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EP 18
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神様の休日と、とろける愛のデザート ~世界を変えたのは、法と剣と、甘いケーキ~
「……ずっと、寂しかったのよ」
女神ルチアナ様の独白は、静かな店内に染み渡った。
「私が作った世界だけど、私が干渉しすぎると人は育たない。だから『三竦み』というルールを作って、私は傍観者になった。……でも、何千年経っても、誰も私を『食事』に誘ってくれないんだもの」
彼女はローストビーフの皿を抱きしめ、子供のように鼻をすすった。
「みんな私を崇めるか、憎むかだけ。……私も、こうやって誰かと並んで、美味しいねって言いながらご飯を食べたかったのよ……!」
全知全能の創造主が抱えていたのは、あまりにも人間くさい「孤独」だった。
魔王ラスティア様が、ふんと鼻を鳴らしつつも、ハンカチを差し出す。
不死鳥フレアが、もらい泣きをしている。
私は、扇子を閉じた。
勝負はついた。あとは、弁護士として「落とし所(和解案)」を提示するだけだ。
「……ルチアナ様。貴女は少し、働きすぎましたわ」
私は羊皮紙にさらさらと新しい条文を書き込み、彼女の前に差し出した。
「これより、貴女と世界の契約内容を変更します。貴女は『絶対管理者』の地位を退き……新たに『世界名誉顧問』に就任していただきます」
「……名誉顧問?」
「ええ。実務(政治や管理)は、ここにいる魔王、獣王、そして人間の代表たちが合議制で行います。貴女は『ご意見番』として、たまに口を出し、美味しいものを食べ、私たちが道を踏み外しそうになった時だけ叱ってください」
私はニッコリと微笑み、手を差し伸べた。
「管理する側とされる側ではなく……これからは『同じテーブルを囲む仲間(飲み友達)』になりませんか?」
ルチアナ様は、涙で潤んだ瞳で私を見つめ、それから横にいるラスティア様やレオ、調停者たちを見回した。
かつては敵対していた者たちが、今は同じ料理の匂いに包まれ、彼女を待っている。
「……いいの? 私、酒癖悪いわよ? たまに地球の駄菓子とか要求するわよ?」
「構いませんわ。その代わり、私たちの『リゾート計画』には全力で協力していただきますからね」
ルチアナ様は眼鏡を外し、涙を拭って……晴れやかな笑顔を見せた。
「……いいわ。契約成立よ、敏腕弁護士さん!」
彼女が私の手を取った瞬間。
世界を縛っていた重苦しい鎖が、音を立てて砕け散った気がした。
バンッ!!
店内に拍手と歓声が爆発する。
獣王レオが「よっしゃあ! 今日は朝まで飲み明かすぞ!」と吠え、ラスティア様が「フフ、まずは女子会のスケジュール調整だな」と笑う。
歴史が変わった瞬間だ。
私は安堵のあまり、その場にへたり込みそうになった――が、背後から伸びてきた逞しい腕に支えられた。
「……お疲れさん」
龍魔呂さんだ。
彼は私を椅子に座らせると、カウンターの奥から最後の一皿を持ってきた。
「これは、俺からの『報酬』だ」
置かれたのは、湯気を立てる『フォンダン・ショコラ』だった。
焼き立ての温かいチョコレートケーキ。横には冷たいバニラアイスと、甘酸っぱいベリーソースが添えられている。
「……神様を論破して、世界を変えちまうとはな。お前は本当に、とんでもない女だ」
彼は呆れたように言いながらも、その瞳は熱を帯びていた。
「食え。……中から、もっと甘いのが出てくる」
言われるままに、私はスプーンを入れた。
サクッとした生地が割れると、中からとろりと濃厚なチョコレートが溶け出した。
一口食べる。
温かいチョコの甘さと、冷たいアイスのコントラスト。
張り詰めていた神経がほどけ、脳髄まで甘やかされるような至福の味。
「……んんっ……美味しい……っ」
私がうっとりと息を漏らすと、龍魔呂さんは満足げに頷き、私の耳元で囁いた。
「これからは、世界中が平和になって、お前も暇になるだろう?」
「ええ、そうですわね。弁護の依頼は減るかもしれません」
「なら……毎日、店に来い」
彼は、私の左手の薬指にある指輪(彼とお揃いの魔道具)に軽く触れた。
「俺が、一生……死ぬまで、美味いもんを食わせてやる。お前の身体も、心も、全部俺が管理する」
それは、どんな法的な契約よりも重く、そして甘い「終身契約」の申し出だった。
周囲では、神と魔王と獣王がドンチャン騒ぎをしている。
けれど、今の私には、目の前の不器用な鬼神の言葉しか聞こえない。
私は、フォンダン・ショコラよりも甘く溶けた笑顔で、彼に答えた。
「……はい! 覚悟してくださいね、龍魔呂さん。私の胃袋を掴んだ責任、一生かけて取っていただきますわ!」
こうして、神殺しの法廷は閉廷した。
世界には平和が訪れ、大陸横断リゾート計画が動き出し……そして、とある小料理屋には、今日も最強のカップルが厨房で甘い喧嘩をしている姿があるという。
異世界弁護士・桜田リベラの物語は、まだまだ終わらない。
