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番外編:幼い日の記憶 〜二人の出会いの物語〜
10.背中
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クリスティーナが動けずにいるうちに、辺りは真っ暗になってしまった。森の暗さは、屋敷の中の暗さとは比べものにならない。クリスティーナが初めて知る暗さでも怖くなかったのは、ラピスラズリのような青い瞳のおかげかもしれない。
【なぁ、帰らないのか?】
青龍が青い瞳でクリスティーナを見つめながら聞いてくる。
「暗くなったから、そのうちお父様が迎えに来てくれるわ」
クリスティーナは一歩も動けそうになくて、そんなふうに伝える。初めて会った相手に対する精一杯の強がりだ。ただ、クリスティーナを置いて帰って良いとは嘘でも言えない。
【本当に来てくれるのか?】
「大丈夫よ。きっと」
青龍はさっきから困ったような顔をしている。唸り声が何かの力で人の声に変換されていること以外は、人間と話しているのと変わらない。
【近づいて良いなら、俺が……危ない! 後ろ!】
青龍が突然叫ぶのでクリスティーナは振り返る。左目から血を流した熊の魔獣がこちらに真っ直ぐ向かってきていた。クリスティーナと戦っていた魔獣で間違いない。
殺される……
クリスティーナは魔法を放つ余裕もなく、ただ目を瞑って痛みを待った。ここで死ぬのだ。そう覚悟したとき、温かい何かに包まれる。
【ウッ……】
ギャァァァ
青龍の押し殺したような声のあとに、魔獣の悲痛な叫び声が聞こえてクリスティーナは目を開ける。青龍が熊の魔獣に背を向けて、クリスティーナを抱きしめていた。
【だ、大丈夫か?】
「うん、私は大丈夫。でも……」
青龍はどうやって熊の攻撃を止めたのか。それはクリスティーナを抱きしめる姿を見れば、聞かなくても明らかだった。
【俺は平気だ。すぐ終わるから、そこを動かないで】
青龍は熊の魔獣に身体を向けて、氷の刃を口から吐き出す。クリスティーナから見える青龍の背中には、痛々しい熊の爪痕が4本くっきりとついていた。
血で濡れた地面に目を移すと、熊のものと思われる爪が落ちている。青龍の鱗に途中で負けたのだろう。
【よし、もう大丈夫だぞ】
熊の魔獣は青龍の氷の刃でなすすべもなく倒れた。青龍の怪我は、クリスティーナがいなければ負わなかったものだ。
クリスティーナは青龍の背中に左手をおいて、残り少ない魔力をすべて治癒魔法に変えて注ぎ込む。血は止まり傷は塞がったが、きれいな青い鱗は剥がれ落ち、元には戻らなかった。
「ごめんなさい……」
クリスティーナは謝りながら、その場に崩れ落ちるように倒れ込む。もう、座っている力も残っていない。少しでも恩人の怪我を癒せたならそれで良い。
【おい、しっかりしろよ】
「だい……じょうぶ。おとう……さまが……」
【そんなの待っていられるかよ。家はどこ? 名前は? 俺が送ってってやるから、しっかりしろ!】
青龍がクリスティーナを必死で揺すってくれているが、目を開けるのも億劫だ。
「ク……ティー……ナよ。うちのばしょは……みんなが……しってるわ」
【ティーナ、しっかりしろ! みんなって誰だよ!】
青龍がそう言いながら抱き上げてくれるので、クリスティーナはもふもふしたお腹が気持ちよくて、ますます眠くなってくる。絶対的に強い者に守られている安心感がさらに気持ちを緩ませた。
「まりょくを……つかいすぎただけ……ねむれば……だいじょうぶ」
【何言ってるんだよ。血だらけのくせに!】
青龍はクリスティーナを抱えたまま走り出す。ほとんど揺れないのは、クリスティーナを揺すらないように気をつけてくれているからだろう。
「ちがう……けがは……なおって……る」
【ごめん、ティーナ。俺、焦ってて。こんなにひどい怪我をしてるなんて気づかなかったんだ。強引にでも連れて帰るべきだったのに】
青龍はパニックになっているのか、クリスティーナの言葉がそのまま伝わらない。何とかしてあげたいのに、クリスティーナも限界だった。
「すこし……だけ……ねむるね」
クリスティーナはそれだけ言って、そのまま意識を手放した。
【ティーナ! ティーナ! 目を開けろ! 怪我なんかせずに助けられたら、抱き上げて飛べたのに! 俺が弱いせいで、ティーナが! 父上、助けて! 俺の番が死んじゃう!!】
青龍の泣き叫ぶような声は、眠ってしまったクリスティーナには聞こえていなかった。
【なぁ、帰らないのか?】
青龍が青い瞳でクリスティーナを見つめながら聞いてくる。
「暗くなったから、そのうちお父様が迎えに来てくれるわ」
クリスティーナは一歩も動けそうになくて、そんなふうに伝える。初めて会った相手に対する精一杯の強がりだ。ただ、クリスティーナを置いて帰って良いとは嘘でも言えない。
【本当に来てくれるのか?】
「大丈夫よ。きっと」
青龍はさっきから困ったような顔をしている。唸り声が何かの力で人の声に変換されていること以外は、人間と話しているのと変わらない。
【近づいて良いなら、俺が……危ない! 後ろ!】
青龍が突然叫ぶのでクリスティーナは振り返る。左目から血を流した熊の魔獣がこちらに真っ直ぐ向かってきていた。クリスティーナと戦っていた魔獣で間違いない。
殺される……
クリスティーナは魔法を放つ余裕もなく、ただ目を瞑って痛みを待った。ここで死ぬのだ。そう覚悟したとき、温かい何かに包まれる。
【ウッ……】
ギャァァァ
青龍の押し殺したような声のあとに、魔獣の悲痛な叫び声が聞こえてクリスティーナは目を開ける。青龍が熊の魔獣に背を向けて、クリスティーナを抱きしめていた。
【だ、大丈夫か?】
「うん、私は大丈夫。でも……」
青龍はどうやって熊の攻撃を止めたのか。それはクリスティーナを抱きしめる姿を見れば、聞かなくても明らかだった。
【俺は平気だ。すぐ終わるから、そこを動かないで】
青龍は熊の魔獣に身体を向けて、氷の刃を口から吐き出す。クリスティーナから見える青龍の背中には、痛々しい熊の爪痕が4本くっきりとついていた。
血で濡れた地面に目を移すと、熊のものと思われる爪が落ちている。青龍の鱗に途中で負けたのだろう。
【よし、もう大丈夫だぞ】
熊の魔獣は青龍の氷の刃でなすすべもなく倒れた。青龍の怪我は、クリスティーナがいなければ負わなかったものだ。
クリスティーナは青龍の背中に左手をおいて、残り少ない魔力をすべて治癒魔法に変えて注ぎ込む。血は止まり傷は塞がったが、きれいな青い鱗は剥がれ落ち、元には戻らなかった。
「ごめんなさい……」
クリスティーナは謝りながら、その場に崩れ落ちるように倒れ込む。もう、座っている力も残っていない。少しでも恩人の怪我を癒せたならそれで良い。
【おい、しっかりしろよ】
「だい……じょうぶ。おとう……さまが……」
【そんなの待っていられるかよ。家はどこ? 名前は? 俺が送ってってやるから、しっかりしろ!】
青龍がクリスティーナを必死で揺すってくれているが、目を開けるのも億劫だ。
「ク……ティー……ナよ。うちのばしょは……みんなが……しってるわ」
【ティーナ、しっかりしろ! みんなって誰だよ!】
青龍がそう言いながら抱き上げてくれるので、クリスティーナはもふもふしたお腹が気持ちよくて、ますます眠くなってくる。絶対的に強い者に守られている安心感がさらに気持ちを緩ませた。
「まりょくを……つかいすぎただけ……ねむれば……だいじょうぶ」
【何言ってるんだよ。血だらけのくせに!】
青龍はクリスティーナを抱えたまま走り出す。ほとんど揺れないのは、クリスティーナを揺すらないように気をつけてくれているからだろう。
「ちがう……けがは……なおって……る」
【ごめん、ティーナ。俺、焦ってて。こんなにひどい怪我をしてるなんて気づかなかったんだ。強引にでも連れて帰るべきだったのに】
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【ティーナ! ティーナ! 目を開けろ! 怪我なんかせずに助けられたら、抱き上げて飛べたのに! 俺が弱いせいで、ティーナが! 父上、助けて! 俺の番が死んじゃう!!】
青龍の泣き叫ぶような声は、眠ってしまったクリスティーナには聞こえていなかった。
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