【完結】婚約者が竜騎士候補に混ざってる

五色ひわ

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番外編:幼い日の記憶 〜二人の出会いの物語〜

17.護衛騎士の実力

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 ブルクハルトが少年たちを引き連れて空き地の方に歩いていく。クリスティーナはその姿を頼もしく見つめていた。

「姫様。参加されないなら、一緒に見学しませんか?」

「ティナ姉ちゃん。私の隣に座って!」

 クリスティーナが振り返ると、孤児院の女の子たちが建物の前のベンチに集まっていた。クリスティーナは手招きに応じて、一番小さい女の子の隣に座る。

 クリスティーナと同世代の子たちは、手に包丁や野菜を持っている。仕事をしながら見学するようだ。よく考えれば、孤児院の女の子の輪に加わるのは初めてだ。

「姫様が来ると、いつも皆で見学しているんですよ」

「模擬戦に夢中で気づかなかったわ」

 小さな子は桶で野菜を洗い、流れ作業で野菜が切られていく。みんな手慣れているので、毎日行っているのだろう。

「始まりそうですよ」

 言われて空き地に視線を戻すと、ブルクハルトが少し年下の少年三人と剣を向けあっていた。順々に踏み込んでくる少年たちを丁寧に弾き飛ばしている。青龍の姿でなくてもブルクハルトは強いらしい。よく訓練していると分かるブルクハルトの動きは洗練されていて美しい。

「三人同時に向かっていけば良いのに」

 クリスティーナは模擬戦を見ているだけだと、誰にでもなく言い訳するようにダメ出しをする。どうしても、気を抜くとブルクハルトだけを目で追ってしまう。

「ティナ姉ちゃんのお友達って強いのね」

「姫様の友達じゃなくて、『コンヤクシャ』って言うのよ」

「コンヤクシャって何?」

 得意げに言った子も意味は知らないようで、クリスティーナに視線が集まる。満面の笑みでこちらを見ている子は、たぶん意味を知っているのだろう。

「将来、結婚する約束をした相手のことよ」

 クリスティーナは顔を真っ赤にしながら言う。

 みんなの視線が恥ずかしくて空き地に視線を戻すと、模擬戦の相手は年下の少年からブルクハルトよりも体格の良い近所の子に代わっていた。それでもブルクハルトがあらゆる点で圧倒している。

「結婚……ティナ姉ちゃんの王子様ってこと?」

「そ、そうよ」

 剣術でも圧倒的な強さを誇るブルクハルトが、クリスティーナの未来の旦那様になる。自分以外の人に言われると、更に実感が湧いてくる。クリスティーナは火照った頬に手を当てて魔法で冷やした。

「ティナ……、それって本当か? あいつと婚約したのか?」

「う、うん」

 いつの間にかトーマが近くにいて、驚いた様子で聞いてくる。他の子たちは知っていたようだが、トーマはこういう話に疎いのかもしれない。

「話にも出てきたことのないような知らない男と婚約?」

 トーマが不機嫌そうにブツブツ言うので、クリスティーナは首を傾げる。

「トーマ? ハルト様はヴェロキラ辺境伯の御子息よ。隣の領地の名前くらいは知ってるでしょ?」

「辺境伯様の息子……」

 トーマは呟くように言って、空き地にいるブルクハルトたちの方へと突然走り出す。

「ちょっと、トーマ!? ……どうしたのかしら?」

「姫様が気にすることじゃないですよ。そういうお年頃なんです」

 クリスティーナがハラハラしながら眺めていると、トーマはブルクハルトに何やら言っている。喧嘩を吹っ掛けているようで心配になったが、すぐに模擬剣を持って向かい合ったので模擬戦を挑んだだけのようだ。クリスティーナは止めに入るのをやめて、もう一度座り直す。

「あーあ。無謀な挑戦をするみたい。今日の様子を見てれば勝ち目はないって分かるはずなのに……」

 少女の一人が大袈裟にため息をつく。 

「そうかしら? トーマは小さい頃から冒険者だったお父様に鍛えられていたみたいだし、無謀ってほどでもないと思うわ。きっと、ハルト様と戦えば良い経験になるはずよ」

「そ、そうですね……」

 クリスティーナは自信を持って言ったが、数人に呆れたような視線を向けられた。理由を聞きたかったが、ドスンと大きな音がして、そちらに意識が持っていかれる。音の原因はブルクハルトに弾き飛ばされたトーマだったようだ。

「手加減しないとこうなるのね」

 誰かが呆れたように言う。ブルクハルトは他の子を相手にしたときより遠慮なく剣を振るっている。トーマの実力を認めているのかもしれない。対するトーマも諦めずに何度もブルクハルトに向かっていた。 

 睨むようにトーマを見るブルクハルトの引き締まった表情が格好良い。クリスティーナは、そればっかり気になって戦いに集中できなかった。

「姫様が婚約者様に大切にされているみたいで安心しました」

「うん? そうね。いつも優しくしてもらってるわ。何も返せてなくて心苦しいくらい」

 模擬戦とクリスティーナを大切にすることがどう繋がったのだろう。クリスティーナは戦う二人を見ながら考える。

「姫様が幸せそうで良かったです」

「ありがとう」

 少女の言葉に皆が同意するように微笑んでくれている。祝福してもらえるとやっぱり嬉しい。頭に浮かんでいた小さな疑問は、皆と話しているうちにすっかり忘れてしまった。
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