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EP 19
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すき焼きと生卵、そして仁義なき肉争奪戦
「ただいまー! さあ、鍋だ鍋だ! お肉だー!」
玄関を開けるなり、キャルルが安全靴を脱ぎ捨ててリビングへダイブした。
お風呂上がりの適度な空腹感。コンディションは万全だ。
「優太さん、食材費は私の『へそくり(オーク討伐報酬)』を出しますわ! 今日こそはパンの耳以外を食べ尽くします!」
リーザも鼻息が荒い。
優太はキッチンに向かい、腕まくりをした。
「じゃあ、今日は日本のご馳走の王様……『すき焼き』にしようか」
「スキヤキ……?」
三人が首を傾げる。
太郎国には様々な料理が伝わっているが、高級料理であるすき焼きは、まだ庶民(貧乏アイドルや冒険者)には浸透していないようだ。
「甘辛いタレで牛肉と野菜を煮込んで、溶いた生卵につけて食べるんだ」
「な、生卵ですって!?」
リーザが悲鳴を上げた。
「優太さん、正気ですの!? 生の卵なんて、お腹を壊してトイレの住人になってしまいますわ!」
「大丈夫。僕のスキルで出した卵は、徹底的に衛生管理された『日本の卵』だから。絶対に当たらないよ」
優太は自信満々に【地球ショッピング】のウィンドウを開いた。
『購入:黒毛和牛(切り落とし大パック)』×3
『購入:長ネギ、焼き豆腐、しらたき、春菊』
『購入:ヨード卵・光(6個パック)』
『購入:エバラ すき焼きのたれ』
次々と現れる高級食材たち。特に、サシの入った美しい牛肉の輝きに、三人の目が釘付けになった。
「こ、これが……お肉……? 宝石みたい……」
「よし、準備するぞ。……あ、ルナさん?」
優太が振り返ると、ルナが杖を構えてコンロの前に立っていた。
「私、火を点けますわ! 『地獄の業火(ヘル・ファイア)』!」
「ストーーップ!!」
優太はスライディングで止めに入った。
「その魔法だと鍋ごと蒸発する! コンロのスイッチひねるだけでいいから!」
「あら、残念……」
【実食:すき焼きパーティー】
リビングのテーブルにカセットコンロ(スキル産)と鉄鍋がセットされた。
牛脂を溶かし、ネギを焼いて香りを出す。そこへ肉を投入。
ジュワァァァ……!
たまらない音が響き、肉の焼ける匂いが部屋中に充満する。
「うわぁぁぁ……! いい匂いぃぃ!」
キャルルの耳がメトロノームのように揺れている。
「そこへ『割り下(たれ)』を投入!」
優太がタレを回し入れると、醤油と砂糖の焦げる甘い香りが爆発的に広がった。
野菜と豆腐を加え、煮立つのを待つ。
「さあ、この器に卵を割って、溶いて待ってて」
三人は恐る恐る、しかし優太を信じて卵を溶いた。
「よし、煮えた! 食べていいよ!」
「「「いただきます!!」」」
キャルルが一番に箸を伸ばし、肉を卵に潜らせて口に放り込んだ。
「んんっ!!?」
彼女の動きが止まる。
「あまじょっぱいタレと、お肉の脂が……卵でまろやかになって……口の中で溶けたぁぁぁ!! なにこれぇぇぇ!!」
「わたくしも……!」
リーザが震える手で肉を口にする。
「……っ!! (号泣)」
言葉にならないようだ。ただひたすらに、目から涙を流しながら肉を噛み締めている。
パンの耳生活からの落差が激しすぎて、脳が処理落ちしているらしい。
ルナも一口食べ、頬を染めてうっとりとした。
「あら……。こんなに野蛮な見た目なのに、味はとっても繊細でエレガントですわ。優太さんのようですわね♡」
「(野蛮な見た目って……)」
優太も肉を食べた。
日本の味だ。エバラのタレは裏切らない。
「さあ、どんどん食べて。肉はまだあるから」
その言葉が、戦いのゴングだった。
「このしらたきは私のよ! 味が染みてて美味しいの!」
「春菊は渡しませんわ! この苦味が大人なんです!」
