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EP 20
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虫歯の痛みは世界の痛み、そして責任問題へ
【AM 10:00 コーポ・タロウ リビング】
「ん~♡ この『カントリーマアム(チョコまみれ)』、美味しいですわぁ♡」
ルナが幸せそうな顔で、優太がスキルで出したクッキーを齧っていた。
平和な光景だ。しかし、そのクッキーの中に、製造過程で固まったチョコチップの塊があったのか、あるいはルナの歯が限界を迎えていたのか。
ガリッ!!!
嫌な音がリビングに響いた。
「!!?」
ルナの動きが止まる。
手から食べかけのクッキーが落ち、スローモーションで床に転がる。
「……あ……い、た……」
ルナが震える手で頬を押さえた。
その瞳から、みるみる涙が溢れてくる。
「痛い……歯が……歯がぁ……うぅっ……」
【緊急警報!!】
【WARNING! WARNING!】
システム通知
検知:ルナ・シンフォニアの激痛(歯髄炎の疑い)
連動:世界樹の暴走プロトコル起動
世界崩壊カウントダウン開始…… 10、9、8……
「え? 何を急に!?」
優太が叫ぶと同時に、リビングの床板が弾け飛び、極太の木の根が隆起してきた。
窓の外では空が赤黒く染まり、隕石のような何かが降り始めている。
「痛いぃぃぃ! 世界なんてどうでもいいくらい痛いですわぁぁ!!」
ルナが絶叫するたびに、アパートがミシミシと悲鳴を上げる。
このままでは、あと数秒で太郎国が地図から消える。
「ヤバい! 止めないと!」
「とぉーーっ!!」
ドスッ!!
キャルルが閃光のごとく跳躍し、ルナの首筋に正確無比な**手刀(峰打ち)**を叩き込んだ。
「ふにゅ……」
ルナが白目を剥いて気絶し、ドサリとソファに倒れ込んだ。
同時に、暴れていた木の根がピタリと停止する。
「ふぅ……間一髪!」
キャルルが冷や汗を拭う。
優太はへたり込みそうになったが、システムウィンドウはまだ消えていない。
カウントダウン一時停止中
※対象が覚醒し、痛みを再認識した瞬間に再開します。
「……困ったことになったぞ。気絶してる間に、ルナの虫歯を治さないと世界が終わる」
優太は青ざめた。
自分は医者志望だが、歯科は専門外だ。それに器具がない。
「リーザ! この街に歯医者は!?」
「ありますわ! ……ですが」
リーザがカレンダーを指差した。今日は赤丸がついている。
「今日は『国民の祝日(タロウ感謝の日)』……。太郎様が定めた『何があっても働いてはいけない日』ですわ。病院も商業ギルドも全休です」
「なんだと……!?」
優太は天を仰いだ。
あの適当な王様(太郎)め。
『俺が休みたいから、国民も休め。ブラック労働は許さん』という、現代人らしいホワイト政策が、今は仇となっている。
「(太郎おおお!? お前がサボりたいからって!! いや正しい! 正しいけど今は大惨事になるぞ!!)」
優太は覚悟を決めた。
「……やるしかない。僕が治す」
「えっ? 優太さん、歯医者さんもできるの?」
「外科の応用だ。虫歯菌に侵された部分を削って、詰める。……麻酔がないのがキツいが」
「それなら、私の歌で麻酔をかけますわ!」
リーザがみかん箱(室内用)の上に立った。
「新曲『スリーピング・ビューティー ~永眠への誘い~』! これでルナの意識を深層まで沈めます!」
「(タイトルが怖いけど)頼む! キャルルはルナが動かないように押さえていてくれ!」
「分かった! 任せて!」
【緊急オペ:世界を救う歯科治療】
リビングが臨時の処置室と化した。
優太は【地球ショッピング】をフル稼働させる。
『購入:デンタルミラー』
『購入:探針(エキスプローラー)』
『購入:歯科用マイクロモーター(ハンドドリル)』
『購入:コンポジットレジン(充填剤)』
『購入:LED照射器』
「行くぞ……!」
優太はヘッドライトを装着し、ルナの口を開かせた。
リーザが妙に低音の効いた子守唄を歌い始め、ルナの意識レベルが深く沈んでいく。
「(あった……これか)」
右下の奥歯。小さな穴が開いている。
そこでチョコが詰まり、神経を刺激したようだ。
キュイィィィィィン……!
