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番外編Ⅱ:婚約者が青龍であることを隠してる
23.おでかけ
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―半年後―
クリスティーナは大きなバスケットを抱えて、ヴェロキラ辺境伯邸の庭を歩く。石畳の上を進むと、噴水の前でブルクハルトが手持ち無沙汰な様子で立っていた。
今日は竜騎士選定中に約束していたお出かけの日だ。ブルクハルトは、青龍としての三回目の大規模討伐を無事に終え、やっと気持ちに余裕が出来たらしい。思い出して気まずそうに誘ってくれた。
『ごめん、ティーナ。どこでも行きたいところに連れてくよ』
謝ってくれたが、ずっと忘れられていたので、クリスティーナもさすがに怒っている。今日は思いっきり我がままを言うつもりだ。
『じゃあ、お庭の噴水前で待ち合わせね』
まずは待ち合わせ場所を指定させてもらった。いつもは迎えに来てくれるが、一度くらいは物語に出てくるような待ち合わせをしてみたかったのだ。心配性なブルクハルトも、クリスティーナが指定した待ち合わせ場所が敷地内だったので戸惑いながらも了承してくれた。
「ハルト。遅れてごめんね。待った?」
「そんなに待ってないよ。さっき、廊下で会っ……何で蹴るんだよ!」
ブルクハルトはクリスティーナが蹴った足を大袈裟に擦る。絶対避けられたのに避けない方が悪い。
「せっかく待ち合わせ場所を決めたのに、雰囲気出ないじゃない」
ブルクハルトが避けなかったのは、クリスティーナが空振りしてバスケットを持ったまま転んだりしないためだろう。そう思うと言い返す言葉に甘い響きが出てしまう。クリスティーナが誤魔化すようにブルクハルトを睨むと、微笑みを返された。クリスティーナの気持ちなどバレバレだ。
「悪かったよ。ほら、バスケットを渡せ」
クリスティーナは赤くなりながら、押し付けるようにバスケットを渡す。クリスティーナが困っているのが分かっているのに、あまり見ないでほしい。
「……」
クリスティーナは無言でブルクハルトの腕に自分の腕を絡ませる。見つめてくる青い瞳を避けるように、ブルクハルトの肩に頬を寄せた。ブルクハルトが声を殺して笑ったのが、肩の振動で伝わってくる。
「ハルト」
クリスティーナがいつもより低い声で名前を呼ぶと、ブルクハルトは咳払いを一つした。
「ところで、今日はどこに行くんだ?」
「目的地はこの先のお庭よ。青龍とピクニックをするの」
クリスティーナはガスパールに教えてもらった死角になる庭を指差す。辺境伯夫人に話したら、緊急時でなければ自由に使って良いと言ってくれたのだ。
「俺じゃなくて、青龍とピクニックなのか?」
「どっちもハルトでしょ。あっ、ジュリアンさんには、この前会ったときに許可をもらったから大丈夫よ」
「いや、ジュリアンは関係ないだろう?」
クリスティーナがジュリアンの立場なら、嫉妬しそうだが違うのだろうか。思い出してみれば、ジュリアンは不思議そうな顔をしていた気がする。今度からジュリアンへの報告は必要なさそうだ。
クリスティーナが恥ずかしさを隠して見上げると、ブルクハルトはなぜか不満そうな顔をしていた。
「なに? 私とピクニックするのは嫌なの? 約束なんだから、今日くらい付き合ってよ」
「別に嫌じゃないよ。ただ、普段の俺より青龍の姿の方が良いみたいで、複雑っていうか……」
「両方とも同じくらい格好良いわよ」
ブルクハルトはブツブツ言いながらも、東棟以外から見えない死角に入ると、青龍に姿を変える。間近で見るのは久しぶりだが、怪我もすっかり治っているようだ。クリスティーナはそのことに安心して、もふもふしたお腹に抱きついた。
【ティーナ。前から言いたかったんだけど、今の状態は人間の俺に抱きついているのと変わらないからな】
「知ってるわよ。なに当たり前のこと言ってるの?」
クリスティーナは、いつもより遠くにあるラピスラズリ色の瞳を見上げた。姿は違っても、いつものブルクハルトと纏う雰囲気は変わらない。
【分かってるなら良いんだ。他の龍には抱きついたら駄目だからな】
「そんな恥ずかしいことしないわよ」
クリスティーナはそんな風に言いながら、青龍のお腹に顔を埋めた。ブルクハルトだからこそ、この温もりに安心するのだ。他の龍に抱きつく理由などクリスティーナにはない。
【それなら別に良いよ】
ブルクハルトはそう言って、鋭い爪のついた手で、慎重にクリスティーナの頭を撫でた。
クリスティーナは大きなバスケットを抱えて、ヴェロキラ辺境伯邸の庭を歩く。石畳の上を進むと、噴水の前でブルクハルトが手持ち無沙汰な様子で立っていた。
今日は竜騎士選定中に約束していたお出かけの日だ。ブルクハルトは、青龍としての三回目の大規模討伐を無事に終え、やっと気持ちに余裕が出来たらしい。思い出して気まずそうに誘ってくれた。
『ごめん、ティーナ。どこでも行きたいところに連れてくよ』
謝ってくれたが、ずっと忘れられていたので、クリスティーナもさすがに怒っている。今日は思いっきり我がままを言うつもりだ。
『じゃあ、お庭の噴水前で待ち合わせね』
まずは待ち合わせ場所を指定させてもらった。いつもは迎えに来てくれるが、一度くらいは物語に出てくるような待ち合わせをしてみたかったのだ。心配性なブルクハルトも、クリスティーナが指定した待ち合わせ場所が敷地内だったので戸惑いながらも了承してくれた。
「ハルト。遅れてごめんね。待った?」
「そんなに待ってないよ。さっき、廊下で会っ……何で蹴るんだよ!」
ブルクハルトはクリスティーナが蹴った足を大袈裟に擦る。絶対避けられたのに避けない方が悪い。
「せっかく待ち合わせ場所を決めたのに、雰囲気出ないじゃない」
ブルクハルトが避けなかったのは、クリスティーナが空振りしてバスケットを持ったまま転んだりしないためだろう。そう思うと言い返す言葉に甘い響きが出てしまう。クリスティーナが誤魔化すようにブルクハルトを睨むと、微笑みを返された。クリスティーナの気持ちなどバレバレだ。
「悪かったよ。ほら、バスケットを渡せ」
クリスティーナは赤くなりながら、押し付けるようにバスケットを渡す。クリスティーナが困っているのが分かっているのに、あまり見ないでほしい。
「……」
クリスティーナは無言でブルクハルトの腕に自分の腕を絡ませる。見つめてくる青い瞳を避けるように、ブルクハルトの肩に頬を寄せた。ブルクハルトが声を殺して笑ったのが、肩の振動で伝わってくる。
「ハルト」
クリスティーナがいつもより低い声で名前を呼ぶと、ブルクハルトは咳払いを一つした。
「ところで、今日はどこに行くんだ?」
「目的地はこの先のお庭よ。青龍とピクニックをするの」
クリスティーナはガスパールに教えてもらった死角になる庭を指差す。辺境伯夫人に話したら、緊急時でなければ自由に使って良いと言ってくれたのだ。
「俺じゃなくて、青龍とピクニックなのか?」
「どっちもハルトでしょ。あっ、ジュリアンさんには、この前会ったときに許可をもらったから大丈夫よ」
「いや、ジュリアンは関係ないだろう?」
クリスティーナがジュリアンの立場なら、嫉妬しそうだが違うのだろうか。思い出してみれば、ジュリアンは不思議そうな顔をしていた気がする。今度からジュリアンへの報告は必要なさそうだ。
クリスティーナが恥ずかしさを隠して見上げると、ブルクハルトはなぜか不満そうな顔をしていた。
「なに? 私とピクニックするのは嫌なの? 約束なんだから、今日くらい付き合ってよ」
「別に嫌じゃないよ。ただ、普段の俺より青龍の姿の方が良いみたいで、複雑っていうか……」
「両方とも同じくらい格好良いわよ」
ブルクハルトはブツブツ言いながらも、東棟以外から見えない死角に入ると、青龍に姿を変える。間近で見るのは久しぶりだが、怪我もすっかり治っているようだ。クリスティーナはそのことに安心して、もふもふしたお腹に抱きついた。
【ティーナ。前から言いたかったんだけど、今の状態は人間の俺に抱きついているのと変わらないからな】
「知ってるわよ。なに当たり前のこと言ってるの?」
クリスティーナは、いつもより遠くにあるラピスラズリ色の瞳を見上げた。姿は違っても、いつものブルクハルトと纏う雰囲気は変わらない。
【分かってるなら良いんだ。他の龍には抱きついたら駄目だからな】
「そんな恥ずかしいことしないわよ」
クリスティーナはそんな風に言いながら、青龍のお腹に顔を埋めた。ブルクハルトだからこそ、この温もりに安心するのだ。他の龍に抱きつく理由などクリスティーナにはない。
【それなら別に良いよ】
ブルクハルトはそう言って、鋭い爪のついた手で、慎重にクリスティーナの頭を撫でた。
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