【完結】婚約者が竜騎士候補に混ざってる

五色ひわ

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番外編Ⅱ:婚約者が青龍であることを隠してる

16.できること

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「あれ?」
 
 クリスティーナが目を覚ますと日が暮れていて、自分に割り当てられた客室のベッドに移動していた。ベッドを出ながら確認したが、服はブルクハルトのベッドで眠ってしまったときのままだ。寝室を出て隣のリビングに向かうと、いつものように使用人たちが待機していた。

「ティナお嬢様。お目覚めですか? 夕食もすぐにご用意できますが、いかが致しましょう?」

「えっと……」

 侍女たちが普通に接してくれるので、誰がどのくらい事情を把握しているのか分からない。こんな時に限ってベレニスの姿はなく、クリスティーナは状況が把握できないまま、再びブルクハルトのもとへ向かった。

「ティーナ?」

「ごめんなさい。もう寝るところだった?」

「いや、大丈夫だよ。どうした?」

 クリスティーナが寝室に入ると、ブルクハルトはベッドに横になっていた。眠ろうとしていた様子はなく、身体を起こしているのがまだ辛いのだろう。無理して起き上がろうとするので、やめるように強く言うと、ブルクハルトは嬉しそうな顔をする。

「良かった。いつものティーナだな」

「なんか微妙な気持ちになるから、その言い方やめて! その……心配かけてごめんね」

「よく眠れたか?」

「うん」

 クリスティーナが枕元の椅子に座るとブルクハルトが手を伸ばしてくる。クリスティーナがその手を握ると、ブルクハルトは微妙な顔をした。

「そんなことされたら、重病人みたいだろう。ティーナの魔力が回復したか知りたかったんだよ」

「ちゃんと寝てたって言ったでしょ」

 クリスティーナはブルクハルトの訴えを無視しようとするが、手を引っ込められそうになって諦める。手を握ったままおでこを押し当てると、ブルクハルトは納得したように力を抜いた。

「それで? 怖い夢でも見たか?」 

「子供じゃないんだから、そんなわけないでしょ。何で私が客室で寝てたのか聞きに来たの。誰に聞けば良いか分からないんだもの」

「ああ、そうだよな。ガスパールさんがティーナを探して、ここに来たんだよ。心配してたぞ」

「あっ!」

 そういえば、演習場を出るときにガスパールに声をかけるのを忘れていた。クリスティーナは三人も治療してクタクタで、早く帰りたいと言ったらパトリックが送ってくれたのだ。

「ガスパールさんに『迷惑かけた』って謝られたんだけど、今晩闇討ちに来たりしないよな」

 ブルクハルトはガスパールが来たときに殴られると思ったようだ。それなのに、ブルクハルトが説明する前にガスパールが謝罪してきたので逆に怯えている。

「ある訳ないでしょ。心配なら、ここに一緒にいるわよ?」

 万が一、ブルクハルトの言うとおりでも、クリスティーナが迎え撃てば、ガスパールは闇討ちをやめてくれるだろう。ブルクハルトのベッドに入ったら、またぐっすり眠ってしまいそうだが……

「一緒にいるとか恐ろしいこと言うなよ。そんなことしたら冗談にならなくなるだろう」

 ブルクハルトが肩を震わせるので、笑ってしまう。

「今朝、ハルトが寝ている間にお兄様が来て、エッカルトさんたちに治癒魔法をかけてたの。そのせいで私がこの部屋で寝ちゃったから、お兄様が謝ったんだと思うわ」

「エッカルトも怪我をしてたのか?」

「う、うん」

 ブルクハルトは他の竜人の状況がずっと気になっていたようだ。他にもまだ治療が出来ていない竜人がいると話すと、苦しそうな顔をした。クリスティーナは言わなければ良かったと後悔する。

「俺がもっと強ければ……」

 ブルクハルトが呟くように言った。クリスティーナには聴かせるつもりのない言葉だろう。

 青龍は一番強い龍だ。ブルクハルトは皆を守らなければという重圧の中で、これからも戦う。クリスティーナは、そんなブルクハルトに、なんと声をかければ良いのか分からない。

「ティーナ。明日も治療に行くのか?」

「うん。そのつもりよ。パトリックさんが迎えに来てくれることになってるの」

 クリスティーナは仮眠をとって今晩治療すると言ったが、パトリックに止められてしまった。クリスティーナが無理をしすぎると、つがいであるブルクハルトに伝わると言われれば従うしかない。

「そうか。大変だろうけど、よろしく頼む」

「うん、私に任せて」

 クリスティーナが他の竜人の治療も完璧にこなせば、少しはブルクハルトの心を軽くできるだろうか。クリスティーナはブルクハルトのためにも頑張ろうと笑顔で返事をした。
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