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第六章 邪神デュアダロス
EP 1
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国が滅びても、お腹は空くのでキャンプの準備をします
大陸の片隅にある小国、ポポロ国。
平和だけが取り柄だったこの小さな国は、今、紅蓮の炎に包まれていた。
「ギャハハハ! 殺せ! 奪え!」
「ひぃぃっ! お助けぇぇ!」
突如として現れた魔王軍の別働隊によって、王都の防衛線は紙切れのように突破された。
屈強なオークやゴブリンの群れが城門を破り、美しい白亜の王城は、無残にも黒煙を上げている。
王族や貴族たちは我先にと馬車で逃げ出し、城内は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
……そんな大パニックの最中。
王城の敷地の外れにある、ひっそりとした『離宮の塔』の最上階。
「うーん……これとこれと、あとこれも持っていきましょう」
ポポロ国第一王女、リアナ・カルライン(20歳)は、焦るそぶりも全く見せず、ベッドの上で荷造りをしていた。
彼女は色素の薄い亜麻色の髪を後ろで一つに束ね、煌びやかなドレス……ではなく、動きやすい質素なワンピースに、着慣れたフリルのエプロンを身につけている。
「姫様! 何をしておられるのですか!? 早くお逃げを!」
血相を変えた老メイドが部屋に飛び込んでくる。
「あ、マーサ。ちょうどよかったわ。この『魔法の小袋(アイテムポーチ)』に、厨房の予備のフライパンを入れてくれない?」
「フ、フライパン!? 姫様、国が滅びようとしているのですよ!? 宝石や金貨を……!」
「宝石なんて食べられないじゃないですか。逃亡生活で一番大事なのは、毎日の温かいご飯です」
リアナは真剣な顔で言い切った。
彼女は、王女でありながら「お菓子作り」と「自炊」をこよなく愛する、少し変わった令嬢だった。
いや、そうならざるを得なかったのだ。
彼女が生まれ持ったユニークスキル**『服従の輪』**――対象の頭に光の輪を嵌め、逆らえば激痛を与えるという凶悪な能力のせいで、彼女は実の父親(国王)から化け物扱いされ、この塔にずっと幽閉されていたのだから。
「籠の中の鳥」だった彼女にとって、唯一の自由と慰めが「料理」だった。
「私の特製・三徳包丁に、魔導コンロ、カトラリーセットに、お気に入りのマグカップ。……よしっ。調理器具一式、バッチリです!」
リアナはポンッと手を叩いた。
「あとは、お庭で使うつもりだったソロキャンプ用のテントセットとお布団ですね。ふふっ、なんだかピクニックみたいでワクワクしてきました」
「ひ、姫様……頭が……」
老メイドは絶望的な顔でへたり込んだ。幽閉生活が長すぎて、姫の常識(タガ)が外れてしまったのだと勘違いして。
ドゴォォォォン!!
その時、離宮の1階の扉が激しい音を立てて吹き飛ばされた。
オークの小隊が、ついにこの塔にも侵入してきたのだ。
「ゲハハハ! ここには王族の女が隠されてるって噂だぜ!」
「食っちまおうぜ!」
下から下品な笑い声と、重い足音がドスドスと上がってくる。
「マーサ、あなたは秘密の抜け道から西の森へ逃げて。私は大丈夫だから」
「し、しかし姫様は……!」
「私には行く当てがありますから」
リアナは優しく微笑み、パンパンに膨らんだ魔法の小袋を腰に下げた。
そして、部屋の窓を勢いよく開け放つ。
塔のすぐ裏手には、底知れぬ瘴気を放つ巨大な洞窟――**『古代地下ダンジョン』**の入り口がポッカリと口を開けていた。
伝説の邪悪な何かが封印されているとされ、ポポロ国の人間なら絶対に近づかない禁忌の場所だ。
しかし、リアナの目はキラキラと輝いていた。
「ダンジョンの奥深くなら、魔族の追っ手も簡単には入ってこられません。それに図鑑で読みました。あそこには、すごく美味しい『肉椎茸』が自生しているって!」
「肉椎茸……!?」
「ではマーサ、お元気で! 今までお料理を教えてくれてありがとう!」
リアナはエプロンの裾を翻し、窓から身を躍らせた。
幽閉生活で密かに鍛えていた身のこなしで、塔の外壁のツタを伝い、スルスルと地上へ降りていく。
「い、いってらっしゃいませぇぇ……!」
老メイドは、涙ながらに逞しすぎる王女の背中を見送った。
【古代地下ダンジョン・第一階層】
ジメジメとした冷たい空気が肌を刺す。
太陽の光が届かない地下迷宮。壁には不気味な発光ゴケが怪しく光っている。
「ふふ~ん♪ ふふふ~ん♪」
そんな恐ろしい空間を、リアナは鼻歌交じりにスキップで進んでいた。
「わぁ、見てください! 壁に『ヒカリゴケ』が生えてます! あれ、乾燥させてお茶にすると胃に優しいんですよね」
彼女は追われているという緊張感を完全にスルーし、道端の薬草や謎のキノコをウキウキと採集しながら歩いていた。
長年の引きこもり生活から解放された彼女にとって、ここは恐怖の迷宮ではなく、**「未知の食材の宝庫(巨大なスーパーマーケット)」**だったのだ。
しかし、そんな平和な時間は長くは続かなかった。
「グルルル……見ぃつけたぞォ、人間の女ァ……」
背後から、血生臭い息遣いが聞こえた。
振り返ると、王城を襲っていた魔族の追跡部隊――三匹の凶悪なレッド・ウルフと、大柄なオークが涎を垂らして立っていた。
禁忌の場所とはいえ、獲物への執着が勝ったらしい。
「あ……」
リアナは立ち止まった。
「ゲハハ! 逃げ場はねぇぞ、お姫様! 大人しく俺たちの慰み者に……」
「あの! ちょっと待ってください!」
リアナはビシッと手を突き出し、オークの言葉を遮った。
「えっ? お、おう」
あまりの堂々とした態度に、オークが思わずたじろぐ。
リアナは腰の魔法ポーチをガサゴソと探り始めた。
「魔族の皆さん、お腹空いてませんか? 追いかけっこで疲れましたよね。私、今からキャンプの準備をするので、もしよかったらご一緒に……」
「なめとんのかァァ!! 食うのはてめぇの方だ!!」
オークが激怒し、巨大な棍棒を振り上げた。
レッド・ウルフたちも一斉に牙を剥いて飛びかかってくる。
「ひぃぃっ! やっぱり言葉が通じません! ごめんなさい!」
リアナは慌てて踵を返し、ダンジョンの奥深くへと猛ダッシュを始めた。
「待てェェ! 逃がすかァァ!」
後ろから迫る凶悪な魔族たち。
か弱き姫君の運命は風前の灯火……かと思われた。
だが、逃げ惑う彼女が転がり込んだ先――ダンジョンの『最下層(奈落の底)』には、彼女の常識を遥かに超える、**規格外の存在(とんでもないヤクザ)**が待ち受けていたのである。
「ハァ、ハァ……行き止まり、ですか……っ?」
息を切らして辿り着いた、巨大な石扉の奥。
そこには、重々しい鎖でぐるぐる巻きにされた、漆黒の祭壇があった。
そして、その中央。
暗闇の中から、銀縁のインテリ眼鏡をかけた、危険な色気を放つスーツ姿の男が、ゆっくりと顔を上げた。
『……おい、小娘』
地鳴りのような、しかしどこか甘く響く低い声。
『……俺の封印を解けば、そいつらを「塵」にしてやるぜ?』
かくして、お料理大好きポンコツ姫と、最恐のインテリヤクザ邪神による、前代未聞の地下ソロキャンプが幕を開けようとしていた――。
大陸の片隅にある小国、ポポロ国。
平和だけが取り柄だったこの小さな国は、今、紅蓮の炎に包まれていた。
「ギャハハハ! 殺せ! 奪え!」
「ひぃぃっ! お助けぇぇ!」
突如として現れた魔王軍の別働隊によって、王都の防衛線は紙切れのように突破された。
屈強なオークやゴブリンの群れが城門を破り、美しい白亜の王城は、無残にも黒煙を上げている。
王族や貴族たちは我先にと馬車で逃げ出し、城内は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
……そんな大パニックの最中。
王城の敷地の外れにある、ひっそりとした『離宮の塔』の最上階。
「うーん……これとこれと、あとこれも持っていきましょう」
ポポロ国第一王女、リアナ・カルライン(20歳)は、焦るそぶりも全く見せず、ベッドの上で荷造りをしていた。
彼女は色素の薄い亜麻色の髪を後ろで一つに束ね、煌びやかなドレス……ではなく、動きやすい質素なワンピースに、着慣れたフリルのエプロンを身につけている。
「姫様! 何をしておられるのですか!? 早くお逃げを!」
血相を変えた老メイドが部屋に飛び込んでくる。
「あ、マーサ。ちょうどよかったわ。この『魔法の小袋(アイテムポーチ)』に、厨房の予備のフライパンを入れてくれない?」
「フ、フライパン!? 姫様、国が滅びようとしているのですよ!? 宝石や金貨を……!」
「宝石なんて食べられないじゃないですか。逃亡生活で一番大事なのは、毎日の温かいご飯です」
リアナは真剣な顔で言い切った。
彼女は、王女でありながら「お菓子作り」と「自炊」をこよなく愛する、少し変わった令嬢だった。
いや、そうならざるを得なかったのだ。
彼女が生まれ持ったユニークスキル**『服従の輪』**――対象の頭に光の輪を嵌め、逆らえば激痛を与えるという凶悪な能力のせいで、彼女は実の父親(国王)から化け物扱いされ、この塔にずっと幽閉されていたのだから。
「籠の中の鳥」だった彼女にとって、唯一の自由と慰めが「料理」だった。
「私の特製・三徳包丁に、魔導コンロ、カトラリーセットに、お気に入りのマグカップ。……よしっ。調理器具一式、バッチリです!」
リアナはポンッと手を叩いた。
「あとは、お庭で使うつもりだったソロキャンプ用のテントセットとお布団ですね。ふふっ、なんだかピクニックみたいでワクワクしてきました」
「ひ、姫様……頭が……」
老メイドは絶望的な顔でへたり込んだ。幽閉生活が長すぎて、姫の常識(タガ)が外れてしまったのだと勘違いして。
ドゴォォォォン!!
