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EP 38
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真の元凶、ドラゴンの影
ソウルワイバーンを討ち取り、アルクスに平和を取り戻した太郎たちは、街の英雄として称えられた。
歩けば「よっ! 英雄!」「カレーの兄ちゃん!」と声がかかり、店に入ればサービス合戦。
しかし、冒険者ギルドの奥、ギルドマスターの執務室には重苦しい空気が漂っていた。
「……実はな。ワイバーンの群れがアルクスに来たのは、単なる気まぐれではない」
ヴォルフは腕を組み、深刻な面持ちで語り出した。
「奴らの住処は、ここから西にある険しい山脈だ。そこを追われたのだよ」
「追われた? あのワイバーンの群れをですか?」
太郎が聞き返す。あの数を追い払う存在など、想像もつかない。
「そうだ。奴らの巣に、『ドラゴン』が居座ったからな」
「ド、ドラゴン……!?」
太郎、サリー、ライザの三人が同時に息を呑んだ。
ファンタジー世界の頂点。最強の怪物。
ワイバーンが「飛竜」なら、ドラゴンは「古竜」や「真竜」と呼ばれる別格の存在だ。知能、魔力、肉体、全てにおいて生物の枠を超越している。
「ドラゴンが住処を奪い、追い出されたワイバーンたちがパニックになって、この街の方角へ逃げてきた……それがスタンピードの正体だ」
ヴォルフはデスクの上の地図――西の山脈を指で叩いた。
「放っておけば、ドラゴンはそこを拠点に活動範囲を広げるだろう。いずれはこのアルクスも縄張りに入り、灰にされる」
「そ、そんな……」
「本来なら、国に報告して正規軍と王宮魔導師団を動員する案件だ。だが、今のデルン王国に即応できる戦力はない。準備に数ヶ月はかかるだろう。その間に街は終わる」
ヴォルフは太郎たちを真っ直ぐに見つめた。
「ギルドで討伐隊を編成したい所だが……他の冒険者達ではドラゴン退治なんて、到底無理だ。餌をやりに行くようなものだからな。そこで……」
「私達に、ドラゴン退治をしろと」
ライザが静かに、しかし力強くヴォルフの言葉を引き継いだ。
「そうだ。ソウルワイバーンを葬った『チーム・タロウ』以外に、この依頼を頼める者はいない」
「…………」
重い沈黙が流れる。
相手は伝説上の怪物。失敗すれば死、成功しても五体満足で帰れる保証はない。
「どうしますか? 太郎さん」
サリーが不安げに太郎の顔を覗き込む。
ピカリも心配そうに太郎の肩に止まっている。
太郎は膝の上で拳を握りしめた。
震えている。当然だ。怖い。逃げ出したい。
だが、ここで断ればどうなる?
あの美味しいカレーを食べて喜んでくれた人たちが、食堂のおばちゃんが、街のみんなが焼かれてしまう。
「……正直言って、怖いです。足が震えるくらい」
太郎は素直な心情を吐露した。
そして、顔を上げてニッと笑った。
「けど……僕達が倒さないと、『もっと怖い人』が居るから」
太郎はチラリと、横にいるライザとサリー、そして窓の外の街を見た。
「もし僕がここで逃げ出して、みんなが傷ついたり、君たちが悲しむ顔を見ることになったら……そっちの方が、ドラゴンよりよっぽど怖いよ」
それに、もし断ったら「折角のカレーのレシピが途絶える」とバゴール王が激怒するかもしれないし、食堂のおばちゃんに「根性なし!」と怒鳴られるかもしれない。
大切な日常を守れない自分に対する恐怖の方が、今の太郎には勝っていた。
「フフっ……」
ライザが嬉しそうに微笑んだ。
「成長しましたね、太郎さん。貴方はもう、立派なリーダーです」
「……へへっ。それに、僕には最強の仲間がいるしね」
太郎は立ち上がり、ヴォルフに向き直った。
「ヴォルフさん。ドラゴン討伐、引き受けます!」
「うむ! よく言った!」
ヴォルフは満足げに頷き、椅子から立ち上がった。
「頼んだぞ、A級冒険者佐藤太郎! 吉報を待っている!」
賽(さい)は投げられた。
100円ショップのアイテムを駆使する異色の冒険者は、ついに最強の種族へと挑む。
