27 / 46
EP 27
しおりを挟む
緊急招集、ルルカ村を救え
とある日の午後。
アルクスの冒険者ギルドは、いつものように依頼を求める者や、昼間から酒を煽る者たちの熱気で溢れかえっていた。
太郎たちもまた、次の依頼をどれにするか掲示板の前で相談していた時だった。
バンッ!!
入口の扉が乱暴に開かれ、顔面蒼白の受付嬢が飛び込んできた。
「た、大変です! ヴォルフ様!!」
彼女の切羽詰まった声に、ギルド内の喧騒が一瞬にして静まり返る。
2階からヴォルフが身を乗り出した。
「どうした! 何事だ!」
「ル、ルルカ村に……『オークの群れ』が襲っているとの情報が入りました! その数、およそ50!!」
「何だと!?」
オーク。ゴブリンよりも遥かに巨躯で、力も強く、知能も高い豚の顔を持つ亜人。
それが50体の群れともなれば、小さな村など数時間で地図から消えてしまう。
「デルン王国軍に救援要請を出せ! 駐屯地は近いはずだ!」
ヴォルフの怒号が飛ぶ。しかし、受付嬢は泣きそうな顔で首を横に振った。
「だ、駄目です! 先ほど連絡しましたが……『国境付近の警備強化のため、現在ルルカ村に割ける兵など無い』と……!」
「なっ……!?」
ヴォルフの顔が朱色に染まった。
「くっ……! 自国の民を見捨てるつもりか!? 税を取り立てておいて、いざという時には切り捨てるだと!?」
ドンッ!!
ヴォルフの拳が手すりを叩きつけ、木屑が飛び散った。
ギルド内に重苦しい空気が流れる。国が動かないのなら、ルルカ村は終わる。誰もがそう思った時――。
「ふざけるなッ!!」
ヴォルフが大声を張り上げた。
「国が動かんのなら、俺たちが動く! ギルドの面目はどうでもいい、目の前で救える命を見殺しにするな!」
ヴォルフは冒険者たちを見下ろし、吼えた。
「よおし! 野郎共! 緊急依頼(エマージェンシー・クエスト)だ! 総員、直ちにルルカ村の救援に行く! この依頼に拒否権は無い! 断る事は許さん!」
ギルド長の檄(げき)が飛ぶ。
一瞬の静寂の後――。
「へへッ、上等だぜ! ルルカ村の食堂の婆さんには、ツケが残ってるからな!」
「おお! オークなんざ、俺の大剣で叩き斬ってやるよ!」
「村の酒を守れぇぇ!」
冒険者たちが一斉に武器を掲げ、雄叫びを上げた。
彼らは荒くれ者だが、義理人情に厚い。自分たちの住む土地が荒らされるのを黙って見ているような連中は、ここにはいなかった。
ギルド全体が怒涛のような熱気に包まれる中、サリーが太郎の袖を引いた。
「どうします? 太郎さん。私たちはまだFランクですし、強制招集の対象外かもしれませんけど……」
太郎はリュックのベルトを握りしめ、少し震える手で――しかし、確かな意志を持って答えた。
「行こう。放っておけないよ」
ルルカ村周辺は、ウルフ狩りでお世話になった場所だ。それに、あそこには自分たちと同じように慎ましく生きる人々がいる。
「……それに、僕たちには『アレ』があるからね」
太郎は背中の矢筒――その奥に一本だけ忍ばせた、黒塗りの矢の感触を確かめた。ヴォルフには禁止されたが、もしもの時は……。
「その通りです、太郎さん。行きましょう」
ライザが剣の鯉口を切り、凛とした表情で頷いた。
「貴方が行くなら、私はどこまでもお供します。それに、オーク程度に後れを取る私ではありません」
「うん。行こう!」
「はい!」
冒険者たちの波に乗り、太郎たちもまた走り出した。
目指すはルルカ村。
太郎にとって初めての、多人数による「防衛戦」が始まろうとしていた。
とある日の午後。
アルクスの冒険者ギルドは、いつものように依頼を求める者や、昼間から酒を煽る者たちの熱気で溢れかえっていた。
太郎たちもまた、次の依頼をどれにするか掲示板の前で相談していた時だった。
バンッ!!
