HP1の建築士、最強の『絶対安全圏』を創る~小石で即死する俺の為、魔王も勇者も過保護に領地防衛します~

月神世一

文字の大きさ
9 / 16

EP 9

しおりを挟む
最強の法律家、リベラ登場 ~騒音はお断りです~
​ 『毒サソリ団』の壊滅から数日。
 俺の領地は平和を取り戻した――はずだった。
​「ガハハハ! 見ろ主よ! 回収した魔導バイクのエンジンを改造して、全自動肩たたき機を作ったぞ! 出力は最大馬力じゃ!」
「あら、また裏庭に変な虫がいたわ。燃やしちゃっていいわよね?(火球を構える)」
「我のラーメンまだか? 麺の硬さは『バリカタ』だと言っただろう!」
​ リビングがうるさい。
 Dr.ギアの実験音、ルナの魔法の炸裂音、そしてデュークのわがままな注文。
 これらが混然一体となり、俺の鼓膜と精神を削り取っていく。
​ 現在のHP【0.8/1.1】。
 敵は撃退したのに、身内の騒音で死にかけている。
​「た、頼むみんな……もう少し静かに……『忍び足』で生活してくれ……」
​ 俺がソファで虫の息になっていると、ニャングルが血相を変えて飛び込んできた。
​「た、大変でっせオーナー様! 『来客』だす!」
「また敵か? もう勝手にしてくれ……」
「ちゃいます! 敵より怖い……いや、もっと高貴な御方が来なすったんや!」
​ ニャングルの尻尾が、恐怖と緊張でピンと立っている。
 モニターを見ると、領地の結界の外に、黒塗りの高級馬車が止まっていた。
 車体には、金色の天秤と硬貨をあしらった『ゴルド商会』の紋章。
​ 馬車の扉が開き、一人の女性が降り立った。
 金髪の巻き髪に、知的な碧眼。高級なドレスの上に、裁判官のような黒い法服(ガウン)を羽織っている。
 その手には、タロー国製の分厚い書物――『六法全書(異世界改訂版)』が抱えられていた。
​「あれは……ゴルド商会会長の愛娘、リベラお嬢様でっせ!」
​ ◇
​ リベラ・ゴルド(20歳)。
 転生前は日本の敏腕弁護士。現在は大陸最強の商会の令嬢にして、法曹界の革命児。
​ 彼女は優雅な足取りでシェルターに入室すると、開口一番、可憐な溜息をついた。
​「まあ……。なんて騒々しいのでしょう」
​ その一言で、リビングの空気が凍りついた。
 彼女はニッコリと微笑みながら、部屋にいる面々を見渡した。
​「マッドサイエンティストに、災害エルフ、それに竜王様まで。……皆様、ここが『療養施設』であることをお忘れではありませんか?」
​「療養施設? ここは我の別荘だぞ、小娘」
​ デュークが不機嫌そうに睨んだ。竜王の威圧(プレッシャー)が放たれる。
 普通なら気絶するレベルの覇気だ。俺なら即死する。
 だが、リベラは眉一つ動かさなかった。
​「ええ、存じておりますわ。ですが、そこの家主様をご覧なさい」
​ リベラが指差した先――そこには、竜王の覇気の余波を受け、白目を剥いて痙攣している俺(HP0.5)がいた。
​「ひぃっ!? お、オーナー様ぁぁ!」
「……おっと、やりすぎたか」
​ デュークが慌てて威圧を引っ込める。
 リベラは静かに、しかし冷徹な声で告げた。
​「家主である古城タクミ様のHPは、シャボン玉よりも脆い『1』。彼が死ねば、この快適な室温も、フカフカの床も、美味しいメロンも、極上の温泉も、全て魔法(スキル)の効果を失い消滅します」
​ リベラは法服を翻し、テーブルの上に『六法全書』をドンと置いた。
​「つまり、貴方方の快適なスローライフは、彼という『極薄の氷』の上に成り立っているのです。……それを理解した上で、騒音を撒き散らしているのですか? それは『未必の故意』による殺人未遂、ならびに器物損壊の予備罪に問えますわよ?」
​ 理路整然とした論破。
 ぐうの音も出ない正論に、最強の怪物たちが押し黙った。
​「そ、そう言われてみればそうじゃが……」
「ワシらも、つい楽しくて……」
​ 反省ムードが漂い始めた。
 リベラは表情を緩め、聖母のような慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
​「分かっていただければ結構です。そこで、当職がこの領地のための『利用規約(ルール)』を作成いたしました」
​ 彼女が取り出したのは、羊皮紙にびっしりと書かれた契約書だった。
​【聖域・絶対安全圏 利用規約】
​第1条(騒音規制)
領内における60デシベル以上の大声、爆発音、咆哮を禁止する。違反者は罰金として金貨10枚、またはタクミ様への肩たたき1時間を科す。
​第2条(戦闘行為の禁止)
領地半径5キロ圏内での魔法行使、ブレス、新兵器実験を禁止する。迎撃が必要な場合は、無音結界内で行うこと。
​第3条(家主の保護義務)
居住者は、家主のHP減少を感知した場合、直ちにこれを回復・保護する義務を負う。家主が死亡した場合、居住権は即時剥奪される。
​「……以上。これにサインをお願いしますわ」
​ リベラは羽ペンを差し出した。
 その笑顔は、「サインしなければどうなるか分かっていますよね?」という無言の圧力を放っていた。
 法廷で鍛えられた『淑女の威圧』は、ある意味で竜王よりも怖かった。
​「ちっ……分かった。サインすればいいのだろう」
「うう、実験は防音室でやるわい……」
​ デューク、ギア、ルナが渋々サインをしていく。
 最後に、リベラは瀕死の俺に駆け寄り、膝枕をしてくれた。
​「大丈夫ですか、タクミ様? ポーション(紅茶)をお飲みになって」
​ 彼女が差し出したのは、手作りの特製紅茶とクッキーだった。
 一口飲むと、甘く優しい香りが広がり、HPが一気に全回復した。
​「……うまい。生き返る……」
「ふふ。甘いものは脳と心のお薬ですわ」
​ リベラは俺の頭を優しく撫でた。
 合気道で鍛えられたその手は、優しく、そして頼もしかった。
​「ニャングルから報告を受け、居ても立っても居られず駆けつけました。貴方はゴルド商会にとって……いいえ、この世界にとって守るべき『資産』です。これからは、私が貴方の顧問弁護士として、法律と交渉で命をお守りしますわ」
​ こうして、最強の法律家リベラが仲間に加わった。
 彼女が作った鉄壁のルールにより、領内の騒音レベルは劇的に低下。
 俺はようやく、枕を高くして眠れる夜を手に入れたのである。
​ ……まあ、その静寂も、「ルールを守らない新たな来訪者」が来るまでの束の間なのだが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

