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EP 10
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命名『聖域(サンクチュアリ)』 ~魔王と神の予約待ち~
弁護士リベラによる『利用規約』が施行されてから数日。
俺の領地は、かつてない静寂と平和に包まれていた。
「……うむ。風呂上がりの牛乳は格別だな(小声)」
「ワシの研究データも順調じゃ。サイレント・ドリルの静音性は完璧じゃぞ(筆談)」
「お花たちも静かに育ってるわね。うふふ(微笑み)」
リビングでは、竜王デューク、Dr.ギア、ルナたちが、まるで図書館にいるかのように静かに過ごしていた。
誰かが少しでも音を立てそうになると、リベラがニコリと笑いながら『六法全書』の角で机をトントンと叩く。それだけで全員が直立不動になるのだ。
「す、すごい……。これが『法治国家』ってやつか」
俺は感動に打ち震えていた。
HPは常に満タンの【1.1】をキープ。
風の音も、爆発音も、怒号もない。ただ穏やかな空調の音だけが響く楽園。
「オーナー様、この平穏こそが『商品価値』でっせ」
ニャングルが電卓(タロー国製)を叩きながら近寄ってきた。
「ゴルド商会としても、ここは正式な『自治区』として世界に公表したいと考えてます。つきましては、この領地に名前を付けまへんか?」
「名前?」
「ええ。ただの『シェルター』やと味気ないでっしゃろ? 箔(ハク)がつくような、カッコええ名前がよろしおま」
名前か。
俺は少し考えた。
ここは俺にとって、死の恐怖から逃れられる唯一の場所。
そして、竜王やエルフたちが争いを忘れてくつろぐ場所。
「……『聖域(サンクチュアリ)』」
俺の口から、自然とその言葉が漏れた。
それを聞いたリベラが、感嘆の声を上げた。
「素晴らしいですわ、タクミ様! 『何人たりとも侵すことのできない聖なる場所』……これほど相応しい名前はありません!」
「我も異存はない。竜王が認めた安息の地だ、そのくらいの名が妥当だろう」
デュークも腕組みをして頷いた。
こうして、俺の引きこもりハウスは、正式名称**『絶対中立・保養聖域(サンクチュアリ)』**と命名された。
俺は【絶対建築】スキルを使い、入り口に立派な大理石の看板を設置した。
『Welcome to Sanctuary (※大声禁止・戦闘禁止・土足厳禁)』
完璧だ。これで俺のスローライフは約束された。
◇
その日の夕暮れ時だった。
ピンポーン。
入り口のチャイムが鳴った。
モニターには、二人の女性の姿が映っていた。
盗賊のような殺気はない。
商人のような商売っ気もない。
だが、俺の『危険感知本能(スペランカー・センス)』が、過去最大級の警鐘を鳴らした。
「……なんだ? 胃が痛いぞ」
HPが理由もなく【1.0】に減った。
ただそこに立っているだけで、モニター越しに伝わってくる『圧』が違う。
一人は、ジャージにサンダル姿の、ボサボサ金髪の女性。手にはコンビニ袋(タロー国製)をぶら下げている。
もう一人は、漆黒のドレスに身を包んだ、銀髪の絶世の美女。その瞳は深淵のように黒く、美しい。
「誰だ……? ニャングルの知り合いか?」
「いえ、知りまへんな……。けど、あの銀髪の方、どっかで見たような……」
ニャングルが首をかしげていると、リベラがハッと息を呑んだ。
そして、デュークが持っていたコーヒー牛乳を床に落とした。
「ば、馬鹿な……。なぜ『あやつら』がここにいる……!?」
竜王が震えている。
俺は恐る恐る、インターホンの通話ボタンを押した。
「はい、どちら様でしょうか……?」
すると、ジャージの女性が気だるげにカメラに向かってピースをした。
『あー、もしもし? ここが噂の『聖域』? タローちゃんから聞いて遊びに来たんだけど』
『ちょっとルチアナ、挨拶くらいちゃんとしなさいよ。……ごめんあそばせ。私たち、予約をしていないのだけれど、空いていて?』
銀髪の美女が優雅に微笑んだ。
その背後に、空間が歪むほどの『闇』が見えた気がした。
リビングにいる全員が凍りついた。
デュークが、搾り出すような声で言った。
「……女神ルチアナと、魔王ラスティアだ」
「は?」
俺の思考が停止した。
女神? 魔王?