ドリルの音が響く。
キャルルがルナの顎と肩をガッチリとホールドする。
「(神経までは行ってない……象牙質で止まってる。これなら削って埋めるだけでいける!)」
優太の指先が精密に動く。
患部を慎重に削り取り、洗浄し、接着剤を塗り、レジンを充填する。
最後に青い光(LED)を当てて硬化させる。
「(よし……!)」
咬合調整(噛み合わせ)を行い、表面を研磨する。
所要時間、わずか10分。
世界を賭けたオペが終了した。
「……終わった」
優太はドリルを置き、大きく息を吐いた。
システムウィンドウのカウントダウンが消滅し、『世界崩壊回避:成功』の文字が表示される。
【数分後】
「ん……」
ルナがゆっくりと目を開けた。
「キャルル、リーザ、逃げる準備を!」
優太が警戒する。もし痛みが残っていれば、即座に第二ラウンド(世界崩壊)だ。
ルナは起き上がり、恐る恐る自分の頬に手を当てた。
そして、口の中で舌を動かし、患部を確認する。
「……あらぁ?」
彼女の瞳が丸くなる。
「痛く……ない。ズキズキしないわ。それに、穴が塞がってる……?」
「良かった……」
優太たちはその場に崩れ落ちた。
「もしかして、優太さんが治療を?」
ルナが優太を見つめる。
キャルルがVサインを出した。
「そうだよ! 優太さんが、ルナが寝てる間に専用の道具でお口の中を工事してくれたの。優太に感謝だね、ルナ」
「……お口の中を……工事……?」
ルナの顔が、ボッ! と音を立てて真っ赤になった。
彼女は自分の口元を両手で覆い、身をくねらせ始めた。
「えぇ~!? い、嫌だわ……。あんな恥ずかしい所を、じっくり見られたなんて……」
「え? いや、治療だから……」
ルナは潤んだ瞳で優太を見上げ、モジモジと言った。
「エルフの古いしきたりでは、殿方に口の中を見せるなんて……『口づけ以上の契り』……つまり、お嫁さんコースですわ!!」
「はぁ!!?」
優太が素っ頓狂な声を上げる。
「責任……取ってくださいね♡」
ルナが背後に幻覚の「ウェディングベルと教会」を出現させ、薬指を突き出してきた。
キャルルとリーザが凍りつく。
【ピロン!】
システム通知
善行:歯科治療による世界救済
報酬:ルナ・シンフォニアからの重すぎる愛(婚約フラグ)
獲得ポイント:100,000 P
「(ポイントの桁がおかしい!! 責任の重さが数値化されてる!!)」
優太は青ざめた。
虫歯は治ったが、もっと厄介な「愛の病」が悪化してしまったようだ。
「ち、違いますのよルナ! これは医療行為! そう、ドクターと患者の関係ですわ!」
「私許さないからね! 優太さんは私のなんだから!(あれ?)」
リビングで再び騒がしい大騒動が始まる。
太郎国の休日は、優太にとって全く「安息日」ではなかったのである。
【AM 10:00 コーポ・タロウ リビング】
「ん~♡ この『カントリーマアム(チョコまみれ)』、美味しいですわぁ♡」
ルナが幸せそうな顔で、優太がスキルで出したクッキーを齧っていた。
平和な光景だ。しかし、そのクッキーの中に、製造過程で固まったチョコチップの塊があったのか、あるいはルナの歯が限界を迎えていたのか。
ガリッ!!!
嫌な音がリビングに響いた。
「!!?」
ルナの動きが止まる。
手から食べかけのクッキーが落ち、スローモーションで床に転がる。
「……あ……い、た……」
ルナが震える手で頬を押さえた。
その瞳から、みるみる涙が溢れてくる。
「痛い……歯が……歯がぁ……うぅっ……」
【緊急警報!!】
【WARNING! WARNING!】
システム通知
検知:ルナ・シンフォニアの激痛(歯髄炎の疑い)
連動:世界樹の暴走プロトコル起動
世界崩壊カウントダウン開始…… 10、9、8……
「え? 何を急に!?」
優太が叫ぶと同時に、リビングの床板が弾け飛び、極太の木の根が隆起してきた。
窓の外では空が赤黒く染まり、隕石のような何かが降り始めている。
「痛いぃぃぃ! 世界なんてどうでもいいくらい痛いですわぁぁ!!」
ルナが絶叫するたびに、アパートがミシミシと悲鳴を上げる。
このままでは、あと数秒で太郎国が地図から消える。
「ヤバい! 止めないと!」
「とぉーーっ!!」
ドスッ!!
