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EP 2
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最初の住民はマッドサイエンティスト ~ドワーフのDr.ギア~
荒涼とした大地に突如として現れた、岩盤をくり抜いた異様なシェルター。
その厳重な鋼鉄の扉の前で、一人の男が究極の選択を迫られていた。
古城タクミ、HP1の建築士である。
彼はモニター越しに、扉の前で行き倒れている小柄な老人を見つめていた。
放置すれば、老人は確実に死ぬだろう。
だが、助けるために外に出れば、荒野の風圧や砂塵によって、タクミ自身が死ぬリスクがある。
(どうする……? 死体を見過ごすのは寝覚めが悪い。だが、俺の命はシャボン玉より脆いんだぞ……!)
タクミは冷や汗を流しながら(※脱水症状でHPが減る恐れがあるため、すぐに水分補給をした)、一つの結論に達した。
「……スキルで『床』ごと回収するしかない」
タクミは安全圏である室内から、扉の外の地面にまで【領域指定】を拡張した。
そして、老人が倒れている部分の土を『ベルトコンベア』のように変形させ、スライド移動させる。
ウィィィン……という静かな駆動音と共に、老人の体が二重のエアロックを通過し、シェルター内部へと搬入された。
「ふぅ……ミッションコンプリートだ」
タクミは安堵の息を吐き、すぐさま除菌スプレー(スキルで生成した消毒ミスト)を老人に噴射した。外のバイ菌一つでも、今の彼にとっては致死毒になり得るからだ。
◇
運び込まれた老人は、ドワーフ族であった。
背中には蒸気機関のようなゴツイ機械を背負い、服は油汚れと煤で真っ黒。伸び放題の髭には、なぜかネジやナットが絡まっている。
タクミが恐る恐るコップ一杯の水を差し出し、口元に運んでやると、老人は猛烈な勢いでそれを飲み干した。
そして――。
「プハァァァァァッ! 生き返ったわい!!」
ドワーフ特有の、腹の底から響くような大音声がシェルター内に轟いた。
その瞬間である。
「ぐはっ!?」
タクミが胸を押さえて崩れ落ちた。
HPバーが【1】から【0.8】に減少したのだ。
鼓膜を揺らす空気振動が、彼の貧弱な三半規管にダイレクトアタックを与えたのである。
「お、おい! 大丈夫か若造! 顔色が白いぞ!?」
「だ、大声……出すな……死ぬ……」
「なんじゃと? 蚊の鳴くような声で聞こえんわ!」
「声が……でかい……ッ!」
タクミは必死の形相でジェスチャーを送り、ようやく老人に「静かにすること」を約束させた。
老人は不思議そうな顔をしながらも、タクミの異様な顔色の悪さに気圧され、声を潜めた。
「すまんのう。ワシは地声がでかいんじゃ。……ところで、ここはどこじゃ? 天国か?」
老人はキョロキョロと室内を見回した。
そして、その目が驚愕に見開かれた。
「なんじゃこの壁の平滑さは! 継ぎ目がミクロン単位も見当たらん! それにこの光……魔力触媒が見当たらんのに、なぜこれほど安定した光量を出せる!?」
老人は這いつくばって床のコルク材を撫で回し、壁の断熱材に頬ずりし、換気口のフィルターに鼻を突っ込んで深呼吸した。
「素晴らしい……! 外は灼熱の荒野だというのに、ここは王都の貴族街よりも空気が澄んでおる! 気温も湿度も完璧に管理されておる! これは魔法か!? いや、科学か!?」
その姿は、命を救われた感謝よりも、目の前の技術への探究心が勝っているようだった。
タクミはため息をつきながら、よろよろと立ち上がった。
「俺のスキルで作った家だ。……アンタ、技術者か?」
「いかにも! ワシの名はギア! 泣く子も黙る天才魔導科学者、Dr.ギアじゃ!」
Dr.ギア。
かつてドワーフの国で「機械仕掛けの神」を作ろうとして国庫を破綻させ、島流しにされたマッドサイエンティストである。彼は自作の脱出ポッドで海を渡り、ここまで漂着したのだという。
「なるほど、天才ね……」
タクミの目が、値踏みするように光った。
彼には今、切実に足りないものがあった。
『家』を作ることはできる。だが、迫りくる外敵を撃退する『攻撃手段』が皆無なのだ。
デコピンで死ぬ彼が戦えるはずもない。
「爺さん……いや、Dr.ギア。アンタに取引を持ちかけたい」
「取引じゃと?」
「俺はこのシェルターと、快適な住環境を提供する。食料も水も保証しよう」
「な、なんと!? ここに住んでいいのか!?」
ギアが食いついた。この荒野で、この快適さは喉から手が出るほど魅力的だ。
タクミはニヤリと笑い、条件を提示した。
「ああ。その代わり、アンタの技術でこの家の『自動防衛システム』を作ってくれ。俺は指一本動かさずに、敵を殲滅できる兵器が必要なんだ」
その言葉を聞いた瞬間、ギアの瞳が怪しく輝いた。
それは、研究欲に火がついた狂気の色だった。
「クックック……自動防衛システムじゃと? 良い、実に良い響きじゃ! ワシの魔導科学と、主(ぬし)の超建築を融合させれば……神をも殺す要塞が作れるかもしれんのう!」
「あ、大きい音やめて。死ぬから」
「おっと、すまんすまん」
こうして、HP1の虚弱な家主と、行き場を失ったマッドサイエンティスト。
奇妙な同居生活が幕を開けた。
この二人が手を組んだことで、ただのシェルターが、世界を脅かす『難攻不落の要塞』へと変貌していくことを、世界はまだ知らない。
荒涼とした大地に突如として現れた、岩盤をくり抜いた異様なシェルター。
その厳重な鋼鉄の扉の前で、一人の男が究極の選択を迫られていた。
古城タクミ、HP1の建築士である。
彼はモニター越しに、扉の前で行き倒れている小柄な老人を見つめていた。
放置すれば、老人は確実に死ぬだろう。
だが、助けるために外に出れば、荒野の風圧や砂塵によって、タクミ自身が死ぬリスクがある。
(どうする……? 死体を見過ごすのは寝覚めが悪い。だが、俺の命はシャボン玉より脆いんだぞ……!)