いやいや、そんな世界のトップ2が、こんな辺境の家にアポなしで来るわけが――。
『あ、デュークいるじゃん。開けてよー。今日仕事で疲れてんのよ。サウナ入りたいんだけど』
『私(わたくし)はカラオケがしたいわ。最新のアニソンが入っていると聞いたのだけど』
会話の内容が庶民的すぎる。
だが、彼女たちが放つオーラは本物だった。
俺のHPバーが【0.5】まで急落する。
「う、嘘だろ……。神様と魔王様が……女子会しに来たってのか!?」
「開けろタクミ! いや開けてくださいお願いします!」
デュークが土下座の勢いで叫んだ。
「あやつらを待たせたら、この領地どころか大陸が消滅するぞ!」
リベラも顔面蒼白で『六法全書』をめくっている。
「か、神と魔王に関する法律なんて載っていませんわ……!」
俺は震える指で、エアロックの解除ボタンを押した。
プシューッという音と共に、世界の『頂点』が、俺の聖域へと足を踏み入れる。
『お邪魔しまーす。うわ、床フッカフカ! これ人をダメにするやつじゃん』
『あら、いい香り。メロンかしら? ……ねえ貴方、ここが気に入ったわ。私の『別荘』にしてもよくてよ?』
魔王ラスティアの深紅の瞳が、HP残り0.5の俺を射抜いた。
――こうして、『聖域』の名前は決定的なものとなった。
神、魔王、竜王、エルフ、ドワーフ、人間。
全種族のトップが集う、世界で一番安全で、世界で一番胃が痛い場所。
俺のスローライフは、ここからが本当の『本番』だったのだ。
弁護士リベラによる『利用規約』が施行されてから数日。
俺の領地は、かつてない静寂と平和に包まれていた。
「……うむ。風呂上がりの牛乳は格別だな(小声)」
「ワシの研究データも順調じゃ。サイレント・ドリルの静音性は完璧じゃぞ(筆談)」
「お花たちも静かに育ってるわね。うふふ(微笑み)」
リビングでは、竜王デューク、Dr.ギア、ルナたちが、まるで図書館にいるかのように静かに過ごしていた。
誰かが少しでも音を立てそうになると、リベラがニコリと笑いながら『六法全書』の角で机をトントンと叩く。それだけで全員が直立不動になるのだ。
「す、すごい……。これが『法治国家』ってやつか」
俺は感動に打ち震えていた。
HPは常に満タンの【1.1】をキープ。
風の音も、爆発音も、怒号もない。ただ穏やかな空調の音だけが響く楽園。
「オーナー様、この平穏こそが『商品価値』でっせ」
ニャングルが電卓(タロー国製)を叩きながら近寄ってきた。
「ゴルド商会としても、ここは正式な『自治区』として世界に公表したいと考えてます。つきましては、この領地に名前を付けまへんか?」
「名前?」
「ええ。ただの『シェルター』やと味気ないでっしゃろ? 箔(ハク)がつくような、カッコええ名前がよろしおま」
名前か。
俺は少し考えた。
ここは俺にとって、死の恐怖から逃れられる唯一の場所。
そして、竜王やエルフたちが争いを忘れてくつろぐ場所。
「……『聖域(サンクチュアリ)』」
俺の口から、自然とその言葉が漏れた。
それを聞いたリベラが、感嘆の声を上げた。
「素晴らしいですわ、タクミ様! 『何人たりとも侵すことのできない聖なる場所』……これほど相応しい名前はありません!」
「我も異存はない。竜王が認めた安息の地だ、そのくらいの名が妥当だろう」
デュークも腕組みをして頷いた。
こうして、俺の引きこもりハウスは、正式名称**『絶対中立・保養聖域(サンクチュアリ)』**と命名された。
俺は【絶対建築】スキルを使い、入り口に立派な大理石の看板を設置した。
