スキル『100円ショップ』で異世界暮らし。素材回収でポイント貯めて、美味しいご飯と便利グッズで美少女たちとスローライフを目指します

月神世一

文字の大きさ
17 / 46

EP 17

しおりを挟む
銀貨5枚の重みと、ささやかな祝勝会
​夕暮れ時、太郎たちは冒険者ギルドへと戻ってきた。
朝の重い足取りとは打って変わり、その表情には達成感が満ちていた。
​「お疲れ様です。ゴブリン討伐の報告ですね」
​受付カウンターで、太郎は証明部位であるゴブリンの耳が入った袋を提出した。
受付嬢は慣れた手つきで中身を確認し、依頼書に完了のスタンプを押す。
​「はい、確かに3体分の討伐を確認しました。こちらが報酬になります」
​チャリン、と革のトレイに置かれたのは、鈍く光る銀貨が5枚。
​「ありがとうございます!」
​太郎はその銀貨を震える手で受け取った。
日本円にして約5000円。
コンビニバイトの日当にも満たない金額かもしれないが、これは太郎が異世界で、自分の力と仲間の協力で稼いだ最初のお金だ。
​「やった……報酬だ……!」
​太郎は銀貨の冷たい感触と重みを噛み締めた。
​「おめでとうございます、リーダー」
​ライザが横から声をかける。しかし、その視線は現実的だった。
​「ただ、収支としてはトントンといったところですね。私たちが泊まっている『銀の月亭』の宿泊費が、三人部屋で一泊・銀貨2枚。食事代や装備のメンテナンス費を考えると、ゴブリン退治だけではギリギリの生活です」
​「うっ……そ、そうだね」
​太郎は現実に引き戻された。
命がけで戦って、報酬は宿代と飯代で消える。冒険者稼業の世知辛さを痛感する。
​「もう! ライザったら、すぐに計算ばっかり!」
​サリーが頬を膨らませて割って入った。
​「金額なんてどうでもいいの! 大事なのは、私たちが無傷で勝って、こうして帰ってこれたこと! パーティー初勝利よ!」
​「ふふ、そうね。サリーの言う通りだわ。ごめんなさい、水を差すようなことを言って」
​ライザも表情を緩め、太郎に向き直った。
​「リーダー、初勝利を祝いましょう」
​「そうだね。今日はパーッと……と言いたいところだけど、予算の範囲内でレストランで祝おう!」
​「賛成ー!」
​三人は再び、昼間訪れた『大樹の梢亭』へと向かった。
夜の店内は、仕事終わりの商人や冒険者たちでさらに賑わっていた。
​「かんぱーい!」
​木製のジョッキをぶつけ合う。
太郎とサリーは果実水、ライザはエール(麦酒)だ。
​テーブルには、温かいシチューと、焼きたてのパン、そしてローストチキンが並んでいる。
銀貨5枚の報酬は今夜の支払いでほとんど消えてしまうだろうが、今の太郎たちには、この温かい食事と笑顔の方が価値があった。
​「ん~っ! 生きて帰ってきて食べるご飯は最高ね!」
​サリーがパンをシチューに浸して頬張る。
​「ええ。それに、今日の勝利は太郎さんの作戦勝ちです。あの画鋲の罠……単純ですが、理にかなった素晴らしい戦術でした」
​ライザがエールの泡を拭いながら称賛する。
​「いやぁ、二人がいてくれたからだよ。僕一人じゃ、罠にかける前にやられてた」
​太郎は照れくさそうに頭をかいた。
​「でも、次はもっとうまくやれる気がする。素材も手に入ったし、100円ショップのアイテムでもっと色々なことができるはずだ」
​「楽しみにしてますよ、ドラえ……じゃなくて、太郎さん!」
​「サリー、その名前は違う世界の猫型ロボットだから」
​「ふふっ」
​三人の笑い声が、賑やかな酒場に溶けていく。
微々たる報酬と、大きな達成感。
佐藤太郎の異世界での冒険は、まだ始まったばかりだが、その前途は(少なくとも食生活においては)明るい予感に満ちていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。 高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。 泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。 私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。 八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。 *文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...