水神飛鳥の異世界茶会記 ~戦闘力ゼロの茶道家が、神業の【陶芸】と至高の【和菓子】で、野蛮な異世界を「癒やし」で侵略するようです~

月神世一
ファンタジー
「剣を下ろし、靴を脱いでください。……茶が入りましたよ」 ​ 猫を助けて死んだ茶道家・水神飛鳥(23歳)。 彼が転生したのは、魔法と闘気が支配する弱肉強食のファンタジー世界だった。 ​チート能力? 攻撃魔法? いいえ、彼が手にしたのは「茶道具一式」と「陶芸セット」が出せるスキルだけ。 ​「私がすべき事は、戦うことではありません。一服の茶を出し、心を整えることです」 ​ゴブリン相手に正座で茶を勧め、 戦場のど真ん中に「結界(茶室)」を展開して空気を変え、 牢屋にぶち込まれれば、そこを「隠れ家カフェ」にリフォームして看守を餌付けする。 ​そんな彼の振る舞う、異世界には存在しない「極上の甘味(カステラ・羊羹)」と、魔法よりも美しい「茶器」に、武闘派の獣人女王も、強欲な大商人も、次第に心を(胃袋を)掴まれていき……? ​「野暮な振る舞いは許しません」 ​これは、ブレない茶道家が、殺伐とした異世界を「おもてなし」で平和に変えていく、一期一会の物語。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

処理中です...