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第五章 月下の宴
EP 18
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先輩リーザの「貧乏サバイバル講座」
【太郎国・外縁部 炊き出し会場(公園)】
「いいこと? ここでは『プライド』なんて何の栄養にもならないわ。必要なのは『感謝』と『どんぶり』だけよ」
リーザはマイどんぶり(100均のプラスチック製)を片手に、イグニスに説教した。
「分かったら並ぶ! 背筋を伸ばして! 列を乱さない!」
「ぬぐぐ……! 竜の俺が……人間どもの施しを受ける列に並ぶなど……!」
イグニスは顔を真っ赤にして震えていた。
彼の目の前には、ボロボロの服を着た人々が長い行列を作っている。その先には、湯気を上げる巨大な寸胴鍋と、割烹着を着たおばちゃんたちがいた。
週に一度のボランティア団体による**「炊き出し」**の時間だ。
「つべこべ言わない! 食べたくないなら私が二杯分貰うわよ?」
「た、食べる! 食わせてくれ!」
イグニスの腹が抗議の声を上げる。背に腹は代えられない。
彼は渋々、リーザから渡された少し欠けたお椀を持って列に加わった。
十分後。ついにイグニスの番が回ってきた。
「はい、お待たせ。大盛りにしとくかい? 若いんだから沢山お食べ」
給仕係のふくよかなおばちゃんが、優しく微笑みかけた。
イグニスは一瞬、言葉に詰まった。
里では「族長の息子」として腫れ物のように扱われてきた。こんな風に、ただの若者として優しく声をかけられたことはなかったからだ。
「あ、あぁ……頼む」
おばちゃんは寸胴鍋の底から、具材をたっぷりと掬い上げてくれた。
「はい、熱いから気をつけてね」
渡されたお椀からは、味噌と豚肉の濃厚な香りが立ち上っている。
『特製・具だくさん豚汁』だ。
「……これが、人間の飯……」
イグニスとリーザは、公園の隅のベンチ(確保済み)に座った。
「いただきまーす! ん~っ! 今日は大根が染みてるわ!」
リーザは慣れた手付きで豚汁を啜る。
イグニスは恐る恐る、お椀に口をつけた。
まだ熱い汁が、乾いた喉と空っぽの胃袋に流れ込む。
「……ッ!!」
衝撃が走った。
里の食事は、岩塩で焼いただけの肉や、硬いパンが主だった。
だがこれは違う。
複数の野菜の甘み、肉の脂、そして味噌という未知の調味料が複雑に絡み合い、五臓六腑に染み渡っていく。
「う……うめぇ……!」
イグニスは夢中で具材をかき込んだ。
柔らかく煮込まれた大根、ホクホクのじゃがいも、噛むほどに味が出る豚肉。
(なんだこれは……。これが「施し」の味だというのか?)
悔しいはずなのに。屈辱のはずなのに。
おばちゃんの笑顔と、温かいスープの熱が、冷え切った心を解かしていく。
「ズズッ……ズズズッ……」
気がつけば、イグニスの目から涙がこぼれ落ちていた。
豚汁の湯気のせいではない。
「……おいおい、泣くほど美味いか?」
リーザがニヤニヤしながら覗き込んでくる。
「う、うるせぇ! 目にゴミが入っただけだ!」
イグニスは袖で乱暴に目を拭った。
「……だが、悪くない。この国の人間は、意外と……悪くないな」
「素直じゃないわねぇ、後輩」
リーザは自分のどんぶりに入っていた「うずらの卵」を一つ、イグニスのお椀に入れてやった。
「ほら、おまけ。明日も生き抜くわよ」
「……あぁ」
イグニスは卵を噛み締め、夜空を見上げた。
マイナンバーカードは無い。家も無い。
だが、腹は満たされた。
最強の竜人は、太郎国での「生きる喜び」を、一杯の豚汁から学んだのだった。
「よし! 食ったら次はデザートよ!」
「まだ食うのか!?」
「当たり前でしょ! 有名なパン屋さんが、廃棄寸前の『パンの耳』をくれる時間よ! 急ぐわよ!」
イグニスは立ち上がった。
先程までのふらついた足取りではない。大地を踏みしめる力強い足取りで、彼は先輩の背中を追った。
【太郎国・外縁部 炊き出し会場(公園)】
「いいこと? ここでは『プライド』なんて何の栄養にもならないわ。必要なのは『感謝』と『どんぶり』だけよ」
リーザはマイどんぶり(100均のプラスチック製)を片手に、イグニスに説教した。
「分かったら並ぶ! 背筋を伸ばして! 列を乱さない!」
「ぬぐぐ……! 竜の俺が……人間どもの施しを受ける列に並ぶなど……!」
イグニスは顔を真っ赤にして震えていた。
彼の目の前には、ボロボロの服を着た人々が長い行列を作っている。その先には、湯気を上げる巨大な寸胴鍋と、割烹着を着たおばちゃんたちがいた。
週に一度のボランティア団体による**「炊き出し」**の時間だ。
「つべこべ言わない! 食べたくないなら私が二杯分貰うわよ?」
「た、食べる! 食わせてくれ!」
イグニスの腹が抗議の声を上げる。背に腹は代えられない。
彼は渋々、リーザから渡された少し欠けたお椀を持って列に加わった。
十分後。ついにイグニスの番が回ってきた。
「はい、お待たせ。大盛りにしとくかい? 若いんだから沢山お食べ」
給仕係のふくよかなおばちゃんが、優しく微笑みかけた。
イグニスは一瞬、言葉に詰まった。
里では「族長の息子」として腫れ物のように扱われてきた。こんな風に、ただの若者として優しく声をかけられたことはなかったからだ。
「あ、あぁ……頼む」
おばちゃんは寸胴鍋の底から、具材をたっぷりと掬い上げてくれた。
「はい、熱いから気をつけてね」
渡されたお椀からは、味噌と豚肉の濃厚な香りが立ち上っている。
『特製・具だくさん豚汁』だ。
「……これが、人間の飯……」
イグニスとリーザは、公園の隅のベンチ(確保済み)に座った。
「いただきまーす! ん~っ! 今日は大根が染みてるわ!」
リーザは慣れた手付きで豚汁を啜る。
イグニスは恐る恐る、お椀に口をつけた。
まだ熱い汁が、乾いた喉と空っぽの胃袋に流れ込む。
「……ッ!!」
衝撃が走った。
里の食事は、岩塩で焼いただけの肉や、硬いパンが主だった。
だがこれは違う。
複数の野菜の甘み、肉の脂、そして味噌という未知の調味料が複雑に絡み合い、五臓六腑に染み渡っていく。
「う……うめぇ……!」
イグニスは夢中で具材をかき込んだ。
柔らかく煮込まれた大根、ホクホクのじゃがいも、噛むほどに味が出る豚肉。
(なんだこれは……。これが「施し」の味だというのか?)
悔しいはずなのに。屈辱のはずなのに。
おばちゃんの笑顔と、温かいスープの熱が、冷え切った心を解かしていく。
「ズズッ……ズズズッ……」
気がつけば、イグニスの目から涙がこぼれ落ちていた。
豚汁の湯気のせいではない。
「……おいおい、泣くほど美味いか?」
リーザがニヤニヤしながら覗き込んでくる。
「う、うるせぇ! 目にゴミが入っただけだ!」
イグニスは袖で乱暴に目を拭った。
「……だが、悪くない。この国の人間は、意外と……悪くないな」
「素直じゃないわねぇ、後輩」
リーザは自分のどんぶりに入っていた「うずらの卵」を一つ、イグニスのお椀に入れてやった。
「ほら、おまけ。明日も生き抜くわよ」
「……あぁ」
イグニスは卵を噛み締め、夜空を見上げた。
マイナンバーカードは無い。家も無い。
だが、腹は満たされた。
最強の竜人は、太郎国での「生きる喜び」を、一杯の豚汁から学んだのだった。
「よし! 食ったら次はデザートよ!」
「まだ食うのか!?」
「当たり前でしょ! 有名なパン屋さんが、廃棄寸前の『パンの耳』をくれる時間よ! 急ぐわよ!」
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