキリとした笑顔で立ち上がった。
「ありがとう、リベラ。貴女のおかげで目が覚めたわ」
 彼女はバサリと髪をかき上げ、宣言した。
「私、ルチアナ様を訴えるわ! 私の青春と有給を取り戻すために! 証言台でも何でも立ってやる!」
 第三の証人、確保完了。
 これで「三柱の調停者」が全員揃った。
「で、ルチアナ様の居場所はご存知ですの?」
「ええ、もちろんよ」
 フレアは西の空を指差した。
「あの方は今、ルミナス帝国の下町にいるわ。人間の姿で、安酒を飲みながら焼き鳥を食べてるはずよ」
 灯台下暗し。
 神は天界にいるのではない。私たちの足元、しかも一番俗っぽい場所にいたのだ。
「よし! 原告団、出発です! 目指すは王都の焼き鳥屋! 神様に『召喚状』を叩きつけに行きますわよ!」
 最強のメンバーを引き連れ、私は王都へとトンボ返りする。
 待っていてください、龍魔呂さん。お土産話(と新たなトラブル)を持って帰りますから!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします

葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。 しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。 ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。 ユフィリアは決意するのであった。 ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。 だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さくら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

【完結】貴族の愛人に出ていけと寒空にだされたけど、懐は温かいよ。

BBやっこ
恋愛
貴族の家で下働きをしていたアタシは、貧乏な平民。別にさ、おまんま食べれる給金を得られてるんだ。 寒い日は身体に堪えるけど、まああまあ良い職場関係だったんだよ。 あの女が愛人におさまる前まで、ね。 以前は奥さまがこの家に居られてたけど、療養でご実家にお戻りになって。 旦那さまが愛人を家に入れたら、職場の人間達があげつってドロドロよお。 そんなの勘弁だったけど。とうとうアタシが邪魔になったようで。

「きみを愛することはない」祭りが開催されました~祭りのあと1

吉田ルネ
恋愛
「きみを愛することはない」祭りが開催されました のその後。 イアンのバカはどうなったのか。 愛人はどうなったのか。 ちょっとだけざまあがあります。

「小賢しい」と離婚された私。国王に娶られ国を救う。

百谷シカ
恋愛
「貴様のような小賢しい女は出て行け!!」 バッケル伯爵リシャルト・ファン・デル・ヘーストは私を叩き出した。 妻である私を。 「あっそう! でも空気税なんて取るべきじゃないわ!!」 そんな事をしたら、領民が死んでしまう。 夫の悪政をなんとかしようと口を出すのが小賢しいなら、小賢しくて結構。 実家のフェルフーフェン伯爵家で英気を養った私は、すぐ宮廷に向かった。 国王陛下に謁見を申し込み、元夫の悪政を訴えるために。 すると…… 「ああ、エーディット! 一目見た時からずっとあなたを愛していた!」 「は、はい?」 「ついに独身に戻ったのだね。ぜひ、僕の妻になってください!!」 そう。 童顔のコルネリウス1世陛下に、求婚されたのだ。 国王陛下は私に夢中。 私は元夫への復讐と、バッケル伯領に暮らす人たちの救済を始めた。 そしてちょっとした一言が、いずれ国を救う事になる…… ======================================== (他「エブリスタ」様に投稿)

だってお顔がとてもよろしいので

喜楽直人
恋愛
領地に銀山が発見されたことで叙爵されたラートン男爵家に、ハーバー伯爵家から強引な婿入りの話がきたのは爵位を得てすぐ、半年ほど前のことだった。 しかし、その婚約は次男であったユリウスには不本意なものであったようで、婚約者であるセリーンをまったく顧みることはなかった。 ついには、他の令嬢との間に子供ができたとセリーンは告げられてしまう。 それでもついセリーンは思ってしまうのだ。 「あぁ、私の婚約者は、どんな下種顔をしていてもお顔がいい」と。

処理中です...