方向音痴の姫様を拾ったら、俺のクレジットカードで勝手に和牛を買われた件 〜植物執事が特攻服で内閣府へ迎えに来る、胃痛MAXの同居生活〜

月神世一

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第二章 春太マグロ漁船に乗せられる

EP 8

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灼熱のフランベ
「ネギオさん! 早くなんとかして! イカの足が! エビのハサミが! 俺の目の前で殺し合いのワルツを踊ってる!」
 崩壊寸前の砂浜で、春太は泣き叫んでいた。
 頭上では、巨大イカの触手と巨大伊勢海老のハサミが激突し、火花ならぬ衝撃波を散らしている。
 さらに巨大ホタテが、カスタネットのように貝殻を鳴らしながら突進してくる。地獄だ。
「……ふむ。運動量は十分。身も程よく引き締まった頃合いでしょう」
 バルコニーから見下ろすネギオは、満足げに頷いた。
 彼は懐から、巨大な「岩塩の塊」と「ブラックペッパー(植物魔法で現地生成)」を取り出し、宙に放り投げた。
「味付け(シーズニング)、開始」
 シュババババッ!!
 ネギオの蔦が鞭のようにしなり、空中で岩塩と胡椒を粉砕。
 それが怪獣たちの頭上から、金粉のように降り注ぐ。
『グオッ!?(なんだこの粉は!?)』
『キシャアッ!?(目が染みる!)』
 怪獣たちが怯んだ隙に、ネギオはルナに向かって恭しく一礼した。
「姫様。下味は付きました。仕上げの加熱をお願いします」
「任せてネギオ! どう焼けばいいのかしら?」
「強火で一気に。表面をカリッと、中はジューシーに。旨味を閉じ込めるための『フランベ』です」
 ネギオのオーダーは、家庭料理のレベルを遥かに超えていた。
 ルナは「ガッテン承知!」とばかりに杖を構え、膨大なマナを収束させ始めた。
「いきますわよー! 美味しくなぁれ、美味しくなぁれ!」
 可愛い掛け声とは裏腹に、杖の先端に浮かび上がったのは、太陽の如き赤熱の球体。
 上級精霊魔法・火属性。
「――『フレイム・バースト(極大爆裂火球)』!!」
 ズドォォォン!!
 ルナが杖を振り下ろした瞬間、直径数十メートルの火球が、怪獣たちのど真ん中に着弾した。
「ちょっ、待っ――」
 春太の言葉は、爆音にかき消された。
 カッ!! ドッゴォォォォォォォォン!!
 無人島の中央に、キノコ雲が上がった。
 凄まじい熱波が放射状に広がり、海水が一瞬で沸騰する。
 それは調理ではない。戦略爆撃だ。
『ギャアアアアアアア!!』
『キシャアアアアア!!』
 怪獣たちの断末魔が響くが、それも一瞬。
 数千度の業火が彼らを包み込み、その巨体を瞬時に焼き上げていく。
 春太は?
 彼は爆発の瞬間、ネギオが投げた「巨大なバナナの葉(耐熱仕様)」の下に滑り込み、奇跡的に直撃を免れていた。
 だが、熱い。サウナの最上段の100倍熱い。
「あっちぃぃぃ!! フランベってレベルじゃねえぞ!! 島ごと消し炭にする気か!!」
 春太は砂に顔を埋め、嵐が過ぎ去るのを待った。
 やがて、轟音が収まり、代わりにパチパチという何かが焼ける音と、煙が漂ってきた。
 春太がおそるおそる顔を上げ、鼻をひくつかせる。
「……あれ? なんか……」
 焦げ臭い匂いではない。
 香ばしい醤油(ネギオが隠し味で入れた)と、焼けた甲殻類の濃厚な香り。
 縁日のイカ焼きを、100万倍スケールアップしたような、暴力的なまでの「食欲をそそる匂い」が充満していた。
「完成ですわ!」
 煙が晴れると、そこには驚愕の光景が広がっていた。
 全身真っ赤に茹で上がった、巨大ボイル伊勢海老。
 こんがりと焼き目のついた、巨大姿焼きイカ。
 そして、殻が開いてグツグツと汁を湛える、巨大ホタテのバター醤油焼き。
 さっきまで殺し合いをしていた怪獣たちは、今や世界最大級の「シーフード盛り合わせ」へと変貌を遂げていた。
「素晴らしい焼き加減(メイラード反応)です、姫様」
 ネギオがバルコニーから飛び降り、巨大イカの足にナイフ(蔦)を入れる。
 サクッ。ジュワッ。
 断面から、熱々の肉汁が溢れ出した。
「無茶苦茶だぁ……」
 春太は煤(すす)だらけの顔で、その光景を見上げることしかできなかった。
 だが、彼の胃袋だけは正直に、グゥ~と大きな音を鳴らしたのである。
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