「あら、お豆腐が逃げていきますわ(魔法で浮かせながら)」
「ルナ! 魔法禁止! 箸を使いなさい!」
鍋を囲む箸と箸のぶつかり合い。
それはまさに、小さな戦争だった。
しかし、そこには笑顔があった。
【ピロン!】
> システム通知
> 善行:食卓の団欒(異文化交流と栄養補給)
> 獲得ポイント:3,000 P
>
優太はビール(ノンアルコール)を飲みながら、賑やかな食卓を眺めた。
一人暮らしの侘しい夕食とは違う、温かい時間。
1万ポイントの時限爆弾(ルナ)も、今はただの食いしん坊なエルフだ。
「ふぅ……美味しかった……」
鍋が空になり、締めに入れた「うどん」まで完食した三人は、座布団の上で幸せそうに転がっていた。
「優太さん、最高……。私、もうこの家から出られないかも……」
「わたくしもです……。明日からパンの耳に戻れる気がしません……」
「優太さん、毎日これ作ってくださいな♡」
優太は苦笑しながら、食器を片付けた。
「毎日は無理だけど、また作ってあげるよ。……さ、明日はみんな仕事だろ? もう寝よう」
「はーい……」
こうして、濃厚な一日は終わりを告げた。
優太は自分の部屋に戻り、ベッドに倒れ込んだ。
「……疲れたけど、悪くないな」
天井を見上げ、目を閉じる。
明日もまた、セーラ治療院での激務と、この騒がしい同居人たちとの生活が待っている。
しかし、今の優太には、それを乗り越えるための「仲間」と「ポイント(貯金)」があった。
(……おやすみ、みんな)
優太の寝息が聞こえ始めた頃。
リビングでは、ルナがこっそりと起き出し、冷蔵庫のプリン(優太の明日の分)を狙ってキャルルに取り押さえられるという、小さな事件が起きていたことを彼は知らない。
【中村優太の異世界生活 2日目終了】
現在の所持ポイント:24,650 P
「ただいまー! さあ、鍋だ鍋だ! お肉だー!」
玄関を開けるなり、キャルルが安全靴を脱ぎ捨ててリビングへダイブした。
お風呂上がりの適度な空腹感。コンディションは万全だ。
「優太さん、食材費は私の『へそくり(オーク討伐報酬)』を出しますわ! 今日こそはパンの耳以外を食べ尽くします!」
リーザも鼻息が荒い。
優太はキッチンに向かい、腕まくりをした。
「じゃあ、今日は日本のご馳走の王様……『すき焼き』にしようか」
「スキヤキ……?」
三人が首を傾げる。
太郎国には様々な料理が伝わっているが、高級料理であるすき焼きは、まだ庶民(貧乏アイドルや冒険者)には浸透していないようだ。
「甘辛いタレで牛肉と野菜を煮込んで、溶いた生卵につけて食べるんだ」
「な、生卵ですって!?」
リーザが悲鳴を上げた。
「優太さん、正気ですの!? 生の卵なんて、お腹を壊してトイレの住人になってしまいますわ!」
「大丈夫。僕のスキルで出した卵は、徹底的に衛生管理された『日本の卵』だから。絶対に当たらないよ」
優太は自信満々に【地球ショッピング】のウィンドウを開いた。
『購入:黒毛和牛(切り落とし大パック)』×3
『購入:長ネギ、焼き豆腐、しらたき、春菊』
『購入:ヨード卵・光(6個パック)』
『購入:エバラ すき焼きのたれ』
次々と現れる高級食材たち。特に、サシの入った美しい牛肉の輝きに、三人の目が釘付けになった。
「こ、これが……お肉……? 宝石みたい……」
「よし、準備するぞ。……あ、ルナさん?」
優太が振り返ると、ルナが杖を構えてコンロの前に立っていた。
「私、火を点けますわ! 『地獄の業火(ヘル・ファイア)』!」
「ストーーップ!!」
優太はスライディングで止めに入った。
「その魔法だと鍋ごと蒸発する! コンロのスイッチひねるだけでいいから!」
「あら、残念……」
【実食:すき焼きパーティー】
リビングのテーブルにカセットコンロ(スキル産)と鉄鍋がセットされた。
牛脂を溶かし、ネギを焼いて香りを出す。そこへ肉を投入。
ジュワァァァ……!
