方向音痴の姫様を拾ったら、俺のクレジットカードで勝手に和牛を買われた件 〜植物執事が特攻服で内閣府へ迎えに来る、胃痛MAXの同居生活〜

月神世一

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第二章 春太マグロ漁船に乗せられる

EP 4

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無人島サバイバル(貴族風)
 ザザァ……ザザァ……。
 白い砂浜。エメラルドグリーンの海。そして、照りつける太陽。
 ネギオの作った「巨大蓮の葉号」で漂流すること数時間。春太たちは、南海の無人島に打ち上げられていた。
「……つ、着いた……。陸地だ……」
 春太は砂浜に這いつくばり、砂の感触を確かめた。
 マグロ漁船からの脱出には成功したが、ここは文明から隔絶された孤島。スマホの電波はもちろん圏外だ。
「ハルタ様! 見てください! プライベートビーチですわ!」
 一方、ルナは元気いっぱいだった。
 白いワンピースの裾をまくり上げ、波打ち際でキャッキャと海水を蹴り上げている。
「……呑気だなぁ。これから生きるか死ぬかのサバイバルが始まるんだよ?」
 春太は重い体を起こし、周囲を見渡した。
 まずは拠点の確保だ。雨風をしのぐ場所がないと、夜には体温を奪われて死ぬ。
「よし。俺が木を集めてくる。簡単な小屋を作って、火を起こさないと……」
 春太が流木を拾い集め、必死に木と木を擦り合わせて摩擦熱を起こそうとしていた時だった。
「ハルタ様? 何をしていらっしゃるの?」
「え? 火起こしだけど」
「まあ、そんな木の棒で? それに、そんなボロボロの木でお家を作るつもり? ハルタ様にはもっと相応しい場所が必要ですわ!」
 ルナは不満そうに頬を膨らませると、世界樹の杖を砂浜に突き刺した。
「ネギオ、手伝って。この島のマナをお借りして、素敵なお宿(ヴィラ)を建てましょう!」
「御意。サンゴと石灰岩をベースに、通気性の良い構造にしましょうか」
 ルナとネギオのマナが共鳴する。
 
 ズズズズズズ……!!
 砂浜が隆起した。
 現れたのは、木の小屋などではない。
 真っ白なサンゴと大理石(のような硬質化した砂)で構成された、白亜の宮殿だった。
 バルコニー付き。螺旋階段あり。なんなら海水を引き込んだプールまで完備されている。
「……は?」
 春太が持っていた火起こしの棒が、ポロリと落ちた。
「完成です! 名付けて『ルナ・リゾート・アイランド支店』ですわ!」
「支店て。……いや、これサバイバルじゃねえ! 貴族のバカンスだ!」
「さあハルタ様、中へどうぞ! 涼しいですよ?」
 招き入れられた宮殿内は、魔法による空調(冷風)が効いており、あまりにも快適すぎた。
「くそっ……! 悔しいけど涼しい……! 文明社会より快適だ……!」
 春太はふかふかの砂のソファ(魔法で固定済み)に沈み込んだ。
「さて、住居は確保しました。次は食料ですね」
 ネギオが言う。
 確かに腹が減った。マグロ漁船ではロクなものを食べていない。
「私が獲ってきますわ! この海には、可愛いお魚さんがいっぱいいそうですもの!」
 ルナが張り切って海へ走っていく。
 数十分後。
 彼女は満面の笑みで戻ってきた。その手には、カラフルな魚たちが抱えられていた。
「見てハルタ様! とっても可愛いお魚が獲れました!」
 春太は魚を見て、顔面蒼白になった。
 青い斑点のあるタコ(ヒョウモンダコ)。
 背びれがトゲトゲした派手な魚(ミノカサゴ)。
 どう見ても毒々しい色のウミヘビ。
「ギャアアアア!! 捨てて! 今すぐ捨てて! それ全部猛毒!!」
「ええ? でも、こんなに綺麗なのに……」
「綺麗なものには毒があるんだよ! 君みたいにな!」
「あら、ハルタ様ったら。私に毒があるなんて、もう(照)」
「褒めてない!!」
 結局、ネギオが裏のジャングルから採ってきた謎の果実(味はカツ丼そのもの)で空腹を満たすことになった。
 夜。
 白亜の宮殿のテラスで、満天の星空を見上げながら、春太は思った。
(……サバイバルって、こんなんだっけ?)
 命の危険はない。住環境も最高。
 だが、春太の常識(コモンセンス)だけが、この島で静かに息を引き取ろうとしていた。
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