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EP 11
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姫様、特撮にハマる
その日、青田春太は死んだ魚のような目で、キーボードを叩いていた。
場所は内閣府の地下室。時刻は午後9時。
「……残業代。残業代が出れば、あと3年は戦える……」
ブツブツと呪詛のように呟く彼の脳裏には、先日の『高級PCローン』と『すき焼き事件』の請求額が焼き付いていた。
家に帰れば、あのかわいい(けど災害級の)居候たちが待っている。
それだけが唯一の癒やしであり、同時に胃痛の原因でもあった。
「はぁ……。今日はまっすぐ帰って、寝よう」
春太は重い体を起こし、庁舎を後にした。
彼が知る由もなかった。
その頃、自宅で留守番をしている姫様が、日本の**「とある文化」**に劇的な出会いを果たしてしまったことを。
春太のアパート、リビングにて。
「――ギャオオオオオオオン!!」
大画面モニター(50万円のPCモニター)に、爆音が響き渡っていた。
映し出されているのは、BSで再放送されていた特撮映画『大怪獣激闘・東京炎上』。
全長100メートルの巨大トカゲが、東京タワーをへし折り、口から熱線を吐いてビル街を火の海に変えるシーンだ。
「まあ……っ!」
ルナは、画面に釘付けになっていた。
煌めく瞳。紅潮した頬。彼女は、恐怖しているのではない。
感動していたのだ。
「ネギオ! 見て! この大きなトカゲさん、とっても楽しそう!」
「……ほう」
傍らで紅茶(春太の安物ティーバッグ)を淹れていたネギオも、画面を一瞥して興味深そうに頷いた。
「素晴らしい破壊効率ですね。尻尾の一振りで、人類が築いた文明(ゴミ)を一掃するとは。……このトカゲ、『破壊神』の資質があります」
「お口からビームを出したわ! 街がキラキラ燃えていて、キャンプファイヤーみたい!」
「ええ。実に美しい、終末の光景です」
二人の感性は、根本的にズレていた。
ルナにとって、怪獣は「強くて自由な生き物」。
ネギオにとって、怪獣は「理想的な掃除屋」。
映画がクライマックスを迎え、怪獣が海へと帰っていくシーンで、ルナは立ち上がった。
「私、決めたわ!」
「何をです?」
「私、この子と遊びたい! ……いいえ、私も『カイジュウごっこ』がしたいわ!」
ルナが杖を掲げる。
彼女の脳内では、すでに「おままごと」の延長線上のプランが構築されていた。
「でも姫様。この狭いアパートでは、暴れるスペースが足りませんよ?」
「そうね……。もっと広くて、泥んこがいっぱいある場所に行きましょう!」
ルナは窓を開け放ち、夜の東京を見下ろした。
その視線の先――方角で言えば南東。
埋め立て地が広がる、東京湾の方角に狙いを定めた。
「あそこに、土がたくさんありそうだわ!」
「『キバ』という地名(※木場)の先、埋立地ですね。いいでしょう。材料には困りません」
ネギオはニヤリと笑い、主の無邪気な遊びに付き従う姿勢を見せた。
「では、参りましょうか。ハルタ様が帰ってくる前に、とびきりの『お人形』を作って驚かせてあげましょう」
「ええ! ハルタ様、きっと喜んでくれるわ!」
夜10時。東京湾、某埋立地。
人気のない工事現場に、二つの人影が降り立った。
潮の香りと、泥の匂い。
「ここなら誰にも迷惑をかけないわね!」
「存分におやりください」
ルナは世界樹の杖を、柔らかい地面に突き刺した。
――展開(セット)。
属性:土、水。
術式:ゴーレム・クリエイト(超大型)。
「出ておいで! 私の新しいお友達!」
ルナの膨大なマナが、杖を通じて大地に注入される。
ズズズズズ……!
地面が生き物のように脈打ち、隆起し始めた。
周囲の泥、岩、そして産業廃棄物の瓦礫までもが渦を巻いて集まっていく。
「イメージは……さっきテレビで見た、あの子!」
ルナの純粋すぎる想像力が、具現化していく。
太い足。長い尻尾。背中には剣山のような背びれ。
それは、ただの泥人形ではなかった。
エルフの王族が本気で作った、自律稼働する戦略級兵器――いや、怪獣そのものだった。
ズドオオオオオオオン!!
全長50メートル。
泥と瓦礫で構成された巨体が、東京湾の海面から上半身をもたげた。
『グオオオオオオオオオオオオ!!』
大気を震わせる咆哮。
その声は、数キロ離れた都心部まで届くほどの音圧を持っていた。
「まあ! 上手! いい声ね!」
「造形も悪くない。……ただの泥ですが、硬度はダイヤモンド並みに圧縮されていますね」
ルナは嬉しそうに手を叩き、ネギオは満足げに品評する。
一方その頃。
最寄り駅からアパートへ歩いていた春太は、足元がグラリと揺れるのを感じた。
「……地震?」
スマホを取り出すが、緊急地震速報は鳴っていない。
その代わり、遠くの空から、聞いたことのない低い唸り声のような音が響いてきた。
「なんだ……? 工場の爆発音か……?」
嫌な予感が背筋を駆け上がる。
この「嫌な予感」は、ルナたちが来てからというもの、百発百中で的中している予感だ。
「まさか……な。今日は家でおとなしくしてるはず……」
春太は自分に言い聞かせ、足を速めた。
だが、彼の願いは虚しく、翌朝のニュースで粉砕されることになる。
――東京湾に、未確認巨大生物、出現。
それは、ルナによる「ごっこ遊び」という名の、首都圏壊滅危機の始まりだった。
その日、青田春太は死んだ魚のような目で、キーボードを叩いていた。
場所は内閣府の地下室。時刻は午後9時。
「……残業代。残業代が出れば、あと3年は戦える……」
ブツブツと呪詛のように呟く彼の脳裏には、先日の『高級PCローン』と『すき焼き事件』の請求額が焼き付いていた。
家に帰れば、あのかわいい(けど災害級の)居候たちが待っている。
それだけが唯一の癒やしであり、同時に胃痛の原因でもあった。
「はぁ……。今日はまっすぐ帰って、寝よう」
春太は重い体を起こし、庁舎を後にした。
彼が知る由もなかった。
その頃、自宅で留守番をしている姫様が、日本の**「とある文化」**に劇的な出会いを果たしてしまったことを。
春太のアパート、リビングにて。
「――ギャオオオオオオオン!!」
大画面モニター(50万円のPCモニター)に、爆音が響き渡っていた。
映し出されているのは、BSで再放送されていた特撮映画『大怪獣激闘・東京炎上』。
全長100メートルの巨大トカゲが、東京タワーをへし折り、口から熱線を吐いてビル街を火の海に変えるシーンだ。
「まあ……っ!」
ルナは、画面に釘付けになっていた。
煌めく瞳。紅潮した頬。彼女は、恐怖しているのではない。
感動していたのだ。
「ネギオ! 見て! この大きなトカゲさん、とっても楽しそう!」
「……ほう」
傍らで紅茶(春太の安物ティーバッグ)を淹れていたネギオも、画面を一瞥して興味深そうに頷いた。
「素晴らしい破壊効率ですね。尻尾の一振りで、人類が築いた文明(ゴミ)を一掃するとは。……このトカゲ、『破壊神』の資質があります」
「お口からビームを出したわ! 街がキラキラ燃えていて、キャンプファイヤーみたい!」
「ええ。実に美しい、終末の光景です」
二人の感性は、根本的にズレていた。
ルナにとって、怪獣は「強くて自由な生き物」。
ネギオにとって、怪獣は「理想的な掃除屋」。
映画がクライマックスを迎え、怪獣が海へと帰っていくシーンで、ルナは立ち上がった。
「私、決めたわ!」
「何をです?」
「私、この子と遊びたい! ……いいえ、私も『カイジュウごっこ』がしたいわ!」
ルナが杖を掲げる。
彼女の脳内では、すでに「おままごと」の延長線上のプランが構築されていた。
「でも姫様。この狭いアパートでは、暴れるスペースが足りませんよ?」
「そうね……。もっと広くて、泥んこがいっぱいある場所に行きましょう!」
ルナは窓を開け放ち、夜の東京を見下ろした。
その視線の先――方角で言えば南東。
埋め立て地が広がる、東京湾の方角に狙いを定めた。
「あそこに、土がたくさんありそうだわ!」
「『キバ』という地名(※木場)の先、埋立地ですね。いいでしょう。材料には困りません」
ネギオはニヤリと笑い、主の無邪気な遊びに付き従う姿勢を見せた。
「では、参りましょうか。ハルタ様が帰ってくる前に、とびきりの『お人形』を作って驚かせてあげましょう」
「ええ! ハルタ様、きっと喜んでくれるわ!」
夜10時。東京湾、某埋立地。
人気のない工事現場に、二つの人影が降り立った。
潮の香りと、泥の匂い。
「ここなら誰にも迷惑をかけないわね!」
「存分におやりください」
ルナは世界樹の杖を、柔らかい地面に突き刺した。
――展開(セット)。
属性:土、水。
術式:ゴーレム・クリエイト(超大型)。
「出ておいで! 私の新しいお友達!」
ルナの膨大なマナが、杖を通じて大地に注入される。
ズズズズズ……!
地面が生き物のように脈打ち、隆起し始めた。
周囲の泥、岩、そして産業廃棄物の瓦礫までもが渦を巻いて集まっていく。
「イメージは……さっきテレビで見た、あの子!」
ルナの純粋すぎる想像力が、具現化していく。
太い足。長い尻尾。背中には剣山のような背びれ。
それは、ただの泥人形ではなかった。
エルフの王族が本気で作った、自律稼働する戦略級兵器――いや、怪獣そのものだった。
ズドオオオオオオオン!!
全長50メートル。
泥と瓦礫で構成された巨体が、東京湾の海面から上半身をもたげた。
『グオオオオオオオオオオオオ!!』
大気を震わせる咆哮。
その声は、数キロ離れた都心部まで届くほどの音圧を持っていた。
「まあ! 上手! いい声ね!」
「造形も悪くない。……ただの泥ですが、硬度はダイヤモンド並みに圧縮されていますね」
ルナは嬉しそうに手を叩き、ネギオは満足げに品評する。
一方その頃。
最寄り駅からアパートへ歩いていた春太は、足元がグラリと揺れるのを感じた。
「……地震?」
スマホを取り出すが、緊急地震速報は鳴っていない。
その代わり、遠くの空から、聞いたことのない低い唸り声のような音が響いてきた。
「なんだ……? 工場の爆発音か……?」
嫌な予感が背筋を駆け上がる。
この「嫌な予感」は、ルナたちが来てからというもの、百発百中で的中している予感だ。
「まさか……な。今日は家でおとなしくしてるはず……」
春太は自分に言い聞かせ、足を速めた。
だが、彼の願いは虚しく、翌朝のニュースで粉砕されることになる。
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