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EP 8
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『災害(ディザスター)パーティー』
ゴボォッ……! ガボボボボッ!!
優太の視界も、聴覚も、思考も、すべてが圧倒的な質量を持った「水」に塗り潰された。
呼吸ができない。上下も分からない。
まるで洗濯機の中に放り込まれたような回転と圧力。
(これが……魔法……!? ふざけんな、これは津波だろ!!)
優太は必死に手を伸ばした。
幸いだったのは、彼が【自動販売機】を召喚していたことだ。
地面に固定された数トンの鉄塊にしがみつくことで、なんとか激流に流されるのだけは免れた。
数秒か、あるいは数分か。
永遠にも感じる時間が過ぎ、轟音が止んだ。
「ぷはぁっ!!」
優太は水面から顔を出した。
そこはもう、さっきまでの森ではなかった。
一面の泥沼。
木々はなぎ倒され、地形が変わっている。
火事は完全に消火されていた。というか、燃えるものごとすべてが押し流されていた。
「……やりやがった」
優太は泥だらけの顔を拭い、震える声で呟いた。
ふと見ると、少し離れた木の枝に、ずぶ濡れのキャルルが引っかかっていた。ウサギ耳がぺしゃんこになっている。
「うぅ……溺れるかと思いました……」
反対側の泥の中からは、イグニスが顔を出した。
「ぶはっ! なんだ今の水は! 俺様はカナヅチなんだぞ! 死ぬかと思ったわ!」
そして。
この惨状の中心で、一人だけ優雅に(自動防御結界のおかげで)濡れていない元凶のエルフが、杖を掲げてキメ顔をしていた。
「ふふん! どうですか優太さん! 完璧な消火活動ですぅ!」
ルナがVサインをする。
優太は無言で泥団子を作り、ルナの綺麗な顔面に全力で投げつけた。
ベチャッ。
「ふぎゃっ!? な、何するんですかぁ!」
「お前は馬鹿か! いや馬鹿だったな! 誰が森ごと沈めろと言った!」
「だってぇ、火は消えましたよぉ?」
「火と一緒に俺たちの命も消えかけたんだよ!」
優太は頭を抱えた。
周囲を見渡す。ゴブリンたちは半数以上が水流に飲まれ、彼方へ流されていったようだ。討伐は完了したと言えるかもしれない。
だが、問題は「被害」だ。
「……おい、これ。報酬より環境破壊の罰金の方が高くつくんじゃないか?」
ギルドの規約には『過度な環境破壊には罰金を科す』とあったはずだ。
森の一区画が更地になり、沼地になっている。
どう言い訳しても、自然災害レベルだ。
「あーあ……俺のG-SHOCK、さようなら……」
優太が絶望に浸っていた、その時だった。
ボコォッ……!
足元の泥沼が、不気味に盛り上がった。
優太の背筋に悪寒が走る。
「……まだ、終わってない?」
ズバァァァン!!
泥飛沫を上げて飛び出してきたのは、先ほどのジェネラル・ゴブリン(ホブゴブリンの上位種)だった。
全身の鎧はひしゃげ、棍棒も流されているが、その生命力は尽きていなかった。
むしろ、手負いの獣のような狂気が、その充血した目に宿っている。
「ギガァァァァァァッ!!」
ジェネラルの標的は、一番近くで身動きが取れなくなっている者。
――泥に足を取られている、キャルルだ。
「しまっ……足が、抜けな……ッ!」
キャルルが焦って泥を掻くが、泥濘(ぬかるみ)は蟻地獄のように彼女の足を拘束している。
ジェネラルが大きく腕を振り上げた。武器はないが、その丸太のような腕で殴られれば、華奢なキャルルの首など容易に折れる。
「キャルル!」
優太が叫ぶ。
距離がある。薙刀(木の棒)では届かない。
イグニスは?
彼は少し離れた場所で、まだ泥から這い出そうともがいている。「クソッ、体が重くて沈む!」と叫んでいる。
ルナは?
彼女は泥団子を投げられたショックでしゃがみ込んで泣いている。今から魔法を撃たせれば、キャルルごと吹き飛ばすのは確実だ。
(俺しかいない)
優太は瞬時に判断した。
走っても間に合わない。
投擲武器――「おでん缶」では、あのアドレナリン全開の怪物を止める威力はない。
確実に、一撃で、急所を破壊する「力」が必要だ。
優太の脳裏に、あの時の記憶が蘇る。
ハワイの射撃場。硝煙の匂い。
そして、ルチアナから貰ったスキルカードの隅に書かれていた、アンロック済みの項目。
『Tier 3:銃火器・弾薬(※高額注意)』
(……金貨、残り十枚。ハンドガンの相場は……金貨五枚!)
足りる。
だが、これを買えば「借金返済」は不可能になる。G-SHOCKは戻らない。明日からの食費もなくなる。
また一文無しの極貧生活だ。
だが。
目の前で、キャルルが恐怖に顔を強張らせている。
あの日、救えなかった命。
今度は、救える力(カネとスキル)が手元にある。
「……安いもんだ」
優太はニヤリと笑った。
彼は迷わず、虚空に手を伸ばした。
「スキル発動! 【ガン・キオスク】!!」
ガシャァン!
優太の目の前に、無骨な黒鉄の自販機が出現した。
並んでいるのはジュースではない。
死を振り撒く、現代の鉄杖たちだ。
「もってけドロボー!!」
優太は全財産の金貨を投入口に叩き込んだ。
ゴボォッ……! ガボボボボッ!!
優太の視界も、聴覚も、思考も、すべてが圧倒的な質量を持った「水」に塗り潰された。
呼吸ができない。上下も分からない。
まるで洗濯機の中に放り込まれたような回転と圧力。
(これが……魔法……!? ふざけんな、これは津波だろ!!)
優太は必死に手を伸ばした。
幸いだったのは、彼が【自動販売機】を召喚していたことだ。
地面に固定された数トンの鉄塊にしがみつくことで、なんとか激流に流されるのだけは免れた。
数秒か、あるいは数分か。
永遠にも感じる時間が過ぎ、轟音が止んだ。
「ぷはぁっ!!」
優太は水面から顔を出した。
そこはもう、さっきまでの森ではなかった。
一面の泥沼。
木々はなぎ倒され、地形が変わっている。
火事は完全に消火されていた。というか、燃えるものごとすべてが押し流されていた。
「……やりやがった」
優太は泥だらけの顔を拭い、震える声で呟いた。
ふと見ると、少し離れた木の枝に、ずぶ濡れのキャルルが引っかかっていた。ウサギ耳がぺしゃんこになっている。
「うぅ……溺れるかと思いました……」
反対側の泥の中からは、イグニスが顔を出した。
「ぶはっ! なんだ今の水は! 俺様はカナヅチなんだぞ! 死ぬかと思ったわ!」
そして。
この惨状の中心で、一人だけ優雅に(自動防御結界のおかげで)濡れていない元凶のエルフが、杖を掲げてキメ顔をしていた。
「ふふん! どうですか優太さん! 完璧な消火活動ですぅ!」
ルナがVサインをする。
優太は無言で泥団子を作り、ルナの綺麗な顔面に全力で投げつけた。
ベチャッ。
「ふぎゃっ!? な、何するんですかぁ!」
「お前は馬鹿か! いや馬鹿だったな! 誰が森ごと沈めろと言った!」
「だってぇ、火は消えましたよぉ?」
「火と一緒に俺たちの命も消えかけたんだよ!」
優太は頭を抱えた。
周囲を見渡す。ゴブリンたちは半数以上が水流に飲まれ、彼方へ流されていったようだ。討伐は完了したと言えるかもしれない。
だが、問題は「被害」だ。
「……おい、これ。報酬より環境破壊の罰金の方が高くつくんじゃないか?」
ギルドの規約には『過度な環境破壊には罰金を科す』とあったはずだ。
森の一区画が更地になり、沼地になっている。
どう言い訳しても、自然災害レベルだ。
「あーあ……俺のG-SHOCK、さようなら……」
優太が絶望に浸っていた、その時だった。
ボコォッ……!
足元の泥沼が、不気味に盛り上がった。
優太の背筋に悪寒が走る。
「……まだ、終わってない?」
ズバァァァン!!
泥飛沫を上げて飛び出してきたのは、先ほどのジェネラル・ゴブリン(ホブゴブリンの上位種)だった。
全身の鎧はひしゃげ、棍棒も流されているが、その生命力は尽きていなかった。
むしろ、手負いの獣のような狂気が、その充血した目に宿っている。
「ギガァァァァァァッ!!」
ジェネラルの標的は、一番近くで身動きが取れなくなっている者。
――泥に足を取られている、キャルルだ。
「しまっ……足が、抜けな……ッ!」
キャルルが焦って泥を掻くが、泥濘(ぬかるみ)は蟻地獄のように彼女の足を拘束している。
ジェネラルが大きく腕を振り上げた。武器はないが、その丸太のような腕で殴られれば、華奢なキャルルの首など容易に折れる。
「キャルル!」
優太が叫ぶ。
距離がある。薙刀(木の棒)では届かない。
イグニスは?
彼は少し離れた場所で、まだ泥から這い出そうともがいている。「クソッ、体が重くて沈む!」と叫んでいる。
ルナは?
彼女は泥団子を投げられたショックでしゃがみ込んで泣いている。今から魔法を撃たせれば、キャルルごと吹き飛ばすのは確実だ。
(俺しかいない)
優太は瞬時に判断した。
走っても間に合わない。
投擲武器――「おでん缶」では、あのアドレナリン全開の怪物を止める威力はない。
確実に、一撃で、急所を破壊する「力」が必要だ。
優太の脳裏に、あの時の記憶が蘇る。
ハワイの射撃場。硝煙の匂い。
そして、ルチアナから貰ったスキルカードの隅に書かれていた、アンロック済みの項目。
『Tier 3:銃火器・弾薬(※高額注意)』
(……金貨、残り十枚。ハンドガンの相場は……金貨五枚!)
足りる。
だが、これを買えば「借金返済」は不可能になる。G-SHOCKは戻らない。明日からの食費もなくなる。
また一文無しの極貧生活だ。
だが。
目の前で、キャルルが恐怖に顔を強張らせている。
あの日、救えなかった命。
今度は、救える力(カネとスキル)が手元にある。
「……安いもんだ」
優太はニヤリと笑った。
彼は迷わず、虚空に手を伸ばした。
「スキル発動! 【ガン・キオスク】!!」
ガシャァン!
優太の目の前に、無骨な黒鉄の自販機が出現した。
並んでいるのはジュースではない。
死を振り撒く、現代の鉄杖たちだ。
「もってけドロボー!!」
優太は全財産の金貨を投入口に叩き込んだ。
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