スキル『100円ショップ』で異世界暮らし。素材回収でポイント貯めて、美味しいご飯と便利グッズで美少女たちとスローライフを目指します

月神世一

文字の大きさ
37 / 46

EP 37

しおりを挟む
凱旋の牛鍋、禁断の生卵
ソウルワイバーンを討伐し、アルクスに平和を取り戻した太郎たちは、英雄として冒険者ギルドに凱旋した。
ギルド内は、生還した冒険者たちの安堵と、勝利の祝杯を挙げる熱気に包まれていた。
「良くやった! お前達!」
ヴォルフが満面の笑みで出迎える。
「あの絶望的な状況を覆すとはな。やはりお前達は、この街の希望だ!」
「ありがとうございます、ヴォルフさん」
太郎は照れくさそうに頭をかいた。
緊張の糸が切れたのか、ドッと疲れが押し寄せてくる。
「あぁ~、疲れたぁ……。魔力すっからかんよ」
「私もです……。お腹が空いて、力が入りません」
サリーがテーブルに突っ伏し、ライザもお腹を押さえて苦笑いする。
ピカリも太郎の頭の上で『おなかぺこぺこー!』と抗議している。
「そっか。みんな疲れてるし、お腹も限界だよね」
太郎は仲間たちの顔を見て、ポンと手を叩いた。
「よっし! 僕が料理を作っちゃおっかな! 今日は特大のご馳走だ!」
「えぇ!? 何々! 何作るの!?」
「楽しみだわ。太郎さんの料理は外れがありませんから」
「任せてよ。肉だ、肉!」
太郎は再びギルドの厨房を借りた。
今回はとっておきのメニューだ。
『食品』カテゴリから、奮発して高ポイントの食材を取り出す。
【 特選黒毛和牛(すき焼き用):3000P 】
【 すき焼きのたれ(老舗の味):200P 】
【 新鮮こだわり卵(10個入り):300P 】
【 白菜・長ネギ・焼き豆腐・しらたきセット:400P 】
「まずは牛脂を溶かして……」
熱した鉄鍋に牛脂を引くと、香ばしい煙が立つ。
そこに、霜降りの牛肉を並べ、ジューッという音と共に焼き目をつける。
そして、醤油と砂糖、みりんが絶妙に調合された「割り下」を流し込む。
ジュワァァァァァ……!!
砂糖の焦げる甘い香りと、醤油の芳醇な香りが混ざり合い、厨房からホールへと爆発的に広がった。
これは、日本人のDNAを揺さぶる「すき焼き」の香りだ。
「なんだそれは……この旨そうな匂いは……酒が進みそうな香りだぞ!」
執務室から降りてきたヴォルフが、鼻をヒクヒクさせて厨房を覗き込んだ。
「へっへっ、ヴォルフさんも一緒にどうですか? 『スキヤキ』っていう鍋料理ですよ」
太郎はカセットコンロごと鍋をテーブルに運んだ。
グツグツと煮える鍋の中では、甘辛いタレを吸った牛肉や野菜が踊っている。
「では、頂きます!」
「い、いただきます!」
まずはそのまま、肉を食べる。
「う、美味いいぃぃ!! 何これぇ!?」
サリーが目を丸くする。
「お砂糖とお醤油の甘辛い味が、柔らかいお肉に染み込んで……噛むたびに肉汁が溢れます!」
「本当に美味しい……! 普通のシチューとは全く違う、濃厚な味付けですわ!」
ライザも熱々の肉を頬張り、恍惚の表情を浮かべる。
「くぅぅっ! この濃い味付けがエールに合う! 堪らんな!」
ヴォルフもジョッキ片手に箸(のようなフォーク)が止まらない。
「あ、そうそう。これがないと始まらないんだった」
太郎は一度食べるのを止め、手元の小鉢に殻を割った「生卵」を入れた。
「生卵?」
「うん。こうやって溶いて……」
太郎は熱々の牛肉を、溶き卵にたっぷりとくぐらせ、口へと運んだ。
「う~ん、美味しい! やっぱりこれだよ!」
濃厚なタレの味を卵がマイルドに包み込み、肉の熱さを程よく冷ましてくれる。これぞ完全食だ。
しかし、異世界人たちの反応は違った。
「そ、そんな!? 生卵を食べるなんて!?」
サリーが悲鳴を上げた。
衛生管理が発達していないこの世界では、卵は完全に火を通して食べるのが常識だ。生で食べるなど、腹を壊す行為に等しい。
「生臭くないんですか? それに、お腹を壊したり……」
ライザも少し顔をしかめている。
「大丈夫! これは僕のスキルで出した『新鮮で安全な卵』だから。絶対に当たらないよ」
太郎は自信満々に言った。
「良いから、食べて見てよ。味が劇的に変わるから!」
「うぅ……太郎さんがそこまで仰るなら……」
「信じるわよ、リーダー!」
二人は意を決して、自分の小鉢に卵を割り入れ、恐る恐る牛肉をくぐらせた。
黄金色の卵液を纏った肉を、口に入れる。
トゥルン。
「…………!!」
二人の表情が一変した。
「美味しい! 本当だ! 全然生臭くない!」
サリーが声を弾ませる。
「タレの味が濃いから、卵と混ざると丁度いい濃さになるのね! それにトロトロしてて喉越しが良いわ!」
「美味とは、この事ですね……」
ライザも感嘆の溜息を漏らす。
「卵のコクが加わって、味がより一層深くなりました。熱々のお肉も冷めて食べやすいですし、これは計算され尽くした食べ方ですわ」
「だろ~?」
太郎はニヤリと笑った。
ヴォルフも豪快に卵を絡めて食べ始めた。
「ガハハハ! こりゃいい! 精力がつきそうだ!」
『ピカリも! ピカリもたべるー!』
「はいはい、ピカリには白菜とお豆腐ね」
鍋を囲んで、同じ釜の飯を食う。
死闘を乗り越えた仲間たちとの宴は、甘辛く、そして温かい味がした。
こうして、アルクスにまた一つ、新たな食文化が刻まれたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。 高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。 泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。 私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。 八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。 *文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...