異世界で【自動販売機】のスキルを貰ったので、外科医の知識と銃火器で無双しようとしたら、仲間が破壊神ばかりで借金生活が確定した件

月神世一

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EP 13

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『商戦! コーラ vs 最高級ワイン』
​ 翌日。
 オルトの街は、うだるような暑さに包まれていた。
 真夏日だ。石畳からの照り返しが容赦なく体力を奪っていく。
​ そんな中、市場の一等地に陣取った優太たちの屋台の前に……客は一人もいなかった。
​「……優太、誰も来ねぇぞ。暇すぎて腹が減った」
「優太さん、向こうが凄いですぅ」
​ イグニスとルナが指差す先。
 優太の屋台の真横に、巨大なテントが設営されていた。
 そこには『ゴルド商会』の紋章旗が掲げられ、数十人のスタッフが声を張り上げている。
​「さあさあ、いらっしゃい! ゴルド商会からの日頃の感謝を込めた大盤振る舞いだ!」
「当店自慢の『最高級赤ワイン』と、具だくさんの『特製ビーフシチュー』! なんと全品無料(タダ)だよ!」
​ 無料。
 その甘美な響きに、市場の客は根こそぎ奪われていた。
 優太の「スパイス串焼き(500円)」など、見向きもされない。
​「くそっ、えげつないな……」
​ 優太は歯噛みした。
 これは「ダンピング(不当廉売)」どころの話ではない。資金力に物を言わせた、完全な営業妨害だ。
 こちらの資金が尽きるまで無料で配り続け、優太が潰れた後に独占価格に戻す気だろう。
​「優太さん……どうしましょう。これじゃ、今日中に干上がっちゃいます」
​ キャルルが不安げに眉を下げる。
 テントの方からは、ベイルの部下たちがこちらを見て嘲笑っているのが見えた。
​ だが。
 優太は、滴り落ちる汗を拭いながら、不敵に笑った。
​「いや、勝機はある」
​ 優太は空を見上げた。
 雲ひとつない青空。燦々と降り注ぐ太陽。
 気温は35度を超えているだろう。
​「向こうのミスは、天候を読まなかったことだ。……こんな炎天下で、常温の赤ワインと熱々のシチューなんて、拷問でしかない」
​ 実際、無料につられて並んだ客たちの顔色は悪かった。
 汗だくになりながら熱いシチューを啜り、生ぬるくなったワインを流し込む。最初は喜んでいたが、次第に口の中がベタつき、喉の乾きが増していく悪循環。
​「今こそ、文明の利器を見せる時だ」
​ 優太は自販機(テーブルの下に隠してある)を操作した。
 購入したのは、【瓶コーラ(190ml)】。
 そして、【ロックアイス(氷)】。
​「キャルル、看板を書き換えろ! イグニス、客前でこれを飲んでみせろ!」
​ 優太は、キンキンに冷えて水滴がついたコーラの瓶を、イグニスに手渡した。
​「おう! 待ってましたァ!」
​ イグニスは屋台の前に仁王立ちし、栓抜きで「シュポッ!」と小気味よい音を立てて栓を抜いた。
 そして、ラッパ飲みする。
​ トクトクトク……ッ!
 プハァァァァァッ!!
​「うめぇぇぇぇッ!! 冷えてやがる! 脳みそまで凍るような冷たさだァ!」
​ イグニスの絶叫と、その美味そうな顔。
 そして何より、瓶の表面を伝う**「冷気」と「水滴」**。
 その視覚情報は、熱中症寸前の群衆にとって、どんな魔法よりも魅力的だった。
​「お、おい見ろよ……あの瓶、冷えてるぞ?」
「氷魔法か? まさか、この炎天下で?」
「シチューなんか食ってる場合じゃねぇ! 喉が、喉が焼けるほど冷たいモンを欲してやがる!」
​ 一人が列を離れた。
 それを皮切りに、雪崩(なだれ)が起きた。
​「兄ちゃん! それくれ! いくらだ!」
「一本、銀貨一枚(1000円)だ! 高いが、その価値はあるぞ!」
​ 優太は強気の価格設定をした。
 自販機の原価は100円ほどだが、この世界での「氷」と「冷たい飲料」の価値は計り知れない。
​「銀貨一枚!? くそっ、高いが……背に腹は代えられねぇ! くれ!」
「俺もだ! 生き返らせてくれ!」
​ チャリン、チャリン、チャリン!
 飛ぶように売れる。
 優太は次々と自販機からコーラ、サイダー、ファンタを出しまくる。
​「くっ……! 冷たい! 喉が弾ける!」
「甘い! なんだこのシュワシュワする黒い水は! 悪魔的な美味さだ!」
​ 市場は一変した。
 ゴルド商会のテントは閑古鳥が鳴き、優太の屋台には黒山の人だかりができた。
 なんと、ゴルド商会のスタッフまでもが、こっそりと制服を脱いで買いに来る始末だ。
​「よし……勝った」
​ 優太が勝利を確信した時。
 テントの裏で、暇を持て余していたルナが、ポヤッとした顔でゴルド商会のワイン樽を見つめていた。
​「皆さん、あんな渋いお酒より、甘いジュースの方が好きみたいですねぇ……」
​ 彼女の純粋な善意(おせっかい)が発動した。
​「よし! 私が美味しくしてあげましょう! 錬金魔法・物質変換――【葡萄還元(グレープ・リターン)】!」
​ ルナが杖を振ると、山積みになっていた最高級ワインの樽が、淡い光に包まれた。
 数分後。
​「おい! こっちのワインも配れ! 客を取り戻すんだ!」
​ 焦ったゴルド商会の責任者が、ワインを客に振る舞った。
 だが。
​「……ん? これ、ただの葡萄ジュースじゃねぇか?」
「はぁ? 酒ですらないぞ! 子供だましもいい加減にしろ!」
「詐欺だ! ゴルド商会は腐ったジュースを最高級ワインと言って配ってるぞ!」
​ 客たちが激怒してグラスを投げ捨てる。
 責任者は顔面蒼白で樽の中身を確認し、絶叫した。
 アルコールが完全に抜け、ただの甘ったるい果汁に変わっていたのだ。
​「ど、どうなってるんだぁぁぁ!?」
​ 大混乱に陥るゴルド商会のテント。
 それを見て、ルナは優太の元へ駆け寄り、エッヘンと胸を張った。
​「優太さん! 向こうのお酒、全部ジュースに変えてあげましたよ! これでお子様も安心ですぅ!」
「……お前、マジで何してんの?」
​ 優太は戦慄した。
 営業妨害どころか、商品価値の完全破壊。
 ゴルド商会の信用は地に落ちた。
​ ***
​ 夕方。
 完売御礼で店じまいをする優太たちを、遠くから見つめる影があった。
 ベイルだ。
 彼は手にしたワイングラス(中身はジュース)を、握りつぶした。
 パリンッ。
 赤い液体が、血のように手から滴り落ちる。
​「……よろしい。経済戦争で勝てぬと言うなら、やり方を変えるだけだ」
​ ベイルは背後に控える闇に向かって、静かに命じた。
​「『掃除屋』を呼べ。……あの小僧と、あのふざけたエルフ。そして――」
​ 彼の視線が、楽しそうに笑うキャルルに向けられた。
​「あのウサギは『商品』だ。傷つけずに回収しろ。……今夜中にだ」
​ 商人の仮面が剥がれ落ち、殺意が露わになる。
 冷たいコーラで祝杯をあげる優太たちに、本物の闇が迫っていた。
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