悪役令嬢を救ったグレーな弁護士ですが、裏社会最強の鬼神店主に「俺の客だ」と胃袋ごと囲われました。天然ジゴロの溺愛角煮は法廷より甘すぎる

月神世一

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EP 15

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神様、召喚(強制連行) ~焼き鳥屋の中心で、訴状を叫ぶ~
 王都ルミナス、下町。
 日が落ちると、そこは労働者たちの憩いの場となる。安酒の匂い、炭火の煙、そして酔っ払いたちの笑い声。
 その一角にある、赤提灯が揺れる古びた屋台『焼き鳥 げんさん』。
 油で汚れた暖簾を、私は静かに潜った。
「ういーっす、大将! ハイボールおかわり! あと『ぼんじり』タレで5本追加ね! 焦がし気味で!」
 カウンターの隅で、ジョッキを片手に管を巻いている女性がいた。
 黒髪を無造作に束ね、ヨレヨレのジャージ(どこで手に入れた?)を着た、眼鏡の女性。
 背中を丸め、枝豆を摘むその姿は、どこからどう見ても「仕事に疲れたアラサーOL」か「近所のオバサン」だ。
 だが、私の【真実の天秤】は誤魔化せない。
 彼女から滲み出る、隠しきれない神聖なオーラ(とアルコール臭)。
 間違いない。彼女こそが、この世界の創造主。
 女神ルチアナだ。
「……お隣、よろしいですか?」
 私は彼女の隣の丸椅子に座った。
 背後には、魔王ラスティア、獣王レオ、そして三柱の調停者たちが、一般人に擬態(変装)して待機している。狭い屋台の人口密度と戦闘力が飽和状態だ。
「んあ? いいけどさぁ、お嬢ちゃん。ここはお上品な貴族が来るところじゃ……って、んん?」
 ルチアナ様が眼鏡の位置を直し、私を見た。
 そして、私の背後に立つメンツを見て――顔色を青ざめさせた。
「……げっ」
 彼女は一瞬で状況を理解したらしい。
 飲みかけのハイボールを置き、ソロリと席を立とうとする。
「あー、急用思い出したわ。天界の風呂の栓を抜き忘れた気がする。お勘定――」
「逃がしませんわよ、創造神様」
 ガシッ。
 私は笑顔で、彼女のジャージの裾を掴んだ。
「ひっ!? ちょ、離しなさいよ! 私はただの善良な市民『ルーシー』よ!?」
「往生際が悪いですわ。……皆さん、お願いします」
 私が合図を送ると、狭い屋台の空気が一変した。
 ズンッ。
 屋台の出口を、巨漢の獣王レオが塞ぐ。
 「逃げ場はねぇぞ、ルーシーちゃん」
 反対側を、狼王フェンリルが氷の微笑みで塞ぐ。
 「久しぶりだね、ババ……女神様。鬼ごっこなら俺が相手になるぜ?」
 天井(空)を、魔王ラスティアが重力魔法でロックする。
 「転移は無駄だ。空間ごと固定した」
 そして正面には、腕組みをした竜王デュークと、恨めしそうな目の不死鳥フレア。
 「我らに仕事を押し付けて飲み歩くとは、いい度胸だ」
 「ルチアナ様……私の有給返してください……っ!」
 世界最強の包囲網、完成。
 屋台の大将(一般人)が「ひぇぇ……」と腰を抜かしてカウンターの奥に隠れた。
「な、なんなのよアンタたち! 寄ってたかって私をいじめる気!? これだから被造物は可愛げがないのよ!」
 ルチアナ様は逆ギレして地団駄を踏んだ。
 私は冷静に、懐から分厚い羊皮紙の束を取り出し、焼き鳥のタレで汚れたテーブルに叩きつけた。
 バンッ!!
「女神ルチアナ様。貴女に『訴状』をお渡しします」
「……は? 訴状?」
 ルチアナ様がポカンと口を開ける。
「原告は、魔王ラスティア様、獣王レオ様、その他多数。罪状は『世界管理法違反(職務怠慢)』、『独占禁止法違反(三竦みシステムの強要)』、および『幸福追求権の侵害』です」
 私は扇子を開き、ビシッと彼女を指差した。
「貴女が作った『程よく争って人口調整するシステム』のせいで、現場は疲弊しきっています! 魔王様は婚期を逃し、フレア様は肌荒れし、フェンリル様は退屈でグレました! これら全ての責任を、法廷で問わせていただきます!」
 私の剣幕に、ルチアナ様はたじろいだ。
「は、はぁ!? 何言ってんのよ! そのシステムのおかげで世界は崩壊せずに回ってるんでしょうが! 文句あるなら代案出しなさいよ代案!」
「ありますとも。……ですが、ここでは場所が悪すぎます」
 私はニッコリと微笑んだ。
「場所を変えましょう。これより、『特設法廷』へとご案内します」
「い、嫌よ! 私はここで焼き鳥食べてたいの! 動きたくない!」
 ルチアナ様がテーブルにしがみつく。まるで駄々っ子だ。
 私は最後の一手、切り札(ジョーカー)を切った。
「そうですか。……残念ですわ。移動先のお店では、『世界一美味しい豚の角煮』と『絶品プリン』、そして『神をも唸らせる究極のフルコース』が用意されているというのに」
 ピクッ。
 ルチアナ様の耳が動いた。
「……角煮? プリン?」
「ええ。貴女もご存知でしょう? 私の行きつけのお店、小料理屋『鬼灯』です」
 ルチアナ様は地球のグルメに詳しい。当然、龍魔呂さんの店の噂も(食べたことはなくても)知っているはずだ。
「あ、あの店……いっつも満席で入れない、幻の店……?」
「今夜は貸し切りにしてあります。……裁判に参加していただけるなら、食べ放題ですが?」
 ゴクリ。
 神の喉が鳴った。
 プライドか、食欲か。
 数秒の葛藤の末、ルチアナ様は眼鏡をクイッと押し上げ、立ち上がった。
「……し、仕方ないわね! 被造物の声を聞くのも創造主の務めだし? 別に角煮に釣られたわけじゃないけど? 特別に行ってあげるわよ!」
 チョロい。この世界のトップたちは、どいつもこいつも胃袋が弱点なのか。
「交渉成立ですわね。……連行します!」
 こうして、私たちは女神を確保した。
 向かうは最終決戦の地(法廷)、小料理屋『鬼灯』。
 待っていてください、龍魔呂さん。
 史上最大に面倒くさい客(神)を連れて帰ります!
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