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EP 28
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禁忌の解禁と、空からの絶望
太郎たちが到着した時、のどかなルルカ村は地獄と化していた。
あちこちで家屋が燃え上がり、黒煙が空を覆っている。
村の広場では、豚の顔をした屈強な亜人――オークの集団と、急行した冒険者たちが激しくぶつかり合っていた。
「オラァッ!!」
「ブヒィィィッ!!」
剣戟(けんげき)の音、怒号、そして悲鳴。
圧倒的な体格差のあるオークの棍棒が、冒険者の盾をへし折り、吹き飛ばす。
「……酷い」
戦場の惨状を目の当たりにし、サリーが口元を押さえた。
「血の匂いばっかり……。気分が悪くなりそう」
「しっかりしろ、サリー!」
太郎は戦場の空気に飲まれそうなサリーの肩を掴んだ。
今、自分たちが動かなければ、この村は全滅する。太郎は瞬時に判断を下した。
「サリーは後方で、怪我をした村人や冒険者達の救護に回ってくれ! 回復魔法が必要だ!」
「は、はい!」
「ライザは僕と一緒だ。前線を支える!」
「分かりました! リーダー、ご武運を!」
サリーは杖を握りしめ、負傷者が運び込まれている集会所へと駆けていった。
「ハァッ!!」
ライザが疾風のように戦場を駆ける。
彼女の長剣がオークの太い腕を斬り裂き、返す刀で喉を突く。
しかし、オークの皮膚は分厚い脂肪に覆われており、ゴブリンのように一撃で倒すのは容易ではない。
「硬いですね……! それに、数が多い!」
倒しても倒しても、燃える家屋の向こうから次々と増援が現れる。
冒険者たちも善戦しているが、徐々に押し込まれ始めていた。
「ぐあぁっ!」
近くで若い冒険者がオークに殴り飛ばされた。防衛線が崩れかけている。
「くそっ、このままじゃ押し潰されるぞ……」
太郎は弓を引き、援護射撃を行うが、通常の矢ではオークの筋肉に弾かれてしまう。
画鋲も、分厚い皮膚を持つ彼らには決定打にならない。
(どうする? 何か手はないか?)
その時、一際大きなオークの隊長格が、十数体の部下を引き連れて密集し、本陣へ突撃しようとしているのが見えた。あれが通れば、救護所のサリーたちも危ない。
(……仕方ない)
太郎の脳裏に、ヴォルフの『使うなとは言わん。どうしてもと言う時だけだ』という言葉が過ぎった。
今が、その「どうしてもと言う時」だ。
自分の安全や、国のパワーバランスなど知ったことか。目の前の仲間が死ぬよりマシだ。
太郎は矢筒の底から、漆黒の矢を取り出した。
安全ピンを引き抜く。
「ライザ、伏せろッ!!」
太郎は叫ぶと同時に、オークの密集地帯の中心に向けて、禁忌の矢を放った。
シュッ!!
矢が吸い込まれるようにオークの群れの中へ消える。
一瞬の静寂。
カッ!
ドゴォォォォォォォォンッッ!!!
戦場の騒音を全て塗りつぶすような爆音。
巨大な火柱が村の中央に立ち昇り、衝撃波が周囲の建物の窓ガラスを粉砕した。
「な、何だ!? あれは?」
「魔法使いの爆裂魔法か!?」
土煙が晴れると、そこには巨大なクレーターだけが残されていた。
密集していた十数体のオークは、跡形もなく消滅していた。
冒険者たちは呆気にとられたが、すぐに好機と悟った。
「良く分からんが……今だ! 行けぇ! 奴らの指揮系統は崩壊したぞ!」
「オーク共をやっつけろ!!」
形勢は逆転した。
リーダーと主力を一瞬で失ったオークたちは恐慌状態に陥り、勢いづいた冒険者たちによって次々と討ち取られていった。
数十分後。
最後のオークが倒れ、村に静寂が戻った。
「はぁ、はぁ……終わった、か?」
太郎は弓を下ろし、その場に膝をついた。
凄まじい威力だった。だが、罪悪感と安堵感が入り混じり、手足が震える。
「太郎さん、ご無事ですか?」
返り血で赤く染まったライザが駆け寄ってくる。
「ああ、なんとかね。ライザこそ……」
勝利の余韻に浸ろうとした、その時だった。
ピィィィィィィ――ッ!!