タクミは冷や汗を流しながら(※脱水症状でHPが減る恐れがあるため、すぐに水分補給をした)、一つの結論に達した。
「……スキルで『床』ごと回収するしかない」
タクミは安全圏である室内から、扉の外の地面にまで【領域指定】を拡張した。
そして、老人が倒れている部分の土を『ベルトコンベア』のように変形させ、スライド移動させる。
ウィィィン……という静かな駆動音と共に、老人の体が二重のエアロックを通過し、シェルター内部へと搬入された。
「ふぅ……ミッションコンプリートだ」
タクミは安堵の息を吐き、すぐさま除菌スプレー(スキルで生成した消毒ミスト)を老人に噴射した。外のバイ菌一つでも、今の彼にとっては致死毒になり得るからだ。
◇
運び込まれた老人は、ドワーフ族であった。
背中には蒸気機関のようなゴツイ機械を背負い、服は油汚れと煤で真っ黒。伸び放題の髭には、なぜかネジやナットが絡まっている。
タクミが恐る恐るコップ一杯の水を差し出し、口元に運んでやると、老人は猛烈な勢いでそれを飲み干した。
そして――。
「プハァァァァァッ! 生き返ったわい!!」
ドワーフ特有の、腹の底から響くような大音声がシェルター内に轟いた。
その瞬間である。
「ぐはっ!?」
タクミが胸を押さえて崩れ落ちた。
HPバーが【1】から【0.8】に減少したのだ。
鼓膜を揺らす空気振動が、彼の貧弱な三半規管にダイレクトアタックを与えたのである。
「お、おい! 大丈夫か若造! 顔色が白いぞ!?」
「だ、大声……出すな……死ぬ……」
「なんじゃと? 蚊の鳴くような声で聞こえんわ!」
「声が……でかい……ッ!」
タクミは必死の形相でジェスチャーを送り、ようやく老人に「静かにすること」を約束させた。
老人は不思議そうな顔をしながらも、タクミの異様な顔色の悪さに気圧され、声を潜めた。
「すまんのう。ワシは地声がでかいんじゃ。……ところで、ここはどこじゃ? 天国か?」
老人はキョロキョロと室内を見回した。
そして、その目が驚愕に見開かれた。
「なんじゃこの壁の平滑さは! 継ぎ目がミクロン単位も見当たらん! それにこの光……魔力触媒が見当たらんのに、なぜこれほど安定した光量を出せる!?」
老人は這いつくばって床のコルク材を撫で回し、壁の断熱材に頬ずりし、換気口のフィルターに鼻を突っ込んで深呼吸した。
「素晴らしい……! 外は灼熱の荒野だというのに、ここは王都の貴族街よりも空気が澄んでおる! 気温も湿度も完璧に管理されておる! これは魔法か!? いや、科学か!?」
その姿は、命を救われた感謝よりも、目の前の技術への探究心が勝っているようだった。
タクミはため息をつきながら、よろよろと立ち上がった。
「俺のスキルで作った家だ。……アンタ、技術者か?」
「いかにも! ワシの名はギア! 泣く子も黙る天才魔導科学者、Dr.ギアじゃ!」
Dr.ギア。
かつてドワーフの国で「機械仕掛けの神」を作ろうとして国庫を破綻させ、島流しにされたマッドサイエンティストである。彼は自作の脱出ポッドで海を渡り、ここまで漂着したのだという。
「なるほど、天才ね……」
タクミの目が、値踏みするように光った。
彼には今、切実に足りないものがあった。
『家』を作ることはできる。だが、迫りくる外敵を撃退する『攻撃手段』が皆無なのだ。
デコピンで死ぬ彼が戦えるはずもない。
「爺さん……いや、Dr.ギア。アンタに取引を持ちかけたい」
「取引じゃと?」
「俺はこのシェルターと、快適な住環境を提供する。食料も水も保証しよう」
「な、なんと!? ここに住んでいいのか!?」
ギアが食いついた。この荒野で、この快適さは喉から手が出るほど魅力的だ。
タクミはニヤリと笑い、条件を提示した。
「ああ。その代わり、アンタの技術でこの家の『自動防衛システム』を作ってくれ。俺は指一本動かさずに、敵を殲滅できる兵器が必要なんだ」
その言葉を聞いた瞬間、ギアの瞳が怪しく輝いた。
それは、研究欲に火がついた狂気の色だった。
「クックック……自動防衛システムじゃと? 良い、実に良い響きじゃ! ワシの魔導科学と、主(ぬし)の超建築を融合させれば……神をも殺す要塞が作れるかもしれんのう!」
「あ、大きい音やめて。死ぬから」
「おっと、すまんすまん」
こうして、HP1の虚弱な家主と、行き場を失ったマッドサイエンティスト。
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