【完結】婚約者が竜騎士候補に混ざってる

五色ひわ

文字の大きさ
70 / 72
番外編Ⅱ:婚約者が青龍であることを隠してる

23.おでかけ

しおりを挟む
―半年後―

 クリスティーナは大きなバスケットを抱えて、ヴェロキラ辺境伯邸の庭を歩く。石畳の上を進むと、噴水の前でブルクハルトが手持ち無沙汰な様子で立っていた。

 今日は竜騎士選定中に約束していたお出かけの日だ。ブルクハルトは、青龍としての三回目の大規模討伐を無事に終え、やっと気持ちに余裕が出来たらしい。思い出して気まずそうに誘ってくれた。

『ごめん、ティーナ。どこでも行きたいところに連れてくよ』

 謝ってくれたが、ずっと忘れられていたので、クリスティーナもさすがに怒っている。今日は思いっきり我がままを言うつもりだ。

『じゃあ、お庭の噴水前で待ち合わせね』

 まずは待ち合わせ場所を指定させてもらった。いつもは迎えに来てくれるが、一度くらいは物語に出てくるような待ち合わせをしてみたかったのだ。心配性なブルクハルトも、クリスティーナが指定した待ち合わせ場所が敷地内だったので戸惑いながらも了承してくれた。

「ハルト。遅れてごめんね。待った?」

「そんなに待ってないよ。さっき、廊下で会っ……何で蹴るんだよ!」

 ブルクハルトはクリスティーナが蹴った足を大袈裟に擦る。絶対避けられたのに避けない方が悪い。

「せっかく待ち合わせ場所を決めたのに、雰囲気出ないじゃない」 

 ブルクハルトが避けなかったのは、クリスティーナが空振りしてバスケットを持ったまま転んだりしないためだろう。そう思うと言い返す言葉に甘い響きが出てしまう。クリスティーナが誤魔化すようにブルクハルトを睨むと、微笑みを返された。クリスティーナの気持ちなどバレバレだ。

「悪かったよ。ほら、バスケットを渡せ」

 クリスティーナは赤くなりながら、押し付けるようにバスケットを渡す。クリスティーナが困っているのが分かっているのに、あまり見ないでほしい。

「……」

 クリスティーナは無言でブルクハルトの腕に自分の腕を絡ませる。見つめてくる青い瞳を避けるように、ブルクハルトの肩に頬を寄せた。ブルクハルトが声を殺して笑ったのが、肩の振動で伝わってくる。

「ハルト」

 クリスティーナがいつもより低い声で名前を呼ぶと、ブルクハルトは咳払いを一つした。

「ところで、今日はどこに行くんだ?」

「目的地はこの先のお庭よ。ピクニックをするの」

 クリスティーナはガスパールに教えてもらった死角になる庭を指差す。辺境伯夫人に話したら、緊急時でなければ自由に使って良いと言ってくれたのだ。

「俺じゃなくて、青龍とピクニックなのか?」

「どっちもハルトでしょ。あっ、ジュリアンさんには、この前会ったときに許可をもらったから大丈夫よ」

「いや、ジュリアンは関係ないだろう?」

 クリスティーナがジュリアンの立場なら、嫉妬しそうだが違うのだろうか。思い出してみれば、ジュリアンは不思議そうな顔をしていた気がする。今度からジュリアンへの報告は必要なさそうだ。

 クリスティーナが恥ずかしさを隠して見上げると、ブルクハルトはなぜか不満そうな顔をしていた。 

「なに? 私とピクニックするのは嫌なの? 約束なんだから、今日くらい付き合ってよ」

「別に嫌じゃないよ。ただ、普段の俺より青龍の姿の方が良いみたいで、複雑っていうか……」

「両方とも同じくらい格好良いわよ」

 ブルクハルトはブツブツ言いながらも、東棟以外から見えない死角に入ると、青龍に姿を変える。間近で見るのは久しぶりだが、怪我もすっかり治っているようだ。クリスティーナはそのことに安心して、もふもふしたお腹に抱きついた。

【ティーナ。前から言いたかったんだけど、今の状態は人間の俺に抱きついているのと変わらないからな】

「知ってるわよ。なに当たり前のこと言ってるの?」

 クリスティーナは、いつもより遠くにあるラピスラズリ色の瞳を見上げた。姿は違っても、いつものブルクハルトとまとう雰囲気は変わらない。

【分かってるなら良いんだ。他の龍には抱きついたら駄目だからな】

「そんな恥ずかしいことしないわよ」

 クリスティーナはそんな風に言いながら、青龍のお腹に顔を埋めた。ブルクハルトだからこそ、この温もりに安心するのだ。他の龍に抱きつく理由などクリスティーナにはない。

【それなら別に良いよ】

 ブルクハルトはそう言って、鋭い爪のついた手で、慎重にクリスティーナの頭を撫でた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています

柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。 領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。 しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。 幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。 「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」 「お、畏れ多いので結構です!」 「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」 「もっと重い提案がきた?!」 果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。 さくっとお読みいただけますと嬉しいです。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

処理中です...