入口の扉が乱暴に開かれ、顔面蒼白の受付嬢が飛び込んできた。
「た、大変です! ヴォルフ様!!」
彼女の切羽詰まった声に、ギルド内の喧騒が一瞬にして静まり返る。
2階からヴォルフが身を乗り出した。
「どうした! 何事だ!」
「ル、ルルカ村に……『オークの群れ』が襲っているとの情報が入りました! その数、およそ50!!」
「何だと!?」
オーク。ゴブリンよりも遥かに巨躯で、力も強く、知能も高い豚の顔を持つ亜人。
それが50体の群れともなれば、小さな村など数時間で地図から消えてしまう。
「デルン王国軍に救援要請を出せ! 駐屯地は近いはずだ!」
ヴォルフの怒号が飛ぶ。しかし、受付嬢は泣きそうな顔で首を横に振った。
「だ、駄目です! 先ほど連絡しましたが……『国境付近の警備強化のため、現在ルルカ村に割ける兵など無い』と……!」
「なっ……!?」
ヴォルフの顔が朱色に染まった。
「くっ……! 自国の民を見捨てるつもりか!? 税を取り立てておいて、いざという時には切り捨てるだと!?」
ドンッ!!
ヴォルフの拳が手すりを叩きつけ、木屑が飛び散った。
ギルド内に重苦しい空気が流れる。国が動かないのなら、ルルカ村は終わる。誰もがそう思った時――。
「ふざけるなッ!!」
ヴォルフが大声を張り上げた。
「国が動かんのなら、俺たちが動く! ギルドの面目はどうでもいい、目の前で救える命を見殺しにするな!」
ヴォルフは冒険者たちを見下ろし、吼えた。
「よおし! 野郎共! 緊急依頼(エマージェンシー・クエスト)だ! 総員、直ちにルルカ村の救援に行く! この依頼に拒否権は無い! 断る事は許さん!」
ギルド長の檄(げき)が飛ぶ。
一瞬の静寂の後――。
「へへッ、上等だぜ! ルルカ村の食堂の婆さんには、ツケが残ってるからな!」
「おお! オークなんざ、俺の大剣で叩き斬ってやるよ!」
「村の酒を守れぇぇ!」
冒険者たちが一斉に武器を掲げ、雄叫びを上げた。
彼らは荒くれ者だが、義理人情に厚い。自分たちの住む土地が荒らされるのを黙って見ているような連中は、ここにはいなかった。
ギルド全体が怒涛のような熱気に包まれる中、サリーが太郎の袖を引いた。
「どうします? 太郎さん。私たちはまだFランクですし、強制招集の対象外かもしれませんけど……」
太郎はリュックのベルトを握りしめ、少し震える手で――しかし、確かな意志を持って答えた。
「行こう。放っておけないよ」
ルルカ村周辺は、ウルフ狩りでお世話になった場所だ。それに、あそこには自分たちと同じように慎ましく生きる人々がいる。
「……それに、僕たちには『アレ』があるからね」
太郎は背中の矢筒――その奥に一本だけ忍ばせた、黒塗りの矢の感触を確かめた。ヴォルフには禁止されたが、もしもの時は……。
「その通りです、太郎さん。行きましょう」
ライザが剣の鯉口を切り、凛とした表情で頷いた。
「貴方が行くなら、私はどこまでもお供します。それに、オーク程度に後れを取る私ではありません」
「うん。行こう!」
「はい!」
冒険者たちの波に乗り、太郎たちもまた走り出した。
目指すはルルカ村。
太郎にとって初めての、多人数による「防衛戦」が始まろうとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる