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第四章 新たな秩序
EP 38
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破壊の獣、建国の王となる
【ロムレス大陸・西部 大砂漠地帯・オアシス】
月明かりだけが照らす、静寂のオアシス。
昼間の灼熱が嘘のように、夜の砂漠は凍えるほどの冷気に包まれていた。
「……すまない」
レオは膝を抱え、身を寄せ合って眠る二人の少女を見つめていた。
聖女マーシャと、騎士ルルア。
本来なら温かいベッドで眠るべき彼女たちを、こんな過酷な逃避行に巻き込んでしまった。
「俺さえいなければ……君たちは普通の幸せを掴めたはずなのに」
レオの手を見る。そこには見えない血がこびりついている。
帝国を滅ぼし、追っ手を氷像に変えた手。
「巻き込んでしまって……すまない……」
謝罪は砂漠の風に吸い込まれ、誰の耳にも届くことはなかった。
【翌朝】
チチチチ……。
水辺に集まる鳥のさえずりと、眩しい朝日でレオは目を覚ました。
「う……」
身体が重い。精神的な疲労は、最強の肉体を持ってしても完全には癒えないようだ。
ふと鼻をくすぐる香りに顔を上げる。
「起きた? レオ」
「おはよう、レオ! よく眠れた?」
そこには、既に身支度を整えたマーシャとルルアがいた。
焚き火のそばには、質素ながらも丁寧に用意された朝食が並んでいる。
「顔を洗ってきて。ご飯にしましょう」
レオは言われるがままにオアシスの水で顔を洗った。冷たい水が、悪夢の残滓を洗い流してくれる。
三人は車座になって朝食を摂った。
メニューは、保存食の硬い干し肉と黒パン、そしてオアシス周辺で採取した木の実と野草のサラダ。
王都の食事とは比べるべくもないが、マーシャが少しでも彩りを添えようと工夫してくれたのが分かった。
「……いただきます」
黒パンを齧る。硬くてパサパサしているが、噛み締めると微かな甘みがある。
しかし、レオの喉を通る時、それは砂のように感じられた。
「これから……どうすれば良いんだ」
レオはぽつりと漏らした。
食事が終われば、また移動だ。あてのない旅。終わりのない逃走。
「俺達の安全な場所は無いのか……。どこへ行っても追っ手が来る。そのたびに俺は力を使い、誰かを殺す」
レオは拳を握りしめた。
「殺し合ってばかりは……もう嫌だ。俺はただ、君たちと静かに暮らしたいだけなのに」
沈黙が落ちる。
しかし、それを破ったのは、聖女の凛とした声だった。
「安全な場所が無いなら、作れば良いのよ」
レオが顔を上げる。
「……え?」
「安全な場所を作る? ……国を?」
マーシャは微笑んだ。まるで、今夜の夕食のメニューを提案するかのように軽く、しかし瞳には強い意志を宿して。
「そうよ。この世界中どこを探しても、貴方を受け入れる場所がないというなら……貴方が王となって、自分たちの居場所を作ってしまえばいい」
あまりの発想の飛躍に、レオは言葉を失った。
だが、横にいたルルアが目を輝かせて飛びついた。
「素敵! 国を作るのね! 名案だよマーシャ!」
ルルアは身を乗り出し、レオの腕を掴んだ。
「レオの変身能力が有れば、国なんてあっという間に作れるわ! ほら、土木工事が得意な魔獣とか、城壁を作るゴーレムとかに変身すればいいじゃない!」
「お、俺が……国を……?」
破壊することしかしてこなかった自分が、創造する?
「そうよ」
マーシャが優しく頷く。
「貴方は『魔王』じゃない。ただ力が強すぎて、少し不器用なだけの優しい人よ。……そんなレオが作る国なら、きっと誰もが安心して暮らせる、素敵な国になるわ」
「そうなれば、私はお姫様? 建国の英雄にして初代プリンセス! キャ~♡」
ルルアが頬を赤らめて身悶えする。
「あら! ルルアだけズルいわ! 私も苦楽を共にしたお姫様よ?」
「えー! マーシャは『王妃様』って感じじゃない?」
「あら、それならルルアは『近衛隊長』ね」
はしゃぐ二人を見て、レオの胸の中にあった冷たく固い塊が、少しずつ溶けていくのを感じた。
(国を作る……か)
追われるだけの人生。守るために殺すだけの日々。
だが、「創る」という目的があれば、この忌まわしい力も、誰かのために使えるかもしれない。
(皆が安心して暮らせる国。追われる者も、弱き者も、笑って食卓を囲める場所)
「……やってみるか」
レオは黒パンの最後の一欠片を飲み込み、立ち上がった。
その表情からは、昨晩までの悲壮感が消え、王としての静かな決意が宿っていた。
「俺の力は、破壊のためじゃない。君たちの笑顔を守るために使う」
レオは空を見上げた。広大な青空が広がっている。
「行こう。まずは土地探しだ。……俺たちの『王国』を創るために」
「はい! レオ様!」
「ふふ、期待していますよ、王様」
砂漠の真ん中で、三人だけの小さな、しかし偉大なる一歩が踏み出された。
後に「聖獣王国レオンハート」と呼ばれることになる大国の歴史は、このオアシスの朝食から始まったのである。
【ロムレス大陸・西部 大砂漠地帯・オアシス】
月明かりだけが照らす、静寂のオアシス。
昼間の灼熱が嘘のように、夜の砂漠は凍えるほどの冷気に包まれていた。
「……すまない」
レオは膝を抱え、身を寄せ合って眠る二人の少女を見つめていた。
聖女マーシャと、騎士ルルア。
本来なら温かいベッドで眠るべき彼女たちを、こんな過酷な逃避行に巻き込んでしまった。
「俺さえいなければ……君たちは普通の幸せを掴めたはずなのに」
レオの手を見る。そこには見えない血がこびりついている。
帝国を滅ぼし、追っ手を氷像に変えた手。
「巻き込んでしまって……すまない……」
謝罪は砂漠の風に吸い込まれ、誰の耳にも届くことはなかった。
【翌朝】
チチチチ……。
水辺に集まる鳥のさえずりと、眩しい朝日でレオは目を覚ました。
「う……」
身体が重い。精神的な疲労は、最強の肉体を持ってしても完全には癒えないようだ。
ふと鼻をくすぐる香りに顔を上げる。
「起きた? レオ」
「おはよう、レオ! よく眠れた?」
そこには、既に身支度を整えたマーシャとルルアがいた。
焚き火のそばには、質素ながらも丁寧に用意された朝食が並んでいる。
「顔を洗ってきて。ご飯にしましょう」
レオは言われるがままにオアシスの水で顔を洗った。冷たい水が、悪夢の残滓を洗い流してくれる。
三人は車座になって朝食を摂った。
メニューは、保存食の硬い干し肉と黒パン、そしてオアシス周辺で採取した木の実と野草のサラダ。
王都の食事とは比べるべくもないが、マーシャが少しでも彩りを添えようと工夫してくれたのが分かった。
「……いただきます」
黒パンを齧る。硬くてパサパサしているが、噛み締めると微かな甘みがある。
しかし、レオの喉を通る時、それは砂のように感じられた。
「これから……どうすれば良いんだ」
レオはぽつりと漏らした。
食事が終われば、また移動だ。あてのない旅。終わりのない逃走。
「俺達の安全な場所は無いのか……。どこへ行っても追っ手が来る。そのたびに俺は力を使い、誰かを殺す」
レオは拳を握りしめた。
「殺し合ってばかりは……もう嫌だ。俺はただ、君たちと静かに暮らしたいだけなのに」
沈黙が落ちる。
しかし、それを破ったのは、聖女の凛とした声だった。
「安全な場所が無いなら、作れば良いのよ」
レオが顔を上げる。
「……え?」
「安全な場所を作る? ……国を?」
マーシャは微笑んだ。まるで、今夜の夕食のメニューを提案するかのように軽く、しかし瞳には強い意志を宿して。
「そうよ。この世界中どこを探しても、貴方を受け入れる場所がないというなら……貴方が王となって、自分たちの居場所を作ってしまえばいい」
あまりの発想の飛躍に、レオは言葉を失った。
だが、横にいたルルアが目を輝かせて飛びついた。
「素敵! 国を作るのね! 名案だよマーシャ!」
ルルアは身を乗り出し、レオの腕を掴んだ。
「レオの変身能力が有れば、国なんてあっという間に作れるわ! ほら、土木工事が得意な魔獣とか、城壁を作るゴーレムとかに変身すればいいじゃない!」
「お、俺が……国を……?」
破壊することしかしてこなかった自分が、創造する?
「そうよ」
マーシャが優しく頷く。
「貴方は『魔王』じゃない。ただ力が強すぎて、少し不器用なだけの優しい人よ。……そんなレオが作る国なら、きっと誰もが安心して暮らせる、素敵な国になるわ」
「そうなれば、私はお姫様? 建国の英雄にして初代プリンセス! キャ~♡」
ルルアが頬を赤らめて身悶えする。
「あら! ルルアだけズルいわ! 私も苦楽を共にしたお姫様よ?」
「えー! マーシャは『王妃様』って感じじゃない?」
「あら、それならルルアは『近衛隊長』ね」
はしゃぐ二人を見て、レオの胸の中にあった冷たく固い塊が、少しずつ溶けていくのを感じた。
(国を作る……か)
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だが、「創る」という目的があれば、この忌まわしい力も、誰かのために使えるかもしれない。
(皆が安心して暮らせる国。追われる者も、弱き者も、笑って食卓を囲める場所)
「……やってみるか」
レオは黒パンの最後の一欠片を飲み込み、立ち上がった。
その表情からは、昨晩までの悲壮感が消え、王としての静かな決意が宿っていた。
「俺の力は、破壊のためじゃない。君たちの笑顔を守るために使う」
レオは空を見上げた。広大な青空が広がっている。
「行こう。まずは土地探しだ。……俺たちの『王国』を創るために」
「はい! レオ様!」
「ふふ、期待していますよ、王様」
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