それは、この世界での「伝説」を決定づける最後の戦いの始まりだった。
ソウルワイバーンを討ち取り、アルクスに平和を取り戻した太郎たちは、街の英雄として称えられた。
歩けば「よっ! 英雄!」「カレーの兄ちゃん!」と声がかかり、店に入ればサービス合戦。
しかし、冒険者ギルドの奥、ギルドマスターの執務室には重苦しい空気が漂っていた。
「……実はな。ワイバーンの群れがアルクスに来たのは、単なる気まぐれではない」
ヴォルフは腕を組み、深刻な面持ちで語り出した。
「奴らの住処は、ここから西にある険しい山脈だ。そこを追われたのだよ」
「追われた? あのワイバーンの群れをですか?」
太郎が聞き返す。あの数を追い払う存在など、想像もつかない。
「そうだ。奴らの巣に、『ドラゴン』が居座ったからな」
「ド、ドラゴン……!?」
太郎、サリー、ライザの三人が同時に息を呑んだ。
ファンタジー世界の頂点。最強の怪物。
ワイバーンが「飛竜」なら、ドラゴンは「古竜」や「真竜」と呼ばれる別格の存在だ。知能、魔力、肉体、全てにおいて生物の枠を超越している。
「ドラゴンが住処を奪い、追い出されたワイバーンたちがパニックになって、この街の方角へ逃げてきた……それがスタンピードの正体だ」
ヴォルフはデスクの上の地図――西の山脈を指で叩いた。
「放っておけば、ドラゴンはそこを拠点に活動範囲を広げるだろう。いずれはこのアルクスも縄張りに入り、灰にされる」
「そ、そんな……」
「本来なら、国に報告して正規軍と王宮魔導師団を動員する案件だ。だが、今のデルン王国に即応できる戦力はない。準備に数ヶ月はかかるだろう。その間に街は終わる」
ヴォルフは太郎たちを真っ直ぐに見つめた。
「ギルドで討伐隊を編成したい所だが……他の冒険者達ではドラゴン退治なんて、到底無理だ。餌をやりに行くようなものだからな。そこで……」
「私達に、ドラゴン退治をしろと」
ライザが静かに、しかし力強くヴォルフの言葉を引き継いだ。
「そうだ。ソウルワイバーンを葬った『チーム・タロウ』以外に、この依頼を頼める者はいない」
「…………」
重い沈黙が流れる。
相手は伝説上の怪物。失敗すれば死、成功しても五体満足で帰れる保証はない。
「どうしますか? 太郎さん」
サリーが不安げに太郎の顔を覗き込む。
ピカリも心配そうに太郎の肩に止まっている。
太郎は膝の上で拳を握りしめた。
震えている。当然だ。怖い。逃げ出したい。
だが、ここで断ればどうなる?
あの美味しいカレーを食べて喜んでくれた人たちが、食堂のおばちゃんが、街のみんなが焼かれてしまう。
「……正直言って、怖いです。足が震えるくらい」
太郎は素直な心情を吐露した。
そして、顔を上げてニッと笑った。
「けど……僕達が倒さないと、『もっと怖い人』が居るから」
太郎はチラリと、横にいるライザとサリー、そして窓の外の街を見た。
「もし僕がここで逃げ出して、みんなが傷ついたり、君たちが悲しむ顔を見ることになったら……そっちの方が、ドラゴンよりよっぽど怖いよ」
それに、もし断ったら「折角のカレーのレシピが途絶える」とバゴール王が激怒するかもしれないし、食堂のおばちゃんに「根性なし!」と怒鳴られるかもしれない。
大切な日常を守れない自分に対する恐怖の方が、今の太郎には勝っていた。
「フフっ……」
ライザが嬉しそうに微笑んだ。
「成長しましたね、太郎さん。貴方はもう、立派なリーダーです」
「……へへっ。それに、僕には最強の仲間がいるしね」
太郎は立ち上がり、ヴォルフに向き直った。
「ヴォルフさん。ドラゴン討伐、引き受けます!」
「うむ! よく言った!」
ヴォルフは満足げに頷き、椅子から立ち上がった。
「頼んだぞ、A級冒険者佐藤太郎! 吉報を待っている!」
賽(さい)は投げられた。
100円ショップのアイテムを駆使する異色の冒険者は、ついに最強の種族へと挑む。
それは、この世界での「伝説」を決定づける最後の戦いの始まりだった。
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