その時、離宮の1階の扉が激しい音を立てて吹き飛ばされた。
オークの小隊が、ついにこの塔にも侵入してきたのだ。
「ゲハハハ! ここには王族の女が隠されてるって噂だぜ!」
「食っちまおうぜ!」
下から下品な笑い声と、重い足音がドスドスと上がってくる。
「マーサ、あなたは秘密の抜け道から西の森へ逃げて。私は大丈夫だから」
「し、しかし姫様は……!」
「私には行く当てがありますから」
リアナは優しく微笑み、パンパンに膨らんだ魔法の小袋を腰に下げた。
そして、部屋の窓を勢いよく開け放つ。
塔のすぐ裏手には、底知れぬ瘴気を放つ巨大な洞窟――**『古代地下ダンジョン』**の入り口がポッカリと口を開けていた。
伝説の邪悪な何かが封印されているとされ、ポポロ国の人間なら絶対に近づかない禁忌の場所だ。
しかし、リアナの目はキラキラと輝いていた。
「ダンジョンの奥深くなら、魔族の追っ手も簡単には入ってこられません。それに図鑑で読みました。あそこには、すごく美味しい『肉椎茸』が自生しているって!」
「肉椎茸……!?」
「ではマーサ、お元気で! 今までお料理を教えてくれてありがとう!」
リアナはエプロンの裾を翻し、窓から身を躍らせた。
幽閉生活で密かに鍛えていた身のこなしで、塔の外壁のツタを伝い、スルスルと地上へ降りていく。
「い、いってらっしゃいませぇぇ……!」
老メイドは、涙ながらに逞しすぎる王女の背中を見送った。
【古代地下ダンジョン・第一階層】
ジメジメとした冷たい空気が肌を刺す。
太陽の光が届かない地下迷宮。壁には不気味な発光ゴケが怪しく光っている。
「ふふ~ん♪ ふふふ~ん♪」
そんな恐ろしい空間を、リアナは鼻歌交じりにスキップで進んでいた。
「わぁ、見てください! 壁に『ヒカリゴケ』が生えてます! あれ、乾燥させてお茶にすると胃に優しいんですよね」
彼女は追われているという緊張感を完全にスルーし、道端の薬草や謎のキノコをウキウキと採集しながら歩いていた。
長年の引きこもり生活から解放された彼女にとって、ここは恐怖の迷宮ではなく、**「未知の食材の宝庫(巨大なスーパーマーケット)」**だったのだ。
しかし、そんな平和な時間は長くは続かなかった。
「グルルル……見ぃつけたぞォ、人間の女ァ……」
背後から、血生臭い息遣いが聞こえた。
振り返ると、王城を襲っていた魔族の追跡部隊――三匹の凶悪なレッド・ウルフと、大柄なオークが涎を垂らして立っていた。
禁忌の場所とはいえ、獲物への執着が勝ったらしい。
「あ……」
リアナは立ち止まった。
「ゲハハ! 逃げ場はねぇぞ、お姫様! 大人しく俺たちの慰み者に……」
「あの! ちょっと待ってください!」
リアナはビシッと手を突き出し、オークの言葉を遮った。
「えっ? お、おう」
あまりの堂々とした態度に、オークが思わずたじろぐ。
リアナは腰の魔法ポーチをガサゴソと探り始めた。
「魔族の皆さん、お腹空いてませんか? 追いかけっこで疲れましたよね。私、今からキャンプの準備をするので、もしよかったらご一緒に……」
「なめとんのかァァ!! 食うのはてめぇの方だ!!」
オークが激怒し、巨大な棍棒を振り上げた。
レッド・ウルフたちも一斉に牙を剥いて飛びかかってくる。
「ひぃぃっ! やっぱり言葉が通じません! ごめんなさい!」
リアナは慌てて踵を返し、ダンジョンの奥深くへと猛ダッシュを始めた。
「待てェェ! 逃がすかァァ!」
後ろから迫る凶悪な魔族たち。
か弱き姫君の運命は風前の灯火……かと思われた。
だが、逃げ惑う彼女が転がり込んだ先――ダンジョンの『最下層(奈落の底)』には、彼女の常識を遥かに超える、**規格外の存在(とんでもないヤクザ)**が待ち受けていたのである。
「ハァ、ハァ……行き止まり、ですか……っ?」
息を切らして辿り着いた、巨大な石扉の奥。
そこには、重々しい鎖でぐるぐる巻きにされた、漆黒の祭壇があった。
そして、その中央。
暗闇の中から、銀縁のインテリ眼鏡をかけた、危険な色気を放つスーツ姿の男が、ゆっくりと顔を上げた。
『……おい、小娘』
地鳴りのような、しかしどこか甘く響く低い声。
『……俺の封印を解けば、そいつらを「塵」にしてやるぜ?』
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