方向音痴の姫様を拾ったら、俺のクレジットカードで勝手に和牛を買われた件 〜植物執事が特攻服で内閣府へ迎えに来る、胃痛MAXの同居生活〜

月神世一

文字の大きさ
25 / 30
第二章 春太マグロ漁船に乗せられる

EP 5

しおりを挟む
ネギオの品種改良(巨大化)
 無人島生活、3日目。
 南国の太陽が降り注ぐ白亜の宮殿(魔法製)のテラスで、春太は釣り糸を垂れていた。
「……釣れないなぁ」
 春太はぼんやりと浮きを見つめた。
 最初のうちは「帰りたい」と泣いていたが、人間とは慣れる生き物だ。
 快適な住居、綺麗な海、そして隣には水着姿(ワンピースのまま海に入ったので濡れ透け状態)の美少女。
 上司のパワハラも、借金の督促もない。
(……あれ? これ、帰りたくないかも……)
 春太の心が、ダメな方向に順応し始めていた。
「――退屈ですね」
 そんな春太の隣で、ネギオが深くため息をついた。
 彼はパラソルの下で、腕組みをして海を睨んでいる。
「この島の生態系は貧弱すぎます。獲れるのは小魚ばかり。姫様の食卓を彩るには、圧倒的に『ボリューム』と『インパクト』が足りない」
「え? 十分じゃない? 昨日食べた焼き魚も美味しかったし」
「貴様はそれで良くても、私は満足できません。……刺激が必要だ」
 ネギオの目が、科学者のように冷徹に光った。
 彼は懐から、見覚えのあるシリンダーを取り出した。
 毒々しい緑色の液体が詰まった、あの注射器だ。
「ヒッ!?」
 春太は反射的に首を押さえて後ずさりした。
 トラウマがフラッシュバックする。
「ネ、ネギオさん? それ、俺に打つんじゃないよね?」
「安心しろ、虫。貴様を巨大化させても食料にはなりません。……使うのは、この海です」
 ネギオは波打ち際に立つと、注射器の中身をドボドボと海に注ぎ込んだ。
 さらに、何やら怪しげな植物の種や、粉末を混ぜ合わせる。
「『超活性化樹液』に、私のマナを濃縮還元した『成長促進剤』をブレンド。これを海底の岩場に撒けば……」
「撒けば……どうなるの?」
「現地の食材たちが、すくすくと育つことでしょう。品種改良(ブースト)です」
 ネギオは邪悪な笑みを浮かべ、海に向かって手を叩いた。
「さあ、食事の時間ですよ。底生生物(ベントス)ども。お腹いっぱいお食べ」
 ゴボッ……。
 海面から、奇妙な泡が上がった。
 最初は一つ、二つ。
 やがて、海全体が沸騰したように泡立ち始めた。
「あ、あれ? なんか海の色、変わってない?」
 エメラルドグリーンだった海面が、どす黒く変色していく。
 そして。
 ズズズズズズズ……!!
 島全体が揺れた。地震ではない。何かが海底で暴れ回っている振動だ。
「きゃあ! ハルタ様、マッサージチェアみたいに揺れてますわ!」
 宮殿から出てきたルナが、無邪気に喜んでいる。
 しかし、春太の野生の勘(社畜の危機察知能力)が、最大級の警報を鳴らしていた。
「違う! これヤバいやつだ! ネギオ! 何をしたんだ!?」
「何って、ただの餌やりですが? ……おや、早速『成果』が出たようですね」
 ネギオが指差した沖合。
 そこから、巨大な影が浮上してきた。
 ザバァァァァァァッ!!
 水しぶきと共に現れたのは、巨大な赤い柱――いや、触手だった。
 太さは大型バス並み。吸盤の一つ一つがタイヤほどのサイズがある。
「イ、イカ……?」
 春太は口を開けたまま固まった。
 イカだ。間違いなくイカの足だ。
 ただし、サイズがおかしい。
 続いて、別の場所からは、巨大なハサミが海面を割って突き出された。
 さらに、小山のような貝殻が浮上し、潮を吹き上げる。
 巨大イカ。
 巨大伊勢海老。
 巨大ホタテ。
 ネギオの「品種改良」によって、島の周囲は怪獣の巣窟と化していた。
「……ほう。予想以上の成長率ですね。これなら食べ応えがありそうだ」
「食べ応えの問題じゃねええええ!! 食われるのは俺たちだああああ!!」
 春太の絶叫が、南の島に木霊する。
 平和な無人島ライフは、たった数滴の樹液によって終わりを告げた。
 ここから先は、食うか食われるかの**『大怪獣グルメバトル』**の開幕である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。 何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。 ◇◆◇ 作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。 DO NOT REPOST.

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

没落貴族は最果ての港で夢を見る〜政敵の公爵令嬢と手を組み、忘れられた航路を拓いて帝国の海を制覇する〜

namisan
ファンタジー
日本の海運会社に勤めていた男は、事故死し、異世界の没落貴族の三男ミナト・アークライトとして転生した。 かつては王国の海運業を牛耳ったアークライト家も、今や政争に敗れた見る影もない存在。ミナト自身も、厄介払い同然に、寂れた港町「アルトマール」へ名ばかりの代官として追いやられていた。 無気力な日々を過ごしていたある日、前世の海運知識と経験が完全に覚醒する。ミナトは気づいた。魔物が蔓延り、誰もが見捨てたこの港こそ、アークライト家再興の礎となる「宝の山」であると。 前世の知識と、この世界で得た風を読む魔法「風詠み」を武器に、家の再興を決意したミナト。しかし、その矢先、彼の前に最大の障害が現れる。 アークライト家を没落させた政敵、ルクスブルク公爵家の令嬢セラフィーナ。彼女は王命を受け、価値の失われた港を閉鎖するため、監察官としてアルトマールに乗り込んできたのだ。 「このような非効率な施設は、速やかに閉鎖すべきですわ」 家の再興を賭けて港を再生させたい没落貴族と、王国の未来のために港を閉鎖したいエリート令嬢。 立場も思想も水と油の二人が、互いの野望のために手を組むとき、帝国の経済、そして世界の物流は、歴史的な転換点を迎えることになる。 これは、一人の男が知識と魔法で巨大な船団を組織し、帝国の海を制覇するまでの物語。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

落ちこぼれ村娘、拾った王子に溺愛される。

いっぺいちゃん
恋愛
辺境の村で育った元気娘 ミレイ。 ある日、森で倒れていた金髪の青年を助けるが、 実は彼は国一の人気者 完璧王子レオン だった。 だがレオンは外に出ると人格がゆるみ、 王宮で見せる完璧さは作ったキャラだった。 ミレイにだけ本音を見せるようになり、 彼は彼女に依存気味に溺愛してくる。 しかしレオンの完璧さには、 王宫の闇に関わる秘密があって—— ミレイはレオンの仮面を剥がしながら、 彼を救う本当の王子に導いていく。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。 ※この作品は「小説家になろう」でも同時投稿しています。

処理中です...