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三章 犯人を追って【オーギュスト】
第2話 指輪【ミシュリーヌ】
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派手すぎない繊細な指輪は、ミシュリーヌの好みにぴったりだ。誰のために準備されたのかは、聞かなくても分かる。
「指輪の内側を見てくれないか?」
オーギュストに言われて、ミシュリーヌは指輪を取り出した。内側には小さい文字が刻まれている。
「『ミシュリーヌへ オーギュストより愛を込めて』?」
「浄化が終わって、ミシュリーヌをこの国に縛り付ける理由はなくなった。それでも、私はミシュリーヌにそばにいてほしいと思っている。自由を得たミシュリーヌに、改めてプロポーズするつもりだったんだ……ミシュリーヌ? 大丈夫か?」
「だ、大丈夫です」
ミシュリーヌは赤くなった顔を隠すように、オーギュストに寄りかかる。オーギュストも返事が分かっていて聞いたのか、笑ってミシュリーヌの髪を撫でた。
ミシュリーヌは、オーギュストのほうこそ政略に縛られているのだと思っていた。愛しているからこそ、オーギュストに自由になってほしくて、それでもそばにいたくて悩んできたのだ。オーギュストも同じだったのだと思うと……心がぽかぽかと温かくなる。
「指輪を貸してくれるか?」
「はい」
ミシュリーヌが素直に指輪を差し出すと、オーギュストが宝石箱にしまってしまう。オーギュストがマジックバッグにしまうつもりなのだと気づいて、ミシュリーヌは端なくも、オーギュストの手首を掴んだ。
「わたくしの指にはめて下さらないのですか?」
「あんなことがあったんだ。嫌だろう? 改めて、ミシュリーヌに似合うものをプレゼントするから待っていてくれ」
オーギュストが離してくれと言うように自分の手首に視線を送っていたが、ミシュリーヌは離すつもりはない。オーギュストも無理に振りほどく気はなさそうた。
「わたくしは、その指輪がほしいです」
「ミシュリーヌ、無理しなくて良いんだよ」
オーギュストが悩み始めたのを見て、ミシュリーヌは宝石箱に手を伸ばす。オーギュストは思ったよりあっさりと渡してくれた。
ミシュリーヌの背中に腕が回されて、改めて二人で指輪を眺める。
「オーギュスト殿下がわたくしのためにデザインして下さった指輪ですもの。マジックバッグの中に眠り続けるなんて悲しいです」
「気づいていたのか……」
オーギュストが居心地悪そうに身動ぎする。
「やはり、そうなのですね。わたくしの好みをこんなに熟知している方は他にいらっしゃいませんわ」
ミシュリーヌが自慢げに胸を張ると、オーギュストが背後でクスリと笑った。
「ミシュリーヌのおかげで、我が国にも平和が戻ってきた。平和だからこそ作ることができた指輪なんだ。私もできればミシュリーヌに持っていてほしい」
国内でこれだけのものが作れたのは、他国に出ていった職人たちが戻ってきてくれたからだ。ミシュリーヌとオーギュストの平和への尽力が実った証でもある。
「サイズが合っていると良いのだが……」
オーギュストが指輪を改めて取り出したのを見て、ミシュリーヌは左手を出す。婚約指輪なら左手の薬指が定番だ。この国の古い風習だが、もとは聖女様が伝えた異世界の文化だったとされている。
オーギュストはぎこちない手つきで、薬指に指輪をはめてくれる。先日、オーギュストに返してもらった結婚の際にもらった腕輪ともよく合っている。そちらは、ミシュリーヌの祖国であるモルフォ帝国の風習に則ったものだ。
ミシュリーヌが二つの証を眺めていると、後ろからギュッと抱きしめられる。
「よく似合ってる」
「ありがとうございます」
耳元で囁かれて、ミシュリーヌは赤くなる。
「ミシュリーヌ」
優しく呼ばれて振り返ると、青い瞳が熱っぽくミシュリーヌを見ていた。ミシュリーヌが瞳を閉じると、触れるだけの口づけが落とされる。
「殿下、愛しています」
ミシュリーヌは囁いて、離れていく唇を追いかけた。オーギュストが驚いているのを感じたが、ミシュリーヌは気にせず唇を奪った。
「指輪の内側を見てくれないか?」
オーギュストに言われて、ミシュリーヌは指輪を取り出した。内側には小さい文字が刻まれている。
「『ミシュリーヌへ オーギュストより愛を込めて』?」
「浄化が終わって、ミシュリーヌをこの国に縛り付ける理由はなくなった。それでも、私はミシュリーヌにそばにいてほしいと思っている。自由を得たミシュリーヌに、改めてプロポーズするつもりだったんだ……ミシュリーヌ? 大丈夫か?」
「だ、大丈夫です」
ミシュリーヌは赤くなった顔を隠すように、オーギュストに寄りかかる。オーギュストも返事が分かっていて聞いたのか、笑ってミシュリーヌの髪を撫でた。
ミシュリーヌは、オーギュストのほうこそ政略に縛られているのだと思っていた。愛しているからこそ、オーギュストに自由になってほしくて、それでもそばにいたくて悩んできたのだ。オーギュストも同じだったのだと思うと……心がぽかぽかと温かくなる。
「指輪を貸してくれるか?」
「はい」
ミシュリーヌが素直に指輪を差し出すと、オーギュストが宝石箱にしまってしまう。オーギュストがマジックバッグにしまうつもりなのだと気づいて、ミシュリーヌは端なくも、オーギュストの手首を掴んだ。
「わたくしの指にはめて下さらないのですか?」
「あんなことがあったんだ。嫌だろう? 改めて、ミシュリーヌに似合うものをプレゼントするから待っていてくれ」
オーギュストが離してくれと言うように自分の手首に視線を送っていたが、ミシュリーヌは離すつもりはない。オーギュストも無理に振りほどく気はなさそうた。
「わたくしは、その指輪がほしいです」
「ミシュリーヌ、無理しなくて良いんだよ」
オーギュストが悩み始めたのを見て、ミシュリーヌは宝石箱に手を伸ばす。オーギュストは思ったよりあっさりと渡してくれた。
ミシュリーヌの背中に腕が回されて、改めて二人で指輪を眺める。
「オーギュスト殿下がわたくしのためにデザインして下さった指輪ですもの。マジックバッグの中に眠り続けるなんて悲しいです」
「気づいていたのか……」
オーギュストが居心地悪そうに身動ぎする。
「やはり、そうなのですね。わたくしの好みをこんなに熟知している方は他にいらっしゃいませんわ」
ミシュリーヌが自慢げに胸を張ると、オーギュストが背後でクスリと笑った。
「ミシュリーヌのおかげで、我が国にも平和が戻ってきた。平和だからこそ作ることができた指輪なんだ。私もできればミシュリーヌに持っていてほしい」
国内でこれだけのものが作れたのは、他国に出ていった職人たちが戻ってきてくれたからだ。ミシュリーヌとオーギュストの平和への尽力が実った証でもある。
「サイズが合っていると良いのだが……」
オーギュストが指輪を改めて取り出したのを見て、ミシュリーヌは左手を出す。婚約指輪なら左手の薬指が定番だ。この国の古い風習だが、もとは聖女様が伝えた異世界の文化だったとされている。
オーギュストはぎこちない手つきで、薬指に指輪をはめてくれる。先日、オーギュストに返してもらった結婚の際にもらった腕輪ともよく合っている。そちらは、ミシュリーヌの祖国であるモルフォ帝国の風習に則ったものだ。
ミシュリーヌが二つの証を眺めていると、後ろからギュッと抱きしめられる。
「よく似合ってる」
「ありがとうございます」
耳元で囁かれて、ミシュリーヌは赤くなる。
「ミシュリーヌ」
優しく呼ばれて振り返ると、青い瞳が熱っぽくミシュリーヌを見ていた。ミシュリーヌが瞳を閉じると、触れるだけの口づけが落とされる。
「殿下、愛しています」
ミシュリーヌは囁いて、離れていく唇を追いかけた。オーギュストが驚いているのを感じたが、ミシュリーヌは気にせず唇を奪った。
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