だって、平和になった世界には、もっと美味しい「事件」が待っているのだから――。
「……ずっと、寂しかったのよ」
女神ルチアナ様の独白は、静かな店内に染み渡った。
「私が作った世界だけど、私が干渉しすぎると人は育たない。だから『三竦み』というルールを作って、私は傍観者になった。……でも、何千年経っても、誰も私を『食事』に誘ってくれないんだもの」
彼女はローストビーフの皿を抱きしめ、子供のように鼻をすすった。
「みんな私を崇めるか、憎むかだけ。……私も、こうやって誰かと並んで、美味しいねって言いながらご飯を食べたかったのよ……!」
全知全能の創造主が抱えていたのは、あまりにも人間くさい「孤独」だった。
魔王ラスティア様が、ふんと鼻を鳴らしつつも、ハンカチを差し出す。
不死鳥フレアが、もらい泣きをしている。
私は、扇子を閉じた。
勝負はついた。あとは、弁護士として「落とし所(和解案)」を提示するだけだ。
「……ルチアナ様。貴女は少し、働きすぎましたわ」
私は羊皮紙にさらさらと新しい条文を書き込み、彼女の前に差し出した。
「これより、貴女と世界の契約内容を変更します。貴女は『絶対管理者』の地位を退き……新たに『世界名誉顧問』に就任していただきます」
「……名誉顧問?」
「ええ。実務(政治や管理)は、ここにいる魔王、獣王、そして人間の代表たちが合議制で行います。貴女は『ご意見番』として、たまに口を出し、美味しいものを食べ、私たちが道を踏み外しそうになった時だけ叱ってください」
私はニッコリと微笑み、手を差し伸べた。
「管理する側とされる側ではなく……これからは『同じテーブルを囲む仲間(飲み友達)』になりませんか?」
ルチアナ様は、涙で潤んだ瞳で私を見つめ、それから横にいるラスティア様やレオ、調停者たちを見回した。
かつては敵対していた者たちが、今は同じ料理の匂いに包まれ、彼女を待っている。
「……いいの? 私、酒癖悪いわよ? たまに地球の駄菓子とか要求するわよ?」
「構いませんわ。その代わり、私たちの『リゾート計画』には全力で協力していただきますからね」
ルチアナ様は眼鏡を外し、涙を拭って……晴れやかな笑顔を見せた。
「……いいわ。契約成立よ、敏腕弁護士さん!」
彼女が私の手を取った瞬間。
世界を縛っていた重苦しい鎖が、音を立てて砕け散った気がした。
バンッ!!
店内に拍手と歓声が爆発する。
獣王レオが「よっしゃあ! 今日は朝まで飲み明かすぞ!」と吠え、ラスティア様が「フフ、まずは女子会のスケジュール調整だな」と笑う。
歴史が変わった瞬間だ。
私は安堵のあまり、その場にへたり込みそうになった――が、背後から伸びてきた逞しい腕に支えられた。
「……お疲れさん」
龍魔呂さんだ。
彼は私を椅子に座らせると、カウンターの奥から最後の一皿を持ってきた。
「これは、俺からの『報酬』だ」
置かれたのは、湯気を立てる『フォンダン・ショコラ』だった。
焼き立ての温かいチョコレートケーキ。横には冷たいバニラアイスと、甘酸っぱいベリーソースが添えられている。
「……神様を論破して、世界を変えちまうとはな。お前は本当に、とんでもない女だ」
彼は呆れたように言いながらも、その瞳は熱を帯びていた。
「食え。……中から、もっと甘いのが出てくる」
言われるままに、私はスプーンを入れた。
サクッとした生地が割れると、中からとろりと濃厚なチョコレートが溶け出した。
一口食べる。
温かいチョコの甘さと、冷たいアイスのコントラスト。
張り詰めていた神経がほどけ、脳髄まで甘やかされるような至福の味。
「……んんっ……美味しい……っ」
私がうっとりと息を漏らすと、龍魔呂さんは満足げに頷き、私の耳元で囁いた。
「これからは、世界中が平和になって、お前も暇になるだろう?」
「ええ、そうですわね。弁護の依頼は減るかもしれません」
「なら……毎日、店に来い」
彼は、私の左手の薬指にある指輪(彼とお揃いの魔道具)に軽く触れた。
「俺が、一生……死ぬまで、美味いもんを食わせてやる。お前の身体も、心も、全部俺が管理する」
それは、どんな法的な契約よりも重く、そして甘い「終身契約」の申し出だった。
周囲では、神と魔王と獣王がドンチャン騒ぎをしている。
けれど、今の私には、目の前の不器用な鬼神の言葉しか聞こえない。
私は、フォンダン・ショコラよりも甘く溶けた笑顔で、彼に答えた。
「……はい! 覚悟してくださいね、龍魔呂さん。私の胃袋を掴んだ責任、一生かけて取っていただきますわ!」
こうして、神殺しの法廷は閉廷した。
世界には平和が訪れ、大陸横断リゾート計画が動き出し……そして、とある小料理屋には、今日も最強のカップルが厨房で甘い喧嘩をしている姿があるという。
異世界弁護士・桜田リベラの物語は、まだまだ終わらない。
だって、平和になった世界には、もっと美味しい「事件」が待っているのだから――。
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