『Welcome to Sanctuary (※大声禁止・戦闘禁止・土足厳禁)』
完璧だ。これで俺のスローライフは約束された。
◇
その日の夕暮れ時だった。
ピンポーン。
入り口のチャイムが鳴った。
モニターには、二人の女性の姿が映っていた。
盗賊のような殺気はない。
商人のような商売っ気もない。
だが、俺の『危険感知本能(スペランカー・センス)』が、過去最大級の警鐘を鳴らした。
「……なんだ? 胃が痛いぞ」
HPが理由もなく【1.0】に減った。
ただそこに立っているだけで、モニター越しに伝わってくる『圧』が違う。
一人は、ジャージにサンダル姿の、ボサボサ金髪の女性。手にはコンビニ袋(タロー国製)をぶら下げている。
もう一人は、漆黒のドレスに身を包んだ、銀髪の絶世の美女。その瞳は深淵のように黒く、美しい。
「誰だ……? ニャングルの知り合いか?」
「いえ、知りまへんな……。けど、あの銀髪の方、どっかで見たような……」
ニャングルが首をかしげていると、リベラがハッと息を呑んだ。
そして、デュークが持っていたコーヒー牛乳を床に落とした。
「ば、馬鹿な……。なぜ『あやつら』がここにいる……!?」
竜王が震えている。
俺は恐る恐る、インターホンの通話ボタンを押した。
「はい、どちら様でしょうか……?」
すると、ジャージの女性が気だるげにカメラに向かってピースをした。
『あー、もしもし? ここが噂の『聖域』? タローちゃんから聞いて遊びに来たんだけど』
『ちょっとルチアナ、挨拶くらいちゃんとしなさいよ。……ごめんあそばせ。私たち、予約をしていないのだけれど、空いていて?』
銀髪の美女が優雅に微笑んだ。
その背後に、空間が歪むほどの『闇』が見えた気がした。
リビングにいる全員が凍りついた。
デュークが、搾り出すような声で言った。
「……女神ルチアナと、魔王ラスティアだ」
「は?」
俺の思考が停止した。
女神? 魔王?
いやいや、そんな世界のトップ2が、こんな辺境の家にアポなしで来るわけが――。
『あ、デュークいるじゃん。開けてよー。今日仕事で疲れてんのよ。サウナ入りたいんだけど』
『私(わたくし)はカラオケがしたいわ。最新のアニソンが入っていると聞いたのだけど』
会話の内容が庶民的すぎる。
だが、彼女たちが放つオーラは本物だった。
俺のHPバーが【0.5】まで急落する。
「う、嘘だろ……。神様と魔王様が……女子会しに来たってのか!?」
「開けろタクミ! いや開けてくださいお願いします!」
デュークが土下座の勢いで叫んだ。
「あやつらを待たせたら、この領地どころか大陸が消滅するぞ!」
リベラも顔面蒼白で『六法全書』をめくっている。
「か、神と魔王に関する法律なんて載っていませんわ……!」
俺は震える指で、エアロックの解除ボタンを押した。
プシューッという音と共に、世界の『頂点』が、俺の聖域へと足を踏み入れる。
『お邪魔しまーす。うわ、床フッカフカ! これ人をダメにするやつじゃん』
『あら、いい香り。メロンかしら? ……ねえ貴方、ここが気に入ったわ。私の『別荘』にしてもよくてよ?』
魔王ラスティアの深紅の瞳が、HP残り0.5の俺を射抜いた。
――こうして、『聖域』の名前は決定的なものとなった。
神、魔王、竜王、エルフ、ドワーフ、人間。
全種族のトップが集う、世界で一番安全で、世界で一番胃が痛い場所。
俺のスローライフは、ここからが本当の『本番』だったのだ。
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