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番外編:幼い日の記憶 〜二人の出会いの物語〜
20.森へ
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ブルクハルトはその後も時間の許す限りクリスティーナのそばにいてくれた。安全な町中での護衛が必要かは分からない。ただ、孤児院の少年たちは喜んでいるし、クリスティーナも共に過ごす時間は楽しい。すっかり伯爵領の首都では二人のことが有名になってしまったが、ブルクハルトに嫌がる様子はない。
「ハルト。次来るときに、一緒に森に行ってもらっても良い? 魔獣に挑戦しようと思うの」
「そうか。構わないぞ」
クリスティーナは剣術や弓の腕を改めて鍛え直し、気合を入れてブルクハルトに森への同行をお願いした。ブルクハルトと過ごすうちに、魔獣の悪夢に魘されることもなくなっている。今なら、前のように戦える気がしたのだ。
「お父様にも許可をもらったから、安心してね」
「許可してくれたのか。意外だな」
クリスティーナは心配してくれている家族に嘘をつきたくなかったので、伯爵にもきちんと話をした。最初は反対されたが、ブルクハルトと一緒に行くと言ったら、あっさり了承してくれたのだ。やはり、伯爵はブルクハルトの隠された強さも知っているのだろう。それについては、未だにブルクハルトから教えてもらえておらず、クリスティーナは疎外感があって悲しい。
数日後、クリスティーナたちはさっそく冒険者紹介所に向かった。ブルクハルトは辺境伯領の紹介所に登録済みで、クリスティーナより実績があるようだ。それを見て、受付の人も安心して二人を森へと送り出してくれた。
「静かだな」
「この辺りはネズミかうさぎの魔獣しか出ないのよ」
森の入口付近は今日も穏やかで、ネズミの魔獣が数匹いるだけだ。その中の一匹が向かってきたので、クリスティーナは剣を構える。
「ティーナ! 危ない!!」
ブルクハルトが焦ったように声をあげるので、クリスティーナはその声に驚いて怯む。クリスティーナが『危ない』敵を探しているうちに、ブルクハルトが目の前に移動していて、拳でネズミを殴り飛ばした。
「あー! 私の獲物だったのに!!」
ネズミの魔獣は可哀想なくらい吹っ飛んで、そのまま動かなくなった。近くに他の魔獣の気配はなく、どう考えても危ない状況ではない。
「何が獲物だ。怪我したらどうするんだよ! 今日は初日なんだから、ティーナは見学に決まってるだろう!」
振り返ったブルクハルトは怖いほどに目が真剣で、本気で危ないと思っていたことが分かる。クリスティーナの力を全く信用してくれていない。
「この前、模擬戦をしたときには『ティーナは強いな』って褒めてくれたじゃない!」
「あれはあくまで模擬戦じゃないか! 実戦と一緒にするな!!」
先日、クリスティーナはブルクハルトに模擬戦を挑んだが、かなり良い戦いをしたと思う。もっとも、ブルクハルトは魔法なし、クリスティーナは身体強化魔法を全力で使ってのハンデ戦だ。もちろん、クリスティーナが頼んだわけではない。
その日、クリスティーナの足にできた擦り傷を魔法で治しているときにも、ブルクハルトはかすり傷なのに心配そうに見守っていた。伯爵が森に入ることを許したのは、ブルクハルトが強いからではなく過保護だからではないかと疑いたくなってくる。
「そんなこと言うなら、今度から内緒で来るからね!」
「だめに決まってるだろう!?」
二人で言い合っていると、生き残っていたネズミの魔獣たちも怖がっていつの間にか逃げてしまっていた。これではなんのために来たのか分からない。
「弓矢だけなら良いでしょ? 魔獣の射程には入らないわ」
「そうだな。魔獣がこちらに気づいていないときなら攻撃しても良いことにしよう」
ブルクハルトもクリスティーナが引かないと分かって少しだけ譲歩してくれた。クリスティーナの出した妥協案より更に後退した気もするが、議論を続けていては日が暮れてしまう。
「分かったわ。最初はそれで良いわよ」
クリスティーナは仕方ないのでブルクハルトの案を受け入れる。クリスティーナの弓の腕を見れば、ブルクハルトももう少し譲歩してくれるだろう。
「『最初は』ってなんだ?」
「ちょっと、言葉を間違えただけよ。早く進みましょう」
「ああ」
ブルクハルトが疑うような視線を向けてきたが、クリスティーナは誤魔化してブルクハルトを急かすように歩き出した。
「ハルト。次来るときに、一緒に森に行ってもらっても良い? 魔獣に挑戦しようと思うの」
「そうか。構わないぞ」
クリスティーナは剣術や弓の腕を改めて鍛え直し、気合を入れてブルクハルトに森への同行をお願いした。ブルクハルトと過ごすうちに、魔獣の悪夢に魘されることもなくなっている。今なら、前のように戦える気がしたのだ。
「お父様にも許可をもらったから、安心してね」
「許可してくれたのか。意外だな」
クリスティーナは心配してくれている家族に嘘をつきたくなかったので、伯爵にもきちんと話をした。最初は反対されたが、ブルクハルトと一緒に行くと言ったら、あっさり了承してくれたのだ。やはり、伯爵はブルクハルトの隠された強さも知っているのだろう。それについては、未だにブルクハルトから教えてもらえておらず、クリスティーナは疎外感があって悲しい。
数日後、クリスティーナたちはさっそく冒険者紹介所に向かった。ブルクハルトは辺境伯領の紹介所に登録済みで、クリスティーナより実績があるようだ。それを見て、受付の人も安心して二人を森へと送り出してくれた。
「静かだな」
「この辺りはネズミかうさぎの魔獣しか出ないのよ」
森の入口付近は今日も穏やかで、ネズミの魔獣が数匹いるだけだ。その中の一匹が向かってきたので、クリスティーナは剣を構える。
「ティーナ! 危ない!!」
ブルクハルトが焦ったように声をあげるので、クリスティーナはその声に驚いて怯む。クリスティーナが『危ない』敵を探しているうちに、ブルクハルトが目の前に移動していて、拳でネズミを殴り飛ばした。
「あー! 私の獲物だったのに!!」
ネズミの魔獣は可哀想なくらい吹っ飛んで、そのまま動かなくなった。近くに他の魔獣の気配はなく、どう考えても危ない状況ではない。
「何が獲物だ。怪我したらどうするんだよ! 今日は初日なんだから、ティーナは見学に決まってるだろう!」
振り返ったブルクハルトは怖いほどに目が真剣で、本気で危ないと思っていたことが分かる。クリスティーナの力を全く信用してくれていない。
「この前、模擬戦をしたときには『ティーナは強いな』って褒めてくれたじゃない!」
「あれはあくまで模擬戦じゃないか! 実戦と一緒にするな!!」
先日、クリスティーナはブルクハルトに模擬戦を挑んだが、かなり良い戦いをしたと思う。もっとも、ブルクハルトは魔法なし、クリスティーナは身体強化魔法を全力で使ってのハンデ戦だ。もちろん、クリスティーナが頼んだわけではない。
その日、クリスティーナの足にできた擦り傷を魔法で治しているときにも、ブルクハルトはかすり傷なのに心配そうに見守っていた。伯爵が森に入ることを許したのは、ブルクハルトが強いからではなく過保護だからではないかと疑いたくなってくる。
「そんなこと言うなら、今度から内緒で来るからね!」
「だめに決まってるだろう!?」
二人で言い合っていると、生き残っていたネズミの魔獣たちも怖がっていつの間にか逃げてしまっていた。これではなんのために来たのか分からない。
「弓矢だけなら良いでしょ? 魔獣の射程には入らないわ」
「そうだな。魔獣がこちらに気づいていないときなら攻撃しても良いことにしよう」
ブルクハルトもクリスティーナが引かないと分かって少しだけ譲歩してくれた。クリスティーナの出した妥協案より更に後退した気もするが、議論を続けていては日が暮れてしまう。
「分かったわ。最初はそれで良いわよ」
クリスティーナは仕方ないのでブルクハルトの案を受け入れる。クリスティーナの弓の腕を見れば、ブルクハルトももう少し譲歩してくれるだろう。
「『最初は』ってなんだ?」
「ちょっと、言葉を間違えただけよ。早く進みましょう」
「ああ」
ブルクハルトが疑うような視線を向けてきたが、クリスティーナは誤魔化してブルクハルトを急かすように歩き出した。
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