キャルルが閃光のごとく跳躍し、ルナの首筋に正確無比な**手刀(峰打ち)**を叩き込んだ。
「ふにゅ……」
ルナが白目を剥いて気絶し、ドサリとソファに倒れ込んだ。
同時に、暴れていた木の根がピタリと停止する。
「ふぅ……間一髪!」
キャルルが冷や汗を拭う。
優太はへたり込みそうになったが、システムウィンドウはまだ消えていない。
カウントダウン一時停止中
※対象が覚醒し、痛みを再認識した瞬間に再開します。
「……困ったことになったぞ。気絶してる間に、ルナの虫歯を治さないと世界が終わる」
優太は青ざめた。
自分は医者志望だが、歯科は専門外だ。それに器具がない。
「リーザ! この街に歯医者は!?」
「ありますわ! ……ですが」
リーザがカレンダーを指差した。今日は赤丸がついている。
「今日は『国民の祝日(タロウ感謝の日)』……。太郎様が定めた『何があっても働いてはいけない日』ですわ。病院も商業ギルドも全休です」
「なんだと……!?」
優太は天を仰いだ。
あの適当な王様(太郎)め。
『俺が休みたいから、国民も休め。ブラック労働は許さん』という、現代人らしいホワイト政策が、今は仇となっている。
「(太郎おおお!? お前がサボりたいからって!! いや正しい! 正しいけど今は大惨事になるぞ!!)」
優太は覚悟を決めた。
「……やるしかない。僕が治す」
「えっ? 優太さん、歯医者さんもできるの?」
「外科の応用だ。虫歯菌に侵された部分を削って、詰める。……麻酔がないのがキツいが」
「それなら、私の歌で麻酔をかけますわ!」
リーザがみかん箱(室内用)の上に立った。
「新曲『スリーピング・ビューティー ~永眠への誘い~』! これでルナの意識を深層まで沈めます!」
「(タイトルが怖いけど)頼む! キャルルはルナが動かないように押さえていてくれ!」
「分かった! 任せて!」
【緊急オペ:世界を救う歯科治療】
リビングが臨時の処置室と化した。
優太は【地球ショッピング】をフル稼働させる。
『購入:デンタルミラー』
『購入:探針(エキスプローラー)』
『購入:歯科用マイクロモーター(ハンドドリル)』
『購入:コンポジットレジン(充填剤)』
『購入:LED照射器』
「行くぞ……!」
優太はヘッドライトを装着し、ルナの口を開かせた。
リーザが妙に低音の効いた子守唄を歌い始め、ルナの意識レベルが深く沈んでいく。
「(あった……これか)」
右下の奥歯。小さな穴が開いている。
そこでチョコが詰まり、神経を刺激したようだ。
キュイィィィィィン……!
ドリルの音が響く。
キャルルがルナの顎と肩をガッチリとホールドする。
「(神経までは行ってない……象牙質で止まってる。これなら削って埋めるだけでいける!)」
優太の指先が精密に動く。
患部を慎重に削り取り、洗浄し、接着剤を塗り、レジンを充填する。
最後に青い光(LED)を当てて硬化させる。
「(よし……!)」
咬合調整(噛み合わせ)を行い、表面を研磨する。
所要時間、わずか10分。
世界を賭けたオペが終了した。
「……終わった」
優太はドリルを置き、大きく息を吐いた。
システムウィンドウのカウントダウンが消滅し、『世界崩壊回避:成功』の文字が表示される。
【数分後】
「ん……」
ルナがゆっくりと目を開けた。
「キャルル、リーザ、逃げる準備を!」
優太が警戒する。もし痛みが残っていれば、即座に第二ラウンド(世界崩壊)だ。
ルナは起き上がり、恐る恐る自分の頬に手を当てた。
そして、口の中で舌を動かし、患部を確認する。
「……あらぁ?」
彼女の瞳が丸くなる。
「痛く……ない。ズキズキしないわ。それに、穴が塞がってる……?」
「良かった……」
優太たちはその場に崩れ落ちた。
「もしかして、優太さんが治療を?」
ルナが優太を見つめる。
キャルルがVサインを出した。
「そうだよ! 優太さんが、ルナが寝てる間に専用の道具でお口の中を工事してくれたの。優太に感謝だね、ルナ」
「……お口の中を……工事……?」
ルナの顔が、ボッ! と音を立てて真っ赤になった。
彼女は自分の口元を両手で覆い、身をくねらせ始めた。
「えぇ~!? い、嫌だわ……。あんな恥ずかしい所を、じっくり見られたなんて……」
「え? いや、治療だから……」
ルナは潤んだ瞳で優太を見上げ、モジモジと言った。
「エルフの古いしきたりでは、殿方に口の中を見せるなんて……『口づけ以上の契り』……つまり、お嫁さんコースですわ!!」
「はぁ!!?」
優太が素っ頓狂な声を上げる。
「責任……取ってくださいね♡」
ルナが背後に幻覚の「ウェディングベルと教会」を出現させ、薬指を突き出してきた。
キャルルとリーザが凍りつく。
【ピロン!】
システム通知
善行:歯科治療による世界救済
報酬:ルナ・シンフォニアからの重すぎる愛(婚約フラグ)
獲得ポイント:100,000 P
「(ポイントの桁がおかしい!! 責任の重さが数値化されてる!!)」
優太は青ざめた。
虫歯は治ったが、もっと厄介な「愛の病」が悪化してしまったようだ。
「ち、違いますのよルナ! これは医療行為! そう、ドクターと患者の関係ですわ!」
「私許さないからね! 優太さんは私のなんだから!(あれ?)」
リビングで再び騒がしい大騒動が始まる。
太郎国の休日は、優太にとって全く「安息日」ではなかったのである。
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