【完結】婚約者が竜騎士候補に混ざってる

五色ひわ

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番外編:幼い日の記憶 〜二人の出会いの物語〜

11.婚約者

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 クリスティーナは翌日、自分のベッドで目を覚ました。眠ってしまったので詳細は分からないが、探しに来たドリコリン伯爵により救助されたらしい。

「お父様、申し訳ありませんでした」

「ティナが無事ならそれで良いよ」

 伯爵がまったく叱ってくれなかったことで、クリスティーナは逆に反省した。伯爵は自分自身を責めているようで、どんなに忙しくてもなるべく夜は屋敷に帰ってくるようになった。それは、クリスティーナが普通の生活を送れるようになってからも続いている。

 クリスティーナを助けてくれた小さな青龍は、伯爵の相棒である青龍の息子だという。お礼を伝えたいと言ったら、伯爵が微妙な顔をしながら『代わりに伝えておく』と引き受けてくれた。

 龍が喋ることは、竜騎士や特別な人間しか知らない秘密らしい。クリスティーナも小さな青龍と話した記憶は、自分だけの大切な宝物として心の中に隠しておくことにした。

「ティナ、おはよう。体調はどうだ?」

 クリスティーナが食堂に降りていくと、先に食事をしていたガスパールがわざわざ立ち上がってそばまでやってくる。王都で騎士学校に通っているガスパールは、クリスティーナの怪我を知って休学してしまった。

 クリスティーナの自分勝手な行動のせいで大事になってしまって申し訳ない。青龍が助けに来なければ、どうなっていたかを考えると、王都に帰れとも強く言えなかった。

「問題ないわ。もう治ったって昨日も言ったでしょ?」

 クリスティーナはそう言いながらも、ガスパールが額に手を当てて熱を測るのを止められない。

 クリスティーナは10日ほど療養する必要はあったが、今は後遺症もなく元気に暮らしている。熱があったのは、ガスパールが戻ってくる前の2日間だけだ。

 今日の診察で問題がなければ、護身術の練習も再開して良いと言われている。ガスパールはそうなっても日課として続けそうだ。

「大丈夫そうだな」

 ガスパールはそう言うと、恭しくエスコートしてクリスティーナを椅子に座らせる。こういう令嬢らしい扱いにも慣れなければいけないのだろうか。ドリコリン伯爵家は武の家系なので、今まではこんな扱いをされたことがない。

 クリスティーナは戸惑いに満ちたまま、朝食を終えた。



 その日の夜、伯爵は珍しく早く帰ってきて、クリスティーナを書斎に呼び出した。今日の診察で健康そのものだと言われ、伯爵にも医師から説明があったはずだ。全快のお墨付きを得たクリスティーナは、いよいよ叱られるのではないかと身構える。

「ティナ。君の婚約が決まったよ」

「婚約ですか!?」

 予想外の言葉にクリスティーナは驚いて大きな声を出す。普通の貴族令嬢なら、婚約者がいてもおかしくないが、辺境に近い地域の者はそうではない。母が亡くなってからは、お茶会にだって行っていないし、貴族らしさは家庭教師にしか披露していない。そんなクリスティーナを婚約者に選ぶのは、どんな人だろう。

「私も本当は断りたかったんだがね」

「……」

 伯爵はなんとも言えない表情をしている。名門伯爵家の当主が断れない相手とは誰だろう。クリスティーナは相手を聞くのが恐ろしくなってくる。

「怖がらせてすまない。ちゃんと、ティナを大切にしてくれる相手だから安心して良いよ」

「えっと……」

「相手はヴェロキラ辺境伯の跡取り息子だ。ティナと同い年だよ。近々顔合わせの予定だから、そのつもりでいなさい」

 ヴェロキラ辺境伯家とは、辺境の魔獣から国を守っている家系だ。当主の辺境伯はドリコリン伯爵の親友でもある。竜騎士の本拠地も辺境伯領にあるし、この婚約は家同士の関係を強化するのが目的だろう。

 魔獣災害に龍を借りたせいで断りにくくなったのだろうか。あるいはクリスティーナがこんなことをしでかしたせいだろうか。婚約者がいれば、相手の意向で自由が制限される。クリスティーナが今まで通り出かけることは出来なくなるだろう。

「ティナ?」

「大丈夫です」

 クリスティーナはいろいろな疑問を飲み込んで返事をする。どちらにしろ、もう無茶をして家族を悲しませるつもりはない。

 婚約者になるのはどんな人だろう。クリスティーナは嫌われることのないよう、令嬢らしくなる努力をしようと心の中で誓った。
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