頭上から、鼓膜をつんざくような鋭い鳴き声が響き渡った。
風圧が砂埃を巻き上げる。
「何だ!?」
全員が空を見上げる。
夕焼けに染まる空を、巨大な翼を持つ猛獣が旋回していた。
鷲の上半身に、ライオンの下半身。
空の王者、グリフィンだ。
「嘘だろ……?」
「グリフィンだと!? なんでこんな所に!」
「血の匂いだ……!」
ライザが叫ぶ。
戦場に溢れた大量の血の匂いに釣られて、森の奥から飛来したのだ。
グリフィンは鋭い眼光で獲物を物色すると、翼を畳み、急降下を開始した。
「畜生! まだ終わってねぇのかよ!」
オーク戦で消耗しきった冒険者たちに、空を飛ぶSランク級の魔物を相手にする力は残されていなかった。
本当の地獄は、ここからだった。
太郎たちが到着した時、のどかなルルカ村は地獄と化していた。
あちこちで家屋が燃え上がり、黒煙が空を覆っている。
村の広場では、豚の顔をした屈強な亜人――オークの集団と、急行した冒険者たちが激しくぶつかり合っていた。
「オラァッ!!」
「ブヒィィィッ!!」
剣戟(けんげき)の音、怒号、そして悲鳴。
圧倒的な体格差のあるオークの棍棒が、冒険者の盾をへし折り、吹き飛ばす。
「……酷い」
戦場の惨状を目の当たりにし、サリーが口元を押さえた。
「血の匂いばっかり……。気分が悪くなりそう」
「しっかりしろ、サリー!」
太郎は戦場の空気に飲まれそうなサリーの肩を掴んだ。
今、自分たちが動かなければ、この村は全滅する。太郎は瞬時に判断を下した。
「サリーは後方で、怪我をした村人や冒険者達の救護に回ってくれ! 回復魔法が必要だ!」
「は、はい!」
「ライザは僕と一緒だ。前線を支える!」
「分かりました! リーダー、ご武運を!」
サリーは杖を握りしめ、負傷者が運び込まれている集会所へと駆けていった。
「ハァッ!!」
ライザが疾風のように戦場を駆ける。
彼女の長剣がオークの太い腕を斬り裂き、返す刀で喉を突く。
しかし、オークの皮膚は分厚い脂肪に覆われており、ゴブリンのように一撃で倒すのは容易ではない。
「硬いですね……! それに、数が多い!」
倒しても倒しても、燃える家屋の向こうから次々と増援が現れる。
冒険者たちも善戦しているが、徐々に押し込まれ始めていた。
「ぐあぁっ!」
近くで若い冒険者がオークに殴り飛ばされた。防衛線が崩れかけている。
「くそっ、このままじゃ押し潰されるぞ……」
太郎は弓を引き、援護射撃を行うが、通常の矢ではオークの筋肉に弾かれてしまう。
画鋲も、分厚い皮膚を持つ彼らには決定打にならない。
(どうする? 何か手はないか?)
その時、一際大きなオークの隊長格が、十数体の部下を引き連れて密集し、本陣へ突撃しようとしているのが見えた。あれが通れば、救護所のサリーたちも危ない。
(……仕方ない)
太郎の脳裏に、ヴォルフの『使うなとは言わん。どうしてもと言う時だけだ』という言葉が過ぎった。
今が、その「どうしてもと言う時」だ。
自分の安全や、国のパワーバランスなど知ったことか。目の前の仲間が死ぬよりマシだ。
太郎は矢筒の底から、漆黒の矢を取り出した。
安全ピンを引き抜く。
「ライザ、伏せろッ!!」
太郎は叫ぶと同時に、オークの密集地帯の中心に向けて、禁忌の矢を放った。
シュッ!!
矢が吸い込まれるようにオークの群れの中へ消える。
一瞬の静寂。
カッ!
ドゴォォォォォォォォンッッ!!!
戦場の騒音を全て塗りつぶすような爆音。
巨大な火柱が村の中央に立ち昇り、衝撃波が周囲の建物の窓ガラスを粉砕した。
「な、何だ!? あれは?」
「魔法使いの爆裂魔法か!?」
土煙が晴れると、そこには巨大なクレーターだけが残されていた。
密集していた十数体のオークは、跡形もなく消滅していた。
冒険者たちは呆気にとられたが、すぐに好機と悟った。
「良く分からんが……今だ! 行けぇ! 奴らの指揮系統は崩壊したぞ!」
「オーク共をやっつけろ!!」
形勢は逆転した。
リーダーと主力を一瞬で失ったオークたちは恐慌状態に陥り、勢いづいた冒険者たちによって次々と討ち取られていった。
数十分後。
最後のオークが倒れ、村に静寂が戻った。
「はぁ、はぁ……終わった、か?」
太郎は弓を下ろし、その場に膝をついた。
凄まじい威力だった。だが、罪悪感と安堵感が入り混じり、手足が震える。
「太郎さん、ご無事ですか?」
返り血で赤く染まったライザが駆け寄ってくる。
「ああ、なんとかね。ライザこそ……」
勝利の余韻に浸ろうとした、その時だった。
ピィィィィィィ――ッ!!
頭上から、鼓膜をつんざくような鋭い鳴き声が響き渡った。
風圧が砂埃を巻き上げる。
「何だ!?」
全員が空を見上げる。
夕焼けに染まる空を、巨大な翼を持つ猛獣が旋回していた。
鷲の上半身に、ライオンの下半身。
空の王者、グリフィンだ。
「嘘だろ……?」
「グリフィンだと!? なんでこんな所に!」
「血の匂いだ……!」
ライザが叫ぶ。
戦場に溢れた大量の血の匂いに釣られて、森の奥から飛来したのだ。
グリフィンは鋭い眼光で獲物を物色すると、翼を畳み、急降下を開始した。
「畜生! まだ終わってねぇのかよ!」
オーク戦で消耗しきった冒険者たちに、空を飛ぶSランク級の魔物を相手にする力は残されていなかった。
本当の地獄は、ここからだった。
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