たまらない音が響き、肉の焼ける匂いが部屋中に充満する。
「うわぁぁぁ……! いい匂いぃぃ!」
キャルルの耳がメトロノームのように揺れている。
「そこへ『割り下(たれ)』を投入!」
優太がタレを回し入れると、醤油と砂糖の焦げる甘い香りが爆発的に広がった。
野菜と豆腐を加え、煮立つのを待つ。
「さあ、この器に卵を割って、溶いて待ってて」
三人は恐る恐る、しかし優太を信じて卵を溶いた。
「よし、煮えた! 食べていいよ!」
「「「いただきます!!」」」
キャルルが一番に箸を伸ばし、肉を卵に潜らせて口に放り込んだ。
「んんっ!!?」
彼女の動きが止まる。
「あまじょっぱいタレと、お肉の脂が……卵でまろやかになって……口の中で溶けたぁぁぁ!! なにこれぇぇぇ!!」
「わたくしも……!」
リーザが震える手で肉を口にする。
「……っ!! (号泣)」
言葉にならないようだ。ただひたすらに、目から涙を流しながら肉を噛み締めている。
パンの耳生活からの落差が激しすぎて、脳が処理落ちしているらしい。
ルナも一口食べ、頬を染めてうっとりとした。
「あら……。こんなに野蛮な見た目なのに、味はとっても繊細でエレガントですわ。優太さんのようですわね♡」
「(野蛮な見た目って……)」
優太も肉を食べた。
日本の味だ。エバラのタレは裏切らない。
「さあ、どんどん食べて。肉はまだあるから」
その言葉が、戦いのゴングだった。
「このしらたきは私のよ! 味が染みてて美味しいの!」
「春菊は渡しませんわ! この苦味が大人なんです!」
「あら、お豆腐が逃げていきますわ(魔法で浮かせながら)」
「ルナ! 魔法禁止! 箸を使いなさい!」
鍋を囲む箸と箸のぶつかり合い。
それはまさに、小さな戦争だった。
しかし、そこには笑顔があった。
【ピロン!】
> システム通知
> 善行:食卓の団欒(異文化交流と栄養補給)
> 獲得ポイント:3,000 P
>
優太はビール(ノンアルコール)を飲みながら、賑やかな食卓を眺めた。
一人暮らしの侘しい夕食とは違う、温かい時間。
1万ポイントの時限爆弾(ルナ)も、今はただの食いしん坊なエルフだ。
「ふぅ……美味しかった……」
鍋が空になり、締めに入れた「うどん」まで完食した三人は、座布団の上で幸せそうに転がっていた。
「優太さん、最高……。私、もうこの家から出られないかも……」
「わたくしもです……。明日からパンの耳に戻れる気がしません……」
「優太さん、毎日これ作ってくださいな♡」
優太は苦笑しながら、食器を片付けた。
「毎日は無理だけど、また作ってあげるよ。……さ、明日はみんな仕事だろ? もう寝よう」
「はーい……」
こうして、濃厚な一日は終わりを告げた。
優太は自分の部屋に戻り、ベッドに倒れ込んだ。
「……疲れたけど、悪くないな」
天井を見上げ、目を閉じる。
明日もまた、セーラ治療院での激務と、この騒がしい同居人たちとの生活が待っている。
しかし、今の優太には、それを乗り越えるための「仲間」と「ポイント(貯金)」があった。
(……おやすみ、みんな)
優太の寝息が聞こえ始めた頃。
リビングでは、ルナがこっそりと起き出し、冷蔵庫のプリン(優太の明日の分)を狙ってキャルルに取り押さえられるという、小さな事件が起きていたことを彼は知らない。
【中村優太の異世界生活 2日目終了】
現在の所持ポイント:24,650 P
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