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EP 18
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裸の付き合いと、バニラの香りの王様
「ふぅ……。勉強したら、なんだか余計に疲れちゃった……」
キャルルが店を出るなり、大きく伸びをした。
隣ではリーザが、リベラから「予習用」として渡された分厚い参考書を抱え、フラフラとしている。
「知識は重いですわ……物理的にも……」
「あら、私は楽しかったですわよ? 優太さんのお顔を10枚もデッサンできましたもの」
ルナだけは元気いっぱいだ。
「さて、これから家に帰って夕飯の支度だけど……その前に、汗を流していかない?」
優太が提案すると、キャルルの耳がピーンと立った。
「賛成! 『タロウ・スーパー銭湯』に行こ! あそこのサウナで整わないと、一が終われないよ!」
「賛成ですわ! あそこはシャンプーもリンスも使い放題(無料)……! 天国ですもの!」
リーザの目が輝く(動機が不純)。
「お風呂……? じゃあ私が源泉を呼び出して……」
「ストップ。施設に行こう。君がやるとマグマが出る」
優太は即座にルナを制止し、一行は街の中心部にある巨大な入浴施設へと向かった。
【タロウ・スーパー銭湯】
そこは、日本のスーパー銭湯をそのまま巨大化させ、ファンタジー風の装飾を施したような場所だった。
暖簾をくぐると、靴箱の木の鍵、番台(自動改札)、そして漂うコーヒー牛乳の香り。
「じゃあ、一時間後にロビーで」
優太はキャルルたちと別れ、男湯の暖簾をくぐった。
脱衣所で服を脱ぎ、浴場へ。
広々とした内湯、ジェットバス、電気風呂、そして露天風呂。
優太は身体を洗い(備え付けのナイロンタオルを見て感動し)、露天の岩風呂に肩まで浸かった。
「はぁぁ……生き返る……」
思わず声が出る。
異世界転生、ゴブリン、オーガ、そして個性強すぎなヒロインたち。
怒涛の日々の疲れが、お湯に溶けていくようだ。
「いい湯だろ? 兄ちゃん」
不意に、隣から声をかけられた。
湯気の中、頭にタオルを乗せた30歳くらいの男が浸かっていた。
顔立ちは平凡だが、どこか脱力した雰囲気の日本人だ。
「ええ、最高ですね。まさか異世界でこんな立派な風呂に入れるとは」
「だろ? ここの建設には苦労したんだよ。ドワーフに配管の説明するのに半年かかったからな」
男は自分のことのように語り、ふぅと息を吐いた。
その瞬間、ほのかに甘いバニラの香りがした。
(……風呂の中なのに? いや、これは体臭というか、染み付いたタバコの匂いか? この甘い匂い、確か『キャスター』……)
優太はリュウから聞いた話を思い出した。この国の国王・太郎は、キャスターを愛飲していると。
まさか、と思い男を見る。
男はニカッと笑い、優太の腕についた筋肉を見た。
「いい身体してんな。冒険者か?」
「ええ、まあ。医者志望なんですけど、成り行きで。……そういう貴方は?」
「俺? 俺はまあ……この国の管理人みたいなもんさ。毎日クレーム処理と書類仕事で肩が凝ってしょうがねぇよ」
男は肩を回した。
「奇遇ですね。僕の知り合いの『リベラ』って弁護士も、同じような愚痴をこぼしてましたよ」
「げっ、リベラかよ。あいつの持ってくる案件、胃が痛くなるんだよなぁ……『国税局の査察が厳しい』とか文句言われるし」
男は苦笑いし、風呂から上がった。
「ま、お互い苦労するな。じゃあな、新入り。この国を楽しんでくれよ」
男はひらひらと手を振り、洗い場の方へ消えていった。
「(……間違いない。あの人、国王(太郎)だ)」
優太は確信した。
SPもつけず、一般人に紛れて裸の付き合いをする王様。
この国の平和さと、トップの適当さを肌で感じ、優太は改めて湯船に深く沈んだ。
【一方、女湯】
「わぁ~♡ 広いねぇ!」
キャルルはタオルを頭に乗せ、湯船で足を伸ばしていた。
その隣では、リーザが鬼の形相で身体を洗っている。
「シャンプー3回目……! トリートメントもたっぷりと……! 毛穴の汚れを根こそぎ落としますわ!」
「リーザ、洗いすぎて皮剥けるよ……」
そして、ルナは。
「あら、お湯がぬるいですわね。追い焚きしましょうか?」
彼女が指先をお湯につけると、浴槽の一部がボコボコと沸騰し始めた。
「熱っ!? ルナ、ストップ! ゆでダコになっちゃう!」
キャルルが慌てて水をかける。
「ねぇねぇ、キャルル。優太さんのこと、どう思ってるの?」
ルナが沸騰を止めながら、唐突に爆弾を投下した。
「えっ!? な、ななな何よ急に!」
「だって、ハーネスつけてる時、優太さんずっとキャルルを見てたもの。信頼してるんだなーって」
「そ、そうかな……? ///」
キャルルはお湯に顔を半分沈め、ブクブクと泡を吹いた。
耳が真っ赤になっている。
「優太さんは……私の鉄靴(あし)を見ても引かなかったし……チョコくれたし……料理上手いし……」
「あら、ライバル宣言ですの?」
リーザがトリートメントでツヤツヤになった髪をかき上げながら参戦した。
「わたくしも負けませんわよ。優太さんの歌詞センスと、あのおにぎりの味……胃袋を掴まれたのは私です!」
「ふふ、私はアパートごと凍らせて閉じ込めれば勝ちですわ♡」
「「それは犯罪!!」」
女湯の湯気の中で、熱い恋のバトル(と物理的な温度上昇)が繰り広げられていた。
【ロビー・湯上がり】
風呂上がりの優太は、自販機(魔導冷蔵庫)の前で腰に手を当て、瓶入りの『フルーツ牛乳』を一気に飲み干した。
「ぷはぁっ! これだよこれ!」
そこへ、ほてった顔の三人が戻ってきた。
全員、肌がツヤツヤしている。
「あ、優太さん! 私もそれ飲む!」
キャルルが駆け寄り、コーヒー牛乳を購入。
リーザは無料の給水器の水を美味しそうに飲み、ルナは髪を乾かす魔法を使いながら優雅に現れた。
「さ、帰ろっか。今日は優太さんの歓迎会第二弾、『お家で鍋パーティー』だよ!」
「鍋か。いいな。……あ、そうだ」
優太はスキルを発動させ、人数分のアイスキャンディー(ガリガリ君)を取り出した。
「湯上がりのデザート。食べながら帰ろう」
「わぁい! ソーダ味!」
「当たり付きですの!? 5円の価値がありますわ!」
「冷たくて美味しい♡」
夕闇のタロウ・シティ。
ガリガリ君をかじる四人の影が、街灯に照らされて伸びていく。
国王に会い、ヒロインたちと風呂上がりの風を浴びる。
優太の異世界生活は、今のところ(ルナが暴走しなければ)順風満帆に見えた。
【ピロン!】
> システム通知
> 善行:国王への不敬回避(正体に気づいても騒がない大人の対応)
> 及び、女性陣への湯上がりケア
> 獲得ポイント:2,000 P
>
「(よし、今日の家賃分も稼げたな)」
優太は心の中でガッツポーズをし、家路を急いだ。
「ふぅ……。勉強したら、なんだか余計に疲れちゃった……」
キャルルが店を出るなり、大きく伸びをした。
隣ではリーザが、リベラから「予習用」として渡された分厚い参考書を抱え、フラフラとしている。
「知識は重いですわ……物理的にも……」
「あら、私は楽しかったですわよ? 優太さんのお顔を10枚もデッサンできましたもの」
ルナだけは元気いっぱいだ。
「さて、これから家に帰って夕飯の支度だけど……その前に、汗を流していかない?」
優太が提案すると、キャルルの耳がピーンと立った。
「賛成! 『タロウ・スーパー銭湯』に行こ! あそこのサウナで整わないと、一が終われないよ!」
「賛成ですわ! あそこはシャンプーもリンスも使い放題(無料)……! 天国ですもの!」
リーザの目が輝く(動機が不純)。
「お風呂……? じゃあ私が源泉を呼び出して……」
「ストップ。施設に行こう。君がやるとマグマが出る」
優太は即座にルナを制止し、一行は街の中心部にある巨大な入浴施設へと向かった。
【タロウ・スーパー銭湯】
そこは、日本のスーパー銭湯をそのまま巨大化させ、ファンタジー風の装飾を施したような場所だった。
暖簾をくぐると、靴箱の木の鍵、番台(自動改札)、そして漂うコーヒー牛乳の香り。
「じゃあ、一時間後にロビーで」
優太はキャルルたちと別れ、男湯の暖簾をくぐった。
脱衣所で服を脱ぎ、浴場へ。
広々とした内湯、ジェットバス、電気風呂、そして露天風呂。
優太は身体を洗い(備え付けのナイロンタオルを見て感動し)、露天の岩風呂に肩まで浸かった。
「はぁぁ……生き返る……」
思わず声が出る。
異世界転生、ゴブリン、オーガ、そして個性強すぎなヒロインたち。
怒涛の日々の疲れが、お湯に溶けていくようだ。
「いい湯だろ? 兄ちゃん」
不意に、隣から声をかけられた。
湯気の中、頭にタオルを乗せた30歳くらいの男が浸かっていた。
顔立ちは平凡だが、どこか脱力した雰囲気の日本人だ。
「ええ、最高ですね。まさか異世界でこんな立派な風呂に入れるとは」
「だろ? ここの建設には苦労したんだよ。ドワーフに配管の説明するのに半年かかったからな」
男は自分のことのように語り、ふぅと息を吐いた。
その瞬間、ほのかに甘いバニラの香りがした。
(……風呂の中なのに? いや、これは体臭というか、染み付いたタバコの匂いか? この甘い匂い、確か『キャスター』……)
優太はリュウから聞いた話を思い出した。この国の国王・太郎は、キャスターを愛飲していると。
まさか、と思い男を見る。
男はニカッと笑い、優太の腕についた筋肉を見た。
「いい身体してんな。冒険者か?」
「ええ、まあ。医者志望なんですけど、成り行きで。……そういう貴方は?」
「俺? 俺はまあ……この国の管理人みたいなもんさ。毎日クレーム処理と書類仕事で肩が凝ってしょうがねぇよ」
男は肩を回した。
「奇遇ですね。僕の知り合いの『リベラ』って弁護士も、同じような愚痴をこぼしてましたよ」
「げっ、リベラかよ。あいつの持ってくる案件、胃が痛くなるんだよなぁ……『国税局の査察が厳しい』とか文句言われるし」
男は苦笑いし、風呂から上がった。
「ま、お互い苦労するな。じゃあな、新入り。この国を楽しんでくれよ」
男はひらひらと手を振り、洗い場の方へ消えていった。
「(……間違いない。あの人、国王(太郎)だ)」
優太は確信した。
SPもつけず、一般人に紛れて裸の付き合いをする王様。
この国の平和さと、トップの適当さを肌で感じ、優太は改めて湯船に深く沈んだ。
【一方、女湯】
「わぁ~♡ 広いねぇ!」
キャルルはタオルを頭に乗せ、湯船で足を伸ばしていた。
その隣では、リーザが鬼の形相で身体を洗っている。
「シャンプー3回目……! トリートメントもたっぷりと……! 毛穴の汚れを根こそぎ落としますわ!」
「リーザ、洗いすぎて皮剥けるよ……」
そして、ルナは。
「あら、お湯がぬるいですわね。追い焚きしましょうか?」
彼女が指先をお湯につけると、浴槽の一部がボコボコと沸騰し始めた。
「熱っ!? ルナ、ストップ! ゆでダコになっちゃう!」
キャルルが慌てて水をかける。
「ねぇねぇ、キャルル。優太さんのこと、どう思ってるの?」
ルナが沸騰を止めながら、唐突に爆弾を投下した。
「えっ!? な、ななな何よ急に!」
「だって、ハーネスつけてる時、優太さんずっとキャルルを見てたもの。信頼してるんだなーって」
「そ、そうかな……? ///」
キャルルはお湯に顔を半分沈め、ブクブクと泡を吹いた。
耳が真っ赤になっている。
「優太さんは……私の鉄靴(あし)を見ても引かなかったし……チョコくれたし……料理上手いし……」
「あら、ライバル宣言ですの?」
リーザがトリートメントでツヤツヤになった髪をかき上げながら参戦した。
「わたくしも負けませんわよ。優太さんの歌詞センスと、あのおにぎりの味……胃袋を掴まれたのは私です!」
「ふふ、私はアパートごと凍らせて閉じ込めれば勝ちですわ♡」
「「それは犯罪!!」」
女湯の湯気の中で、熱い恋のバトル(と物理的な温度上昇)が繰り広げられていた。
【ロビー・湯上がり】
風呂上がりの優太は、自販機(魔導冷蔵庫)の前で腰に手を当て、瓶入りの『フルーツ牛乳』を一気に飲み干した。
「ぷはぁっ! これだよこれ!」
そこへ、ほてった顔の三人が戻ってきた。
全員、肌がツヤツヤしている。
「あ、優太さん! 私もそれ飲む!」
キャルルが駆け寄り、コーヒー牛乳を購入。
リーザは無料の給水器の水を美味しそうに飲み、ルナは髪を乾かす魔法を使いながら優雅に現れた。
「さ、帰ろっか。今日は優太さんの歓迎会第二弾、『お家で鍋パーティー』だよ!」
「鍋か。いいな。……あ、そうだ」
優太はスキルを発動させ、人数分のアイスキャンディー(ガリガリ君)を取り出した。
「湯上がりのデザート。食べながら帰ろう」
「わぁい! ソーダ味!」
「当たり付きですの!? 5円の価値がありますわ!」
「冷たくて美味しい♡」
夕闇のタロウ・シティ。
ガリガリ君をかじる四人の影が、街灯に照らされて伸びていく。
国王に会い、ヒロインたちと風呂上がりの風を浴びる。
優太の異世界生活は、今のところ(ルナが暴走しなければ)順風満帆に見えた。
【ピロン!】
> システム通知
> 善行:国王への不敬回避(正体に気づいても騒がない大人の対応)
> 及び、女性陣への湯上がりケア
> 獲得ポイント:2,000 P
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「(よし、今日の家賃分も稼げたな)」
優太は心の中でガッツポーズをし、家路を急いだ。
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