方向音痴の姫様を拾ったら、俺のクレジットカードで勝手に和牛を買われた件 〜植物執事が特攻服で内閣府へ迎えに来る、胃痛MAXの同居生活〜

月神世一

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第二章 春太マグロ漁船に乗せられる

EP 9

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伝説の海鮮カレー
 砂浜に横たわるのは、こんがりと焼き上がった3体の元・怪獣たち。
 香ばしい匂いが島中に充満しているが、ネギオはまだ満足していなかった。
「……ふむ。素材の味を活かすのも良いですが、やはりキャンプといえば『カレー』でしょう」
 ネギオはパチンと指を鳴らした。
 彼が懐(四次元ポケット並みの収納力を持つ樹皮の裏)から取り出したのは、大量のスパイス瓶と、怪しげな紫色の植物の根っこ。
「ネギオ特製・超配合スパイスです。これを使えば、ゴムタイヤでも美味しく煮込めますよ」
「ゴムは煮込まないでください!」
 春太がツッコミを入れるが、調理は止まらない。
 ネギオは島の岩場にある、先ほどの戦闘でできた巨大なクレーター(直径20メートル)に目をつけた。
「ちょうどいい鍋がありますね」
 彼は海水を魔法で淡水化してクレーターに満たし、ルナに目配せをした。
「姫様、再点火を。今度はトロ火でコトコトと」
「はーい! 温泉くらいの温度ね!」
 ルナが杖を振ると、クレーターの水が適温に温まり始めた。
 そこへ、ネギオがスパイスと謎の植物を投入する。
 水面が黄金色に輝き、複雑で刺激的な香りが立ち昇る。
「さあ、具材の投入だ」
 シュババババッ!!
 ネギオの蔦が高速で動き、焼き上がった巨大イカ、伊勢海老、ホタテを「一口サイズ(といってもドラム缶サイズ)」に解体し、次々と天然の鍋へ放り込んでいく。
 グツグツグツ……。
 巨大なシーフードが、スパイスの海で踊る。
 イカの旨味、エビのコク、ホタテの甘みがスープに溶け出し、渾然一体となっていく。
「仕上げに、ヤシの実のミルクと、私の愛情(マナ)を一搾り」
 数十分後。
 無人島の一角に、**【プール一杯分の特製シーフードカレー】**が完成した。
「……無茶苦茶だ」
 春太は呆然と呟いた。
 目の前にあるのは、料理というより「マグマの池」に見える。
 だが、匂いだけは暴力的までに美味そうだ。
「さあ、虫。味見役の栄誉を与えましょう」
「毒見の間違いだろ……」
 文句を言いながらも、春太は巨大な貝殻(お椀代わり)に盛られたカレーを受け取った。
 スプーンはないので、手頃な木の板ですくって口に運ぶ。
「……いただきます」
 パクり。
 カッッッ!!
 春太の目が見開かれた。
 
 最初はスパイスの強烈なパンチ。次に、濃厚な海鮮の出汁が津波のように押し寄せてくる。
 伊勢海老の味噌のコク、イカの弾力、ホタテの甘み。それらがネギオの謎スパイスで見事に調和し、脳髄を痺れさせるほどの旨味爆弾となって炸裂した。
「う……うめぇぇぇぇぇ!!」
 春太の目から涙が噴き出した。
 美味い。美味すぎる。
 マグロ漁船での粗食、漂流の不安、怪獣への恐怖。それら全てのストレスが、カレーのスパイスと共に汗となって吹き飛んでいく。
「なんだこれ! 店が出せるレベルじゃない! 国が買えるレベルだ!」
「当然です。私の計算に狂いはありません」
 ネギオが鼻を鳴らした、その時。
 ボォォォォォォォ……!!
 沖合から、聞き覚えのある汽笛が聞こえた。
 水平線の彼方から、黒煙を上げて近づいてくる一隻の船。
 『第十八根性丸』だ。
「おーい!! 生きてるか新入りーーッ!!」
 甲板で船長が手を振っている。
 どうやら春太たちが消えた後、必死に捜索してくれていたらしい(あるいはルナという貴賓客を失った責任を恐れて)。
「船長ーーッ!! ここですーーッ!!」
 春太が手を振る。
 船が岸に近づくと、船員たちが鼻をヒクヒクさせながら上陸してきた。
「なんだこの匂いは……!?」
「めちゃくちゃ美味そうな匂いがするぞ!?」
 彼らの目の前に広がる、黄金色のカレーの池。
 そして、山のような巨大シーフードのグリル。
「あ、あんたたち……遭難してたんじゃねえのか!? なんで宴会してんだ!?」
「まあ、細かいことはいいではありませんか」
 ルナがにっこりと微笑み、カレーを差し出した。
「たーんと召し上がれ! おかわりはプール一杯分ありますわよ!」
「うおおおおお! カレーだ! シーフードカレーだぁぁぁ!!」
 海の男たちが歓声を上げ、カレーになだれ込む。
 「うめええ!」「このエビ、プリップリだぞ!」「酒持ってこい酒ェ!!」
 
 無人島の砂浜は、一瞬にして大宴会場と化した。
 春太も、船長と肩を組み、カレーを頬張りながら笑い合った。
「……ははっ。まあ、終わりよければ全て良しか」
 地獄のマグロ漁船も、怪獣バトルも、全てはこの一杯のカレーのためにあったのかもしれない。
 満腹と幸福感に包まれながら、春太は久しぶりに心からの笑顔を見せたのであった。
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