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番外編:幼い日の記憶 〜二人の出会いの物語〜
18.親しい関係
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模擬戦が一段落すると、クリスティーナはブルクハルトと共に孤児院を後にした。当然のように握られた手が、クリスティーナを幸せな気持ちにさせてくれる。
もちろん、ブルクハルトに勝てた者はおらず、クリスティーナは剣を握っていない。
「ハルト様。とっても強いんですね。格好良かったです」
「そ、そうか……」
ブルクハルトはクリスティーナが褒めても一瞬嬉しそうな顔をしただけで、固い表情に戻ってしまう。不思議に思って見ていると、ブルクハルトも繋いだ手に力を入れてクリスティーナを見つめてくる。綺麗な瞳に探るように見られて、なんだか居心地が悪い。
「ハルト様?」
「一つ聞いても良いか?」
「は、はい」
「トーマとかいう男はティーナの何なんだ? ティーナのことを呼び捨てにしてただろう?」
ブルクハルトが予想外のことを聞いてくるので、クリスティーナは首を傾げる。確かにトーマは、初日に喧嘩をしたせいか『姉ちゃん』と呼んでくれていない。クリスティーナは大して気にしていなかったので、『何なんだ?』と聞かれても正直困る。
「……強いて言うなら弟分でしょうか。今日はちょっとおかしかったですけど、普段は良い子なんですよ」
「弟分?」
「はい! 今日も小麦粉を頑張って運んでくれたんですよ。まだ子供なので重そうでしたけど、どうしてもお手伝いがしたかったみたいなんです。かわいいでしょ」
クリスティーナはトーマを一生懸命擁護する。ブルクハルトの心象はあまり良くないようだが、トーマは初めて会う相手に緊張して失敗しただけかもしれない。今日一日だけで嫌われたら可愛そうだ。きっと、トーマも強くてカッコいいブルクハルトにもう一度会って再戦したいと思っているはずだ。
「子供、お手伝い、かわいい……そうか。それなら、もちろんティーナにとっては弟分より婚約者の方が親しい関係なんだよな?」
「えっ? えっと……、そうだと嬉しいです」
ブルクハルトが真剣な表情で聞いてくるので、クリスティーナは赤くなる。ラピスラズリのような美しい瞳を避けるように俯いた。
「じゃあ、そろそろ『ハルト様』って呼ぶのはやめろ。他人行儀だろう? 敬語だっていらない」
「良いのですか?」
クリスティーナが驚いて顔をあげると、ブルクハルトは不満そうな顔をした。
「ティーナ?」
「えっと……良いの?」
クリスティーナは戸惑いながら言い直す。ブルクハルトが嬉しそうに頬を緩めたので正解らしい。
「大人になって王都のパーティに出るときだけ気をつけてくれれば良い。俺の家族も、その方が仲良くやってるって喜ぶと思うぞ」
「そうなの? じゃあ、そうさせてもらうね」
「ああ」
クリスティーナがぎこちなく言ってブルクハルトを見ると、少し恥ずかしそうに微笑まれた。二人で照れながら、しばらく黙って歩く。
「「……」」
クリスティーナはブルクハルトの横顔をチラリと盗み見た。今日はクリスティーナが連れ回してしまったが、ブルクハルトはどんなふうに感じたのだろう。孤児院への奉仕は大事なことだが、クリスティーナの行動は普通の令嬢が行うものとはかなり異なっている。
貴族令嬢には自由が少ない。婚約した以上、ブルクハルトの意に沿わないことはするべきではない。クリスティーナが聞くべきか悩んていると、不意にこちらを見たブルクハルトと視線がかち合った。
「どうした?」
「ハルト様……えっと、ハルト。これからも私、孤児院に通って良い?」
「もちろんだ。俺にそんなことを聞く必要はないぞ。俺はティーナの行動を制限したりしない」
優しいブルクハルトの瞳を見れば、心の底からそう思ってくれていると分かる。
「私が街でウロウロしたら、ハルトの評判が悪くなるかもしれないわよ」
クリスティーナは念押しするように聞いた。クリスティーナはブルクハルトの優しさに甘えて、足を引っ張りたくはない。
「なるほど、俺のことを考えてくれたのか。ありがとう。でも、ヴェロキラ辺境伯家に対して意見を言える者はそういないから心配するな。身内に関しては王都の小難しい慣習を知る者も少ない」
「そうなの?」
ブルクハルトはクリスティーナの疑問に恥ずかしそうに笑う。ドリコリン伯爵家も貴族の社交に積極的ではないが、ブルクハルトの話を聞くと辺境伯家はそれ以上のようだ。ブルクハルトの母が平民出身であることもあり、辺境伯は王都のパーティにも数年に一度しか参加していないらしい。
「ヴェロキラ辺境伯家は大抵のことは免除されている。辺境の魔獣の危険に晒され、それを退け続ける責務があるからな」
伯爵領にいる魔獣と辺境の結界の外にいる魔獣では、赤子と成人くらいの力の差があると聞く。ブルクハルトの決意に満ちた顔を見ると少しだけ不安になった。
「ティーナ?」
「何でもありません。大丈夫よ」
クリスティーナは慌てて笑顔を作る。
「とにかく、ティーナはティーナのままでいてくれれば良いよ」
ブルクハルトは心配そうな顔をして、励ますようにクリスティーナの手を強く握り直してくれた。
もちろん、ブルクハルトに勝てた者はおらず、クリスティーナは剣を握っていない。
「ハルト様。とっても強いんですね。格好良かったです」
「そ、そうか……」
ブルクハルトはクリスティーナが褒めても一瞬嬉しそうな顔をしただけで、固い表情に戻ってしまう。不思議に思って見ていると、ブルクハルトも繋いだ手に力を入れてクリスティーナを見つめてくる。綺麗な瞳に探るように見られて、なんだか居心地が悪い。
「ハルト様?」
「一つ聞いても良いか?」
「は、はい」
「トーマとかいう男はティーナの何なんだ? ティーナのことを呼び捨てにしてただろう?」
ブルクハルトが予想外のことを聞いてくるので、クリスティーナは首を傾げる。確かにトーマは、初日に喧嘩をしたせいか『姉ちゃん』と呼んでくれていない。クリスティーナは大して気にしていなかったので、『何なんだ?』と聞かれても正直困る。
「……強いて言うなら弟分でしょうか。今日はちょっとおかしかったですけど、普段は良い子なんですよ」
「弟分?」
「はい! 今日も小麦粉を頑張って運んでくれたんですよ。まだ子供なので重そうでしたけど、どうしてもお手伝いがしたかったみたいなんです。かわいいでしょ」
クリスティーナはトーマを一生懸命擁護する。ブルクハルトの心象はあまり良くないようだが、トーマは初めて会う相手に緊張して失敗しただけかもしれない。今日一日だけで嫌われたら可愛そうだ。きっと、トーマも強くてカッコいいブルクハルトにもう一度会って再戦したいと思っているはずだ。
「子供、お手伝い、かわいい……そうか。それなら、もちろんティーナにとっては弟分より婚約者の方が親しい関係なんだよな?」
「えっ? えっと……、そうだと嬉しいです」
ブルクハルトが真剣な表情で聞いてくるので、クリスティーナは赤くなる。ラピスラズリのような美しい瞳を避けるように俯いた。
「じゃあ、そろそろ『ハルト様』って呼ぶのはやめろ。他人行儀だろう? 敬語だっていらない」
「良いのですか?」
クリスティーナが驚いて顔をあげると、ブルクハルトは不満そうな顔をした。
「ティーナ?」
「えっと……良いの?」
クリスティーナは戸惑いながら言い直す。ブルクハルトが嬉しそうに頬を緩めたので正解らしい。
「大人になって王都のパーティに出るときだけ気をつけてくれれば良い。俺の家族も、その方が仲良くやってるって喜ぶと思うぞ」
「そうなの? じゃあ、そうさせてもらうね」
「ああ」
クリスティーナがぎこちなく言ってブルクハルトを見ると、少し恥ずかしそうに微笑まれた。二人で照れながら、しばらく黙って歩く。
「「……」」
クリスティーナはブルクハルトの横顔をチラリと盗み見た。今日はクリスティーナが連れ回してしまったが、ブルクハルトはどんなふうに感じたのだろう。孤児院への奉仕は大事なことだが、クリスティーナの行動は普通の令嬢が行うものとはかなり異なっている。
貴族令嬢には自由が少ない。婚約した以上、ブルクハルトの意に沿わないことはするべきではない。クリスティーナが聞くべきか悩んていると、不意にこちらを見たブルクハルトと視線がかち合った。
「どうした?」
「ハルト様……えっと、ハルト。これからも私、孤児院に通って良い?」
「もちろんだ。俺にそんなことを聞く必要はないぞ。俺はティーナの行動を制限したりしない」
優しいブルクハルトの瞳を見れば、心の底からそう思ってくれていると分かる。
「私が街でウロウロしたら、ハルトの評判が悪くなるかもしれないわよ」
クリスティーナは念押しするように聞いた。クリスティーナはブルクハルトの優しさに甘えて、足を引っ張りたくはない。
「なるほど、俺のことを考えてくれたのか。ありがとう。でも、ヴェロキラ辺境伯家に対して意見を言える者はそういないから心配するな。身内に関しては王都の小難しい慣習を知る者も少ない」
「そうなの?」
ブルクハルトはクリスティーナの疑問に恥ずかしそうに笑う。ドリコリン伯爵家も貴族の社交に積極的ではないが、ブルクハルトの話を聞くと辺境伯家はそれ以上のようだ。ブルクハルトの母が平民出身であることもあり、辺境伯は王都のパーティにも数年に一度しか参加していないらしい。
「ヴェロキラ辺境伯家は大抵のことは免除されている。辺境の魔獣の危険に晒され、それを退け続ける責務があるからな」
伯爵領にいる魔獣と辺境の結界の外にいる魔獣では、赤子と成人くらいの力の差があると聞く。ブルクハルトの決意に満ちた顔を見ると少しだけ不安になった。
「ティーナ?」
「何でもありません。大丈夫よ」
クリスティーナは慌てて笑顔を作る。
「とにかく、ティーナはティーナのままでいてくれれば良いよ」
ブルクハルトは心配そうな顔をして、励ますようにクリスティーナの手を強く